第10話 遺された光
エリオットは、リオネルが消え去った祭壇の前に佇んでいた。そこには、リオネルの痕跡は何一つ残されておらず、ただ静寂だけが支配していた。彼の目には、リオネルが儀式の最後に放った光の残像が、まだ焼き付いていた。それは、リオネルが自らの命を賭して王国を守るために捧げた、最後の希望の光だった。
エリオットは深く息を吸い込み、胸の中に押し寄せる感情を抑えようとした。リオネルが行った儀式の意味を理解し、その重みを受け止めようと必死だった。だが、彼の胸には、それでもなお拭いきれない喪失感と虚しさが残っていた。
「リオネル様……あなたは本当にこれでよかったのですか?」
その問いは、エリオットの心の中で何度も繰り返された。リオネルが自らの命を犠牲にしてまで守ろうとした王国。その王国は、これからどのように変わっていくのか、エリオットにはまだ見通すことができなかった。
彼は、静かにその場を後にしようとしたが、ふと足を止めた。祭壇の隅に、何かが微かに光を放っているのが目に入ったのだ。エリオットはその光に引き寄せられるように歩み寄り、膝をついてそれを拾い上げた。
それは、小さな水晶のペンダントだった。リオネルが儀式の際に使用したものか、それとも彼が遺したものなのかは分からなかったが、エリオットはそれを手に取ると、微かに光を放つその美しい輝きに目を奪われた。
「これが、リオネル様の遺したもの……」
エリオットはそう呟きながら、そのペンダントを手のひらでそっと包み込んだ。リオネルが最後に残したこの光が、彼にとっての希望の象徴であることを感じた。彼はそのペンダントを慎重にポケットにしまい、再び立ち上がった。
「リオネル様……あなたの遺志を無駄にはしません。この王国を守るために、あなたの意志を受け継ぎます。」
エリオットはそう心に誓い、神殿を後にした。外に出ると、夜明けが近づいており、東の空がうっすらと明るみ始めていた。冷たい朝の風が彼の頬を撫で、彼の心を少しだけ冷静にさせてくれた。
彼は、リオネルが遺した光を胸に抱きながら、エストリアの街へと向かった。これから何をすべきか、どのようにリオネルの遺志を継いでいくかを考えながら、彼は王都へと歩みを進めた。
エリオットが向かったのは、王宮の中でも特に静かな一角にある庭園だった。そこは、リオネルが生前に好んで訪れていた場所でもあり、エリオットにとっても特別な思い出のある場所だった。彼はその庭園のベンチに腰を下ろし、しばらくの間、静かに思いにふけっていた。
庭園には、朝露に濡れた草花が静かに風に揺れていた。エリオットは、その美しい光景を見つめながら、リオネルがこの王国を守るために命を捧げたことを再び心に刻んだ。彼が守ろうとしたこの国を、これからどう導いていくべきか。エリオットは自らに問いかけた。
その時、遠くから足音が聞こえた。エリオットは顔を上げ、その方向を見つめた。そこには、アイリスが静かに歩み寄ってきていた。彼女はエリオットの姿を見つけると、微笑みを浮かべながら近づいてきた。
「エリオット……あなたがここにいるとは思わなかったわ。」
アイリスはそう言いながら、エリオットの隣に座った。彼女の目には、どこか安堵の色が浮かんでいたが、同時に何かを察しているかのような鋭い視線があった。
「リオネル様の儀式が終わったんだね。」
エリオットは静かに頷いた。アイリスはその答えに深く息を吐き、しばらくの間、言葉を発しなかった。彼女もまた、リオネルが命を賭して王国を守ったことを理解していた。
「彼が残したもの……それは王国にとって非常に大きなものだと思う。そして、それをどう生かすかは、私たち次第だ。」
アイリスの言葉に、エリオットは再び頷いた。彼女の言う通り、リオネルが遺したものは、王国の未来を左右する大きな遺産だった。それをどう守り、どう導いていくかが、エリオットの新たな使命となることを彼は理解していた。
「これからが本当の試練かもしれない……リオネル様が遺した光を、私たちがどう受け継ぐか。それが、この王国の未来を決めることになる。」
エリオットの言葉に、アイリスは深く頷いた。彼女の目には、強い意志が宿っており、これからの道を共に歩んでいく覚悟が感じられた。
「私たちができることをやりましょう。リオネル様の犠牲を無駄にしないためにも。」
アイリスの言葉に、エリオットは静かに微笑んだ。彼の胸には、リオネルが遺した希望の光が確かに輝いていた。そして、それを胸に刻みながら、彼は新たな未来を切り開くために歩みを進める決意を固めた。
「リオネル様……あなたが守ったこの王国を、私たちが引き継ぎます。そして、その光を未来へと繋いでいきます。」
エリオットはその言葉を胸に誓い、アイリスと共に新たな一歩を踏み出した。王国は今、新たな光の下で生まれ変わろうとしていた。そして、その光を守り続けるために、エリオットとアイリスはこれからも戦い続けることを決意した。
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