ラボラボラボ

春雷

第1話

 その博士の名は、菅原と言った。妙な研究ばかりしている人で、僕はただ近所に住んでいるというだけで、実験を手伝わされたりしていた。今回も実験のため呼び出された。野球部の活動があると言うのに、まったく。博士は、齢八十を超えたおじいさんなのに、とにかく元気いっぱいなのだ。

「何の実験をするんですか? 博士」

「ふむ。今回は大爆発体験装置じゃ」

「何ですかそれは、物騒な感じがしますが」

「簡単に言えば、大爆発をしても、身体が吹き飛ばないという装置じゃ」

「どういう目的で作ったんですか、それ」

「ギャグ漫画等の表現で、爆発に巻き込まれて、頭がもじゃもじゃになるやつ、あるじゃろ? アフロみたいになるやつ。あれをやりたくての」

「どうしてあれをやってみたいと・・・」

 しかも実験体になるのは僕だ。危険に晒されるのはいつも僕。いくらバイト代がたくさん出ると言っても、命がなくなったんじゃ意味がない。

 実験室はもので溢れかえっているので、それらをどかし、博士は問題の装置を持ってきた。冷蔵庫みたいな機械から、ホースが伸びている。

「このホースに口をつけ、そこから特殊な薬剤を吸引するのじゃ。すると、不思議なことに、肉体の耐久性が向上し、爆風にも耐えられるようになる」

 との博士の説明。しかしどうにも、僕には疑わしくってしょうがない。

「本当に大丈夫なんですか、あの、ラットとかでちゃんと試しました?」

「ラットの命もお前の命も等価じゃ。安心せい」

「いや、全然安心できないんですけど」

 文句を垂れる僕の口に、博士は容赦なくホースを突っ込む。僕はしばらくジタバタと抵抗したが、もはや何を言っても、やっても、博士の執念深さは異常だから、無駄だなと判断し、抵抗するのをやめた。

 ホースから薬を吸入する。特に粉っぽいなとかは感じない。普通の空気を吸い込んでいるのと大差ない。

 博士はポケットから爆弾を取り出して、僕に握らせた。

「5分後爆発する。頭がもじゃもじゃになるよう調整した爆弾じゃからな。これ一個しかないから。失敗のないようにな」

 そう言って、博士は研究所の外へ逃げ出した。

 それにしても、と思う。博士は確かに天才かもしれないが、一旦何かに夢中になると、視野が急激に狭まる傾向がある。たとえば、この実験はそもそも成功するはずがないのに、博士は成功を疑っていない。博士には、僕の一部分が見えていない、いや、より正確な言い方をするなら、博士はこの実験においてもっとも重要な前提条件を見逃している、のだ。

 どがああん。

 手に持っていた爆弾が爆発した。僕は爆風に身を晒す。

 不思議なことに、熱さも痛みも感じない。体感としては、そよ風が吹いた程度だ。博士の腕を多少は疑ったが、やはり薬も爆弾も計算通り、上手くいっている。

 しかし、と僕は思う。

 肝心の部分が・・・。

 博士は、僕の言葉をロクに聞いちゃくれないからな。こうして結果で示すしかないのだ。

 博士が研究室に戻ってくる。

「どうじゃ! 上手くいったか!」

 博士は僕に近寄ってきた。はじめはニコニコしていたが、やがてあることに気づき、絶句した。僕の頭を触りながら、こう言った。

「お前・・・、坊主頭じゃないか」

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ラボラボラボ 春雷 @syunrai3333

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