第4話 這い上がる。

翌日、近くの室内練習場を借り、西本と待ち合わせた。

「本当に投手やる気か?」

キャッチャーミットをはめた西本が笑いながら言った。

「やるよ。本気でな。」

俺はそう言いながら、マウンドに立った。


久しぶり投げる球。高校時代は投手も少しやっていたが、プロになってからはほとんどやっていなかった。


実は投手をやらないかという話もあったが、プロア交流戦の時登板した際、炎上したためなしになった。


力任せに投げ込んだボールはミットを大きく外れ、西本はボールを追いかけて苦笑いを浮かべた。

「肩は強いが、コントロールはなさそうだな。まだまだこれからだ。」


俺たちはそこから毎日、数時間の練習を続けた。西本は捕手として俺のフォームや投げる球筋を的確にアドバイスしてくれた。

「お前のストレートはいいけど、もう少し体を使え。それと、変化球を磨け。」


ストレートは140km後半が出ているが、どうも変化球の制球が定まらない。ウイニングショットのスライダーも久々すぎて全然ストライクが入らなかった。


「お前がいるから、投手としてやれる気がするよ。」

ある日、そう言うと、西本はミットを叩きながら笑った。

「馬鹿言うな。俺がいなくてもお前はやれるさ。でも、俺も楽しんでるんだ。久々にお前とバッテリー組めてな。」


西本との練習は、俺にとって大きな支えになった。次第に球筋が安定し、変化球も形になり始めた。


西本との練習は順調に進んだ。ストレートのキレは確実に良くなり、カーブやスライダーも形になりつつあった。

西本は言った。

「これなら十分勝負できる。お前、案外投手に向いてるかもしれねぇな。」


その言葉がどれほど励みになったか。

俺はひたすら投げ続け、夜はフォーム動画を確認して改善点を探る日々を過ごした。

自分でもわかる。この数週間で、俺は少しずつ投手として成長していると。


そして迎えた、入団テストの前日。

夜、自宅のベッドに横になっても、なぜか胸がざわつく。目を閉じても眠れず、スマホを手に取る。

西本との練習動画を何度も見返したが、不意に思ってしまう。


「本当にこれで通用するのか?」


ふと、昔の自分が脳裏に浮かぶ。

かつて内野手として輝いていた頃。その後2軍でくすぶり、ついには自由契約となった瞬間。

俺はその全てを振り払おうとしたが、頭の中では繰り返し再生される。


翌朝、神奈川にあるグラウンドに到着した。ジャイアンツの内田投手コーチが、鋭い目つきでこちらを見ている。


「大丈夫だ、俺ならやれる。」


だが、足が重い。

いざブルペンに立ったとき、手のひらがじっとりと汗ばむ。最初の一球を投げ込むと、それは大きくキャッチャーミットを外れた。


コーチが何かをメモするのが見える。

「落ち着け…あいつの言葉を思い出せ。」


そう自分に言い聞かせたが、不安は簡単には消えない。

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