第3話 運命の入団テスト
戦力外が公表されてから数日が経った。
その間、俺は家で過ごす時間が増えた。テレビをつければ野球のニュース。SNSを開けばファンからの励ましと同情のメッセージ。どれも俺の心をチクチクと刺す。
そんな中、スマホが突然鳴り響いた。
見慣れない番号からの着信。胸が高鳴るのを感じながら、急いで電話を取った。
「東條選手でしょうか?こちら東京ジャイアンツの西岡と申します。」
一瞬、耳を疑った。ジャイアンツ?夢か?それとも何かの冗談か?
だが、電話口の声は真剣そのものだった。
「突然のご連絡、失礼します。実は……」
担当者は続けた。彼らは俺の投手としての可能性に注目しているらしい。かつての内野手としての肩の強さとコントロールに加え、2軍でのピッチング練習を評価したとのことだった。
「投手として一度、入団テストを受けていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
俺は息を呑んだ。まさかの提案に、心の中で動揺が広がる。だが、すぐに答えは出た。
「ぜひお願いします。」
電話を切った後、俺はソファに崩れ落ちた。体の奥から湧き上がる緊張と興奮が混じり合う。
それから数分間、俺はただ天井を見つめていた。
「まだ俺を見てくれる球団がある。まだ終わっちゃいない。」
そう自分に言い聞かせながら、次のステージへの準備を始める覚悟を固めた。
東京ジャイアンツは2024年度、見事優勝を果たしたチームだ。2024年は投手陣が奮闘し、優勝に大きく貢献した。正直打線は物足りないチームだ。
きっとフロントは打てる野手を欲しているはずだが、そこは外国人などで補うつもりなんだろう。
ジャイアンツの投手になるんだから、きっと激しい競争になるに違いない。特にリリーフは入る隙がないだろう。
また来シーズンから大日の絶対的守護神、ライネル・マルティノスがFAで巨人にやってくる。ただでさえ厚いリリーフ陣にさらに厚みが増す。
俺の野球人生がかかった入団テストまでは時間がある。なんとか仕上げなくてはならない。
夜、自宅で練習計画を立てながら、俺はスマホを手に取った。
投手として再起を図るには、まず自分の球を試す必要がある。だが、受けてくれる相手がいないと話にならない。
画面をスクロールしていき、ある名前で指が止まる。
「西本…アイツしかいないな。」
俺たちは高校時代のチームメートだった。俺が内野手としてプレーしていた頃、アイツは正捕手としてチームを支えてくれていた。社会人野球を経て、今は地元でトレーナーをしていると聞いていた。
「久しぶり、東條だ。」
電話越しの西本は驚きながらも懐かしそうな声を出した。
「おいおい、どうしたんだよ急に?大物プロ選手が俺なんかに電話なんて珍しいな。」
「……まあ、そういうことじゃないんだ。頼みがある。」
俺は投手転向の話と、練習相手が必要なことを正直に話した。
しばらくの沈黙の後、電話越しに西本が笑い声を漏らす。
「お前が投手かよ。正直、想像つかねぇな。でも、面白そうだ。受けてやるよ。」
西本の快諾に、俺は肩の力が抜けた。久々にアイツと再会できることが、心のどこかで嬉しかった。
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