DIVE in the UNKNOWN

灼熱の砂漠を歩き続けたキットたちの前に、一筋の希望の光が見えた。それは、蜃気楼のように揺らめくオアシスだった。緑豊かな木々と澄んだ水が広がり、疲れ切った身体を癒してくれるかのように見える。しかし、これまで幾多の罠を乗り越えてきたキットには、この光景がただの幻想であるとは思えなかった。


「これも罠かもしれない。気を緩めるな。」


キットは仲間たちに警告しながら、オアシスに近づいた。砂漠の中で目にするこの景色は、あまりにも現実離れしている。だが、乾ききった喉と焼けつくような太陽の下では、その誘惑に抗うことは容易ではなかった。


「少しだけ…水を飲もう。」


仲間の一人がそう言ってオアシスに手を伸ばす。しかし、その瞬間、彼の手が水に触れると、目の前の景色が一変した。オアシスが消え去り、代わりに無数の鏡の迷宮が姿を現したのだ。鏡に映し出されたのは、キットたち自身の姿。だが、それは単なる反射ではなかった。


「これって…一体どういうことだ?」


鏡に映る自分たちの姿が、まるで独自の意志を持っているかのように動き始めた。キットはその異様な光景に警戒しつつ、鏡の中の自分を見つめた。すると、鏡の中のキットが微笑みを浮かべ、その瞬間、鏡の中から手が伸び、キットに襲いかかってきた。


「くそっ!」


咄嗟に避けたキットだったが、仲間たちも同様に鏡の中の自分と戦わざるを得なくなった。鏡に映るもう一人の自分は、まるで本物と同じ動きと力を持っており、簡単には倒せない。鏡の迷宮は、彼らに自分自身と向き合わせる罠だった。


「これはただの幻影じゃない。本物の罠だ!」


キットは冷静さを保ちつつ、鏡の自分と戦い続けた。しかし、鏡の迷宮はますます複雑になり、彼らを混乱させる。仲間たちは次第に力を失い、鏡の自分に押され始めた。絶望感が漂い始めたその時、キットはあることに気づいた。


「鏡を壊せば…!」


キットは瞬時に判断し、近くの鏡を叩き割った。その瞬間、鏡の中の自分が消え去り、迷宮の一部が崩れ始めた。キットは仲間たちに声をかけ、同じように鏡を壊すように指示した。


次々と鏡が割れる中で、迷宮全体が崩壊していき、やがてキットたちは元の砂漠に戻ってきた。しかし、その代償は大きかった。何人かの仲間が倒れ、動かなくなっていた。彼らはこの罠の中で、命を失ってしまったのだ。


「くそ…」


砂漠を抜け、かろうじて生き延びたキットたちは、新たな領域に足を踏み入れた。そこは「VOID」と名付けられた場所。虚無に包まれた、まるで空間そのものが存在しないかのような不気味な場所だった。周囲は一面、暗闇に覆われ、足元さえも見えない。唯一の光源は、キットが手に持つ小さな懐中電灯だけで、その光もすぐに闇に飲み込まれてしまいそうなほど微弱だった。


「ここは…一体何なんだ?」


キットは周囲を警戒しながら呟いた。暗闇の中で仲間たちの姿はほとんど見えないが、かすかに聞こえる息遣いから、彼らがまだ共にいることがわかった。しかし、この異様な空間は、それだけで彼らの心を圧迫し、不安と恐怖を増大させた。


「何かがいる…」


一人の仲間が囁くように言った。その瞬間、闇の中で何かが動く気配を感じた。キットは瞬時に体を緊張させ、懐中電灯の光をそちらに向けた。しかし、光が届く範囲には何も見えない。だが、確かに何かがそこにいることを感じた。


「みんな、静かに。」


キットは声を潜めて指示した。仲間たちもその言葉に従い、息を潜めた。しかし、闇の中で何かが蠢く音が、徐々に彼らに近づいてくる。キットは心臓が早鐘を打つのを感じながら、その音の正体を探ろうとした。


突然、鋭い風が彼らの頭上を通り過ぎた。何かが高速で移動している。キットは反射的に身をかがめ、その瞬間、巨大な影が彼らを襲いかかろうとするのを目撃した。それはまるで生き物のような形をしていたが、具体的な形状は闇に溶け込み、判別できなかった。


「避けろ!」


キットは叫び、仲間たちに指示を出した。しかし、次の瞬間、何人かの仲間が闇の中に消え去り、彼らの叫び声が虚しく響いた。キットはその場に立ち尽くし、目の前の状況に打ちのめされそうになるが、何とか冷静さを保とうとした。


「くそ…あれは一体…?」


キットは息を整えながら、懐中電灯を再び振りかざした。しかし、その光はすぐに闇に吸い込まれ、影の正体を暴くことはできなかった。ただ、一つだけ確かなのは、この「VOID」が単なる暗闇ではなく、何か恐ろしい存在が潜んでいる場所だということだった。


「みんな、ここから早く出るんだ!」


キットは叫び、残った仲間たちに逃げるよう促した。しかし、逃げる方向すらわからないこの空間で、どこに向かえば安全なのかは誰にもわからなかった。キットはただ闇の中で手探りに進むしかなかった。


その時、突然、前方に微かな光が見えた。キットはその光に希望を見出し、仲間たちと共にそちらに向かって走り出した。だが、その光はまるで彼らをからかうかのように、近づくとまた遠ざかる。キットは何度も光を追いかけようとしたが、その度に希望が遠のいていく。


「これも罠か…?」


キットは立ち止まり、冷静に考えた。この空間にはこれまでとは違う、見えない力が働いているように感じた。光は彼らを救うものではなく、むしろ闇の中で彼らを惑わせるための罠かもしれないと。


「この光を追いかけても、きっと何も得られない。みんな、別の方法を探そう。」


キットの言葉に、仲間たちは戸惑いながらも従った。彼らは再び暗闇の中を進み始めたが、その先には何も見えない。まるでこの「VOID」は彼らの意志を試すかのように、出口を隠しているようだった。


しばらく歩き続けた後、突然、キットは足元が揺れるのを感じた。地面が動いている…いや、沈んでいる。彼は驚いて足元を確認したが、そこには何も見えない。ただ、確かなことは、彼らが立っている地面が崩れ始めているということだった。


「まずい、地面が…!」


キットは叫び、仲間たちを急かしたが、次の瞬間、足元が完全に崩れ落ち、彼らは虚無の中へと落ちていった。まるで底なしの奈落に吸い込まれるかのように、彼らの身体は無重力状態になり、どこへ向かっているのかすらわからないまま、ただ落下し続けた。


「これで…終わりなのか…?」


キットは意識が遠のき始めるのを感じながらも、何とか意識を保とうとした。しかし、視界が暗転し、次第に全ての感覚が消えていく。彼はそのまま虚無の中に飲み込まれ、全てが無に帰す感覚を味わった。


キットが目を覚ますと、そこは完全に見知らぬ場所だった。何か柔らかい感触が背中にあり、彼は徐々に視界が回復していくのを感じた。目の前には薄明かりがあり、周囲には見慣れない建物や風景が広がっていた。


「ここは…どこだ…?」


キットは呆然としながら立ち上がり、周囲を見渡した。仲間たちはどうなったのか、彼にはわからなかった。ただ一つ言えるのは、彼がまだ生きているということ。そして、この未知の場所が、さらなる試練の始まりであるということだった。

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