第6話

 それから、私達はマサト君が鞄から出した犬の案内に従って逃がしたツチノコの後を追っていた。

 あいつが本物のツチノコを利用して擬態した生き物なら本物の居場所も知っているはずだ。

 そして、撃退された今ならボスの元へ戻ろうとするはずだ。気づかれないように慎重に後を付ける。

 風下なのは幸いだった。犬の足取りに迷いはなく、匂いをしっかりと捉えているようだった。


「ねえ。本当に大丈夫かな?」


 ミハルちゃんが心配そうに呟く。


「もしかして、ミハルちゃん怖いの?」

「べ、別にそういう訳じゃ……」

「でも、ミハルちゃんこういうの苦手そうだよね」


 ユウタ君が言った。


「そ、そんなことないもん!」


 ミハルちゃんがムキになって反論する。すると、カエデちゃんが口を開いた。


「怖かったら、私の腕でも掴んでてもいいわよ」

「え? う~ん……でも……」

「遠慮しないで」


 カエデちゃんが笑顔で言う。


「わ、わかった。じゃあ……」


 ミハルちゃんはカエデちゃんの腕を掴んだ。


「ありがとう」

「えへへ……」


 ミハルちゃんは照れ臭そうな表情を浮かべる。どうやら少しは恐怖心が和らいできたみたいだ。


「ミハルちゃんはかわいいなぁ……」

「ちょっと、ユイさんまでからかわないでよ!」

「ごめん、ごめん。つい本音が……」

「もう!」


 私達が話しているうちに、ツチノコはどんどん先に進んでいく。そして、私達の目の前には洞窟の出口が見えてきた。


「入ってきたのとは別の出口だ。やはりあったんだな」

「風はあそこから流れ込んできているのか」

「もうすぐ本物のツチノコに会えるよ!」

「やったぁ!」


 ミハルちゃんが嬉しそうに言う。しかし、カエデちゃんは冷静だった。


「油断は禁物よ。気を引き締めていきましょう」

「うん!」


 私達はツチノコの後に続いた。洞窟を抜けると眩しい日差しが降り注ぐ。私達は目を細め、やがて明るさに慣れてきた目に見えてきた。


「これは……」


 私達は驚愕した。そこには巨大な穴が空いていたからだ。周りは高い山に囲まれていて見通しが悪い。おそらく、これが本物のツチノコが住んでいる場所だろう。


「まさしく秘境っていう感じ」

「この森にこんな場所があったなんて」

「本当にここに入るの?」


 私は尋ねた。おそらく引き返すなら今のうちだ。大人を呼んでくるという手もあるだろう。

 ツチノコがそれまでここにいる保証は無いし、みんなを見れば行きたがっているのは明らかだったが。

 みんなツチノコを探すためにここに来たのだ。答えなど決まっていた。


「もちろんです」

「うぅ……やっぱり不安だよ」

「ミハルちゃん。しっかりして」

「だってぇ……」

「私が付いているから安心してください」

「カエデさん……」

「私達はもう仲間じゃないですか」

「そうですね! 頑張ります!」

「よし! 行くぞ!」


 カケル君の言葉にみんなが応えた。いよいよ突入する時が来たのだ。


「では、まずは私が先陣を切ります」

「お願いします」

「任せなさい!」


 そう言って、カエデちゃんは大穴の中に飛び込んだ。それに続いてみんなが入る。


「ここが本当のツチノコがいるところ?」

「わかりません。ただ、ここまで来た以上、進むしかないでしょう」

「そうだね」


 私達は慎重に歩を進める。だが、途中で予期せぬ反撃にあってしまった。岩の陰からここまで付けてきた偽のツチノコが襲い掛かってきたのだ。


「ツチノコ!?」

「違う! さっきまで付けていた偽物の方だ!」

「感づかれたか!」


 マサト君はすぐに犬を下がらせて応戦に出る。カケル君やユウタ君も果敢に戦った。


「ユイ! ここは俺達に任せて先に行け!」

「でも!」

「本物に知られたら逃げられる可能性があります。事は一刻を争います!」

「分かった!」


 ダイスケ君の言葉に私はカエデちゃんやミハルちゃんとともに駆けだそうとするが、それを見逃す偽のツチノコではない。


「ギャウ!」


 尻尾を振って襲い掛かってくるが、カケル君達が協力して胴体を掴んで引っ張ったお陰で届くことはなかった。

 もうもうと立ち込める土煙の中で彼らの声が届く。


「偽のツチノコ! お前の相手はこっちだ!」

「今のうちに先に進んでください!」

「ギャウッ!」


 戦いの音は遠ざかり、やがて土煙が晴れて見えるようになった頃、彼らの姿はここになかった。

 私達はカケル君達とはぐれてしまったのだ。


「カケル君達は?」

「分からない。でも……」

「進むしかないね。やっとツチノコが拝めるんだから」


 そして、しばらく進んだところで開けた場所に辿り着いた。

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