原作は叛逆者だけど穏やかに生きたいな!

参画 停

1幕 幼少期

第1話 目覚めた初雪

「お坊ちゃま!そろそろ何か食べなければ死んでしまいます!!」


「・・・」


「お坊ちゃま!!」



 うるさい、聞きたくない、1人でいさせて・・・。俺は耳を手で塞いで音を遮断する。俺は、人に期待されるのが怖い。失敗したら、また呆れられる。それなら、いっそ・・・。


 目を開けると割れた鏡に写る俺、容姿も他の子とは違う。白銀の髪に青白い目。物語に出てくるゴーストみたい。両親と違って、正装が似合わない俺も嫌いだ、チャイナ服カッコいいのに。


 あれ、今俺なんて思った?



「チャイナ服って、何?」



 俺はそこで思考が停止する。『チャイナ服』?そんな言葉、聞いたことないのに知ってる。


 その瞬間、頭に激痛が走った。嫌な汗が出てきて気持ち悪い。俺は我慢できなくなって床にうずくまる。痛みがどんどん強くなっていく頭で必死に意識を保っている時に一つだけ、ある言葉が口から漏れた。



「白雪の、叛逆者・・・リオン・ウィンタリア?」



 そこでようやく思い出した。俺は、日本のラノベ大好きな中学生だった。もしかして、これがよくある転生モノ・・・?


 中学生がなろう系の主人公みたく転生しただと!?


 普通は高校生以上だろ!中学生って!俺まだ中学生だったよな!?昨日まで中学生してたよな!?昨日までって言い方はおかしいか?だとしても、なんでよりにもよって俺なんだ!俺TUEEEEが出来るとか、俺がやるとか解釈違いだわ。


 痛みから解放されて動けるようになった身体を起こすが疲れているのか怠さが残ってる。手元にあった鏡の破片を手に取って自分の姿を見る。



 そこには髪は乱れているものの整えられていたことがわかる白銀の髪、瞳は湖に張ったような氷のように青白い、肌も不健康そうに見えるほど白い。


 間違いない、「龍の巫女と平和の鐘」第二章に出てくる謎の青年こと国を混乱に陥れ、滅ぼそうとした「白雪の叛逆者 リオン・ウィンタリア」だ。



「んー、イケメン。流石人気投票2位に君臨し続けた男。元の顔が良い」



 ナルシストみたいなこと言ってるけど、素材が良すぎるから自分でも惚れ惚れするような容姿だ。



 色々頭や身体が落ち着いたのでシーツがぐちゃぐちゃになったベッドに腰をかける。話を一から整理しよう。



 ここはシーン王国、4体のドラゴンと四大公爵家が王族と共に国を支えて繁栄している国。「竜の巫女と平和の鐘」の初期から中盤にかけて舞台になる国でもある。

 まず、「龍の巫女と平和の鐘」について思い出そう。この作品はラノベ原作でそこから異例のゲーム化を果たし、アニメ化にまで至った神作だ。


 物語の内容としては、竜の巫女として召喚された主人公は知らない土地や現代じゃあり得ないことをしている人たちを信用できずに人間不信になるところから始まる。最初は警戒していたものの人の温かさに触れ、徐々に心を開いて健康になっていく。

 まず、この最初の人間不信から始まるのが良い!人間なんて急に知らないところに召喚されて、訳もわからず持て囃されて救ってくださいとか懇願されて、右も左も分からないのに他人の自分がどうして・・・って、実に人間の心情を理解しているところが素晴らしい。

 普通すぐに「はい、わかりました」なんて返事できるわけないだろ!?お人好しすぎる天然バカしか言わないが、この作品は異世界転移モノの中でも特に「人間臭い」部分が多いところが評判である。


 序章が終わり、第一章は人や土地に慣れていく話で第二章から学園編に入っていく。そこで王国の王子や王女、貴族の人とぶつかり、仲を深めていく友情ターンである。

 そこでようやく登場するのが第一皇子の側近で謎の先輩であるリオン・ウィンタリア、この俺だ。


 因みに主人公に対してかなり当たりが強い。



『俺に媚びを売りたいのならお前を信仰している奴らに売ったほうがいいぞ』


『お前なんかが竜の巫女?芋女の間違いだろ』


『それ以上近づくな、気持ち悪い』



 この有様である。学園では影で「絶対零度」なんて呼ばれるくらい当たりが強いし冷たいし辛辣である。顔が良いから全て許されていたようなもんだし。


 ただ、こんな性格になったのには辛い過去があるからだ。



 リオンは7歳の頃に2歳下の弟を目の前で亡くしている。雪崩から逃げている時に弟の手が自分の手から抜けて弟だけが雪崩に巻き込まれてそのまま・・・。そこから人に対して過度に関わらないように辛辣なことを言ったりして人を遠ざけるようになった。だけど、なんで国を滅ぼそうとしたのかは深掘りされていない。番外編で深掘りされるかなぁって気になってたのに分からずじまい。


 ゲーム版では最初のボスとして戦ったけどかなり苦戦した覚えがある。魔法を使って遠くから攻撃していると距離を縮められて剣で大ダメージを与えられて、かと言って近距離で攻撃しようものなら魔法でぶっ飛ばされる。なので攻撃しながら回避をタイミング良くしないと全滅する。ゲーム初心者の俺はかなり苦戦した覚えがある。お陰でその後の冒険はかなり楽になった覚えがある。強敵でありながらチュートリアルボスでもあったなリオン。



「・・・死にたくない」



 第二章の最後、俺は主人公とその仲間に倒され、出血が多すぎてそのまま死ぬ。主人公が巫女の力を使って怪我を治すと言ったがそれを拒否してそのまま死ぬ。敵に情けをかけられて生き続けること、そしてもし生き延びたとしても拘束されて結局は死刑になることを分かっていたから回復することなく生涯に幕を閉じた。


 俺は死にたくない!てか、平穏に生きたい!だって、俺14歳で死んだんだぞ!死んだ覚え一切ないけど!



「・・・学園に通わなければ主人公に会うことないよな」



 そしたら死なずに生き延びることができるのでは?



「目指せ、平穏な生活!」



 グゥ〜〜〜



「その前に腹ごしらえ!」

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