第4話

 それから一時間後。

 手分けしての探索を終えた私達は再び集まって池のほとりに座って休憩していた。


「見つからないねぇ」


 ミハルちゃんがため息をつく。


「そうだね」


 同意しながら池の方を見た。相変わらず水面には魚の姿しか見えない。


「もしかして、ツチノコはもう山奥の方へ帰っちゃったのかな?」

「ならもう見つからないかな……」


 私は肩を落とす。ツチノコを捕まえるのはもう無理そうかな。


「でも、まだ諦めちゃダメだよ」

「そうそう。絶対どこかにいるはずだよ」


 カケル君とユウタ君が励ましてくれる。その時だった。


「あっ、あれ見て!」


 カエデちゃんの声に全員が振り返った。


「ツチノコだ!」


 指差す先には一匹のツチノコがいた。こちらに近づいてくる。


「あれがツチノコなの!? 目撃情報はあるのに誰も捕まえたことがない?」

「間違いありません。目撃情報と合致します」

「僕が捕まえましょう」


 ダイスケ君が立ち上がった。


「でも、どうやって? 誰も捕まえた事がないんだよ? 難しいと思うけど……」

「大丈夫。僕に任せて」


 自信満々に言う。そして、ツチノコに向かって歩き出した。


「おぉ、ダイスケ君かっこいい……」


 ミハルちゃんが目を輝かせる。


「あの……ちょっと待ってください」


 そこでカエデちゃんが呼び止めた。


「ん?」

「その前に確認したいことがあります。あれは本当にツチノコなんでしょうか?」

「えっ?」


 カエデちゃんの言葉にダイスケ君が戸惑う。


「もしツチノコなら、こんなに堂々と近づいてくるはずがありません。だって私の足音だけで逃げ出したんですよ。きっと何か理由があるんですよ」

「えぇ……」

「カエデちゃんのいう通りだと思うよ」


 ユウタ君も彼女に同調した。


「ツチノコは幻の生き物なんだよ。それがこんなに堂々と人前に姿を現すなんておかしいよ」

「そ、そんなぁ……」

「もしかして……あれはツチノコじゃない?」


 ミハルちゃんが呟く。


「えっ? だって特徴は一致してるんでしょ?」

「まさかツチノコに擬態している別の生き物なのか?」

「そ、それってどういうこと?」


 カエデちゃんが困惑する。だが、私には理解できた。

 ツチノコは臆病な性格をしていると言われている。ならば、普通は人の気配を感じただけで逃げ出すだろう。

 しかし、目の前のツチノコは全く逃げる素振りを見せていない。むしろ近寄ってくるくらいだ。これは明らかに異常である。


「もしかしたら……」


 私はある可能性を口に出す。前に少年の言っていた事を思い出して。


「このツチノコに見える生き物は偽ツチノコなのかも」

「偽ツチノコ!?」


 みんなが驚く。わたしは少年の事は話さず説明した。

 今重要なのは謎の少年の正体ではなくツチノコだからだ。余計なことに気を取られていては幻の生き物は捕まえられないとわたしは判断したのだ。


「ほら、ツチノコはみんなの探している人気の存在だから、模倣して真似ているのかも……」

「じゃあ、本物のツチノコはどこにいるんだ?」

「さあ? そこまでは分からないよ」


 正直、私にも見当がつかない。


「とりあえず偽でも何でもあいつを捕まえよう」


 ダイスケ君が決意を固める。そして、一歩踏み出した――瞬間。


「ガウッ!」


 偽ツチノコは突然、大きな口を開いてダイスケ君に飛びかかった。


「危ない!」


 咄嵯の判断で私は彼を突き飛ばした。間一髪で偽ツチノコの攻撃を避ける。


「ユイちゃん! 大丈夫かい?」

「うん。平気だよ」


 心配するカケル君に笑顔で答える。私はこれでも特別な力を使えるのだ。争いごとは初めてではない。


「でも、どうしてあいつは襲ってきたの?」

「わからない。だけど、今ならハッキリわかることがあるよ」

「何を?」

「あいつがツチノコじゃなくて偽物だってことがね!」


 私は右手を天にかざすと、魔法陣を展開して杖を取り出す。そして、呪文を唱えた。


「ライトニング!」


 雷の球を放つ。それは偽ツチノコに命中した。


「ギャウゥッ!」


 悲鳴を上げて地面に倒れる。


「ユイちゃん凄い!」


 ミハルちゃんが歓声を上げる。


「でも、その姿はいったい」

「話は後。今はあいつを!」

「よし。後は任せて!」


 今度はカケル君が駆け寄ると、偽ツチノコに馬乗りになって動きを抑え込む。そして、首元に手刀を当てた。すると、偽ツチノコは気絶してしまったようだ。

 私はとっさの魔法でさっきの記憶を消しておいた。私が魔法の国から来たマジスター・ユイである事はみんなには秘密なのだ。


「ふぅ~。これで一件落着かな」

「ありがとうございます。皆さんのお陰です」

「いいよ。それより何があったんだろうね? 急に襲いかかってくるなんて……」

「わかりません。ただ、一つだけ言えることは……」

「それは?」

「こいつがツチノコに化けていたってことです!」


 カエデちゃんが断言する。


「なるほどね。確かにそうだね」

「つまり、本物のツチノコはこの山にいるってことだよね?」


 ミハルちゃんが尋ねる。


「はい。間違いありません。擬態するには本物をコピーする必要がありますから」


 カエデちゃんが力強く肯定した。


「でも、そうなるとどこに隠れているのかな?」

「そうね。これだけ探しても見つからないとなると……」

「どこか別の場所にいるのかも」

「例えば、洞窟とか?」


 ユウタ君の一言を聞いて、全員の視線がダイスケ君に集まった。


「ぼ、僕ですか?」

「ダイスケ君なら洞窟がどこにあるか知っているんじゃないの?」


 カエデちゃんが尋ねた。


「いや、僕も知らないよ。そもそも今日はツチノコを探すだけの予定だったから。でも、途中で見た気がするかも」

「じゃあ、ダイスケ君も一緒に来て」

「えぇ……」

「お願いします。ダイスケ君だけが頼りなんです」


 カエデちゃんが頭を下げる。


「わかった。僕も手伝うよ」

「ありがとうございます」


 こうして、私達は再びツチノコを探しに行くことになった。

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