ゲーム夜話
@bunwa
第1話 「これ以上の恥には耐えられぬ。うぬ”!」 評伝 HARAKIRI(PC88・ゲームアーツ・SLG)
<はじめに>
「スタインバーグなる、日本かぶれの米国人によってデザインされた」
確か本作は、そんな触れ込みで世に出たものだったかと思います。
それが事実だったのか、そういう態だったのか、その真偽の程は存じません。しかし本作は確かにその触れ込みに相応しく、独特のシステムと異空間的な世界を描いておりました。
ゲームの内容自体は、プレイヤーが源頼朝・伊達政宗・武田信玄・三船徳川・織田信長・上杉謙信・石田三成・豊臣秀吉・大老井伊・明智光秀・毛利元就・平清盛・足利尊氏・北条氏康・S小杉・島津義弘という、16人の大名の内の一人となり、「恥の概念」「一騎打ち」「忍者戦」「HARAKIRI」等、「いかにも」な要素が満載な世界で天下統一を目指し戦う… という、オーソドックスな本作。
しかしプレイ時の感覚はオーソドックスとは程遠く、何とも「凄い」というか「異様」と言うか… 異色極まる国盗りSLGでした。
<バックストーリー>
SHOUGUN統治の下、平和を謳歌していた日本。
ある日の事、SHOUGUN配下の大名ASANOは、主の命を受けて大事な茶器を運ぶべく町を歩いていた。がその時、突如物陰から忍者が現れ… 驚いたASANOは思わず茶器を取り落とし、割ってしまったのである!
「茶器一つまともに運べぬMINOR大名め!」
そして、その報告を受けたSHOUGUNは激怒し、満座の中でASANOを面罵。 かくしてその面目を失ったASANOはあまりの恥に耐え切れず、HARAKIRIしてしまう…
これは確かに一つの事件ではあった。 が、その余波は更に思わぬ事態をもたらす事になる。
それは事件から暫くたったある春の日のこと。
密かに無き主の復讐を誓い、機会を窺っていたASANOの旧臣47人が、突如SHOUGUNの乗る駕籠を襲撃。 あろう事かその首を挙げてしまったのである!
かくして突如統治者を失った日本は大混乱に陥る。SHOUGUNの一の臣たる大老井伊は懸命に事態の収拾を図ったものの、遂にうたかたの平和は破れ、時代は数多の群雄が覇を競う乱世へと移ってしまう。
再びこの天下に平和をもたらす者、それは果たして……?
ゲーム本編では語られませんが、説明書には舞台背景としてこんな感じの記載があったのですが… まあ「忠臣蔵」をはじめ色々なものが混ざり合っていて、どこから突っ込んだものやら。
<内容>
基本は「軍備を増強し他国を攻め取る」という極めてオーソドックスな本作は、国土開発・同盟・内応工作・忍者を使っての撹乱戦等という様に、内政・外交・謀略など一通りのものが揃っていました。
意外と言うと失礼かもしれませんが、弾けた世界観の割に、システム自体はきちんと作られていた感じです。
以下、特徴的・印象的な事を述べてみますと…
●兵力への制限
「各大名の持てる最大兵力=総国力」という大枠に加え、各武将の指揮出来る最大兵力(=人徳値で最大99)や一勢力の総武将数にも上限があるなど、国家の総合的な戦闘力を整備する上では能力・兵力・兵科(武将毎に固定)等のバランスへの考慮が必須となっており、なかなかに頭を捻る要素となっていました。
ちなみに兵科を具体的に挙げると、旗本(大名専用)・足軽・侍・相撲レスラー・鉄砲・騎兵・忍者・浪人・農民・南蛮兵・南蛮鉄砲兵・元兵・元騎馬兵の計十三種で、それぞれ徴兵費用・戦闘力・特性・部隊間の相性等があり、結構奥深かった様な覚えがあります。
●一騎打ち
一騎打ち、それは間違いなく「HARAKIRI」の戦争における「華」の一つです。ただ「三国志」物にある様なものとは異なり、「防御側のみに実行の有無の選択権がある」「合戦前に双方の代表同士がぶつかり合う形式」という、より儀式的な要素が強いのが大きな特徴でした。
ただ… 儀式的な故か、その影響は「敗北側の総兵力三割減」「断った場合は一割減」(しかも一番兵の減少幅が大きいのは、鉄砲隊等高価な部隊)という、他のゲームに見られる一騎打ちとは比較にならぬほど大きなものがありました。
無論、これらは理不尽といえば実に理不尽なシステムと言えるでしょう。ですが、この奇妙な世界には似つかわしい、そんな印象も受けるシステムでした。
なおシステム面とは別に、「一騎打ちの情景描写」それ自体にも独特過ぎるものがあったので、以下箇条書きにて述べてみますと…
1.夕日をバックに、野原にて鎧兜に身を包んだ武者が二人、向かい合う。
2.双方正座し、頭を地に付けるように深々とお辞儀。
3.双方立ち上がり、互いに刀を構える。
4.…何故か実際の戦いの描写は、力士化した両者が画面下で激しく突っ張りあうというもの(なお、相手を画面外に吹っ飛ばした方の勝ち)。
…一度見ると、なんとも忘れ難いものがありました。
●「HARAKIRI」と「恥」 ~これぞ正しき日の本の文化!~
HARAKIRI… それはタイトルにもある様に、このゲームを語る上で欠かせない要素と言えます(確か最初のデモも桜が舞い散る中でのHARAKIRI… というのがメインだった様な記憶が)。
そして、ゲーム中でのHARAKIRIは、大きく分けて二種類あり、それは、
・プレイヤーの意思によるもの。即ち滅ぼした敵国の降将に命じるもの、人員整理等の為に自国の将に命じるものなど。
・イベントとしてのもの。即ち「恥」という各武将が持つ数値が一定値(80以上だと危険水域)を超えた際、ランダムで勝手に発生するもの。
でした。
特に後者は、文字通り「勝手に」発生する為、有能で主力部隊を率いる将にやられた場合などは、一気にパワーバランスが崩れる激震になりかねない、実に危険なものであり(そうではなくとも精神的な痛手は大きい)、自軍の将の「恥」を如何に低く保ち、また敵将に如何に「恥」をかかせるかという、このゲームならではの配慮が必要だったものです。
なにせ忍者を使っての謀略に「敵将に恥をかかせる」というコマンドがあったくらいですので…
なお、この「HARAKIRI」の描写にも忘れ得ぬものがあったので、これも以下箇条書きにて述べてみますと…
1.白無垢を着た武士が敷物(但し花見で場所取りに敷くぐらいの大きさ)に正座、背後には介錯人が立つ。
2.「これ以上の恥には耐えられぬ!」という言葉を発し(イベント時。自分が命じた場合は無し)、「うぬ”」という掛け声と共に開始(なおこの時、頭上に「BANZAI!」の文字が浮かぶ)。
3.画面が一瞬真っ暗になり、中央に「介錯!」という文字が煌く。
4.介錯人が刀を振り下ろし… 当該人の首が落ちる(この辺りはシルエット処理)。
…最初に見た時のインパクトは、凄かったです。
●帝という存在 ~「下界」を見守る「現人神」~
この世界の日本には「帝」と呼ばれる現人神としか思えない力を持つ存在がおり、たまに起こるイベントで、その力を遺憾なく示してくれました。
それは私が知る限り二つあり、
○花見
帝がランダムで一人の大名に開催を命じるもので、命に応じると莫大な金を消費する羽目になるが、その年は絶対に他国の侵略を受けなくなる(こちらからの侵略は無論可)。
なお、断る(又は費用が払えない場合)と家臣達が不甲斐なく思い、全員の「恥」がもれなく上昇するという… 大抵は不幸な目に合うイベントでもありました。
○献金
帝が全国の大名に献金を呼びかけるもので、最も多額の金を献じたものの願いを一つ叶えてくれる。
なお、願える事は三つあり、
「官位」を望むと大名の魅力が上昇、というのは王道なものの、「神風」と「地震」は任意の国に起こして兵力や城防御度を低下させるという、凄まじいものでした。
●新勢力乱入 ~時空を超えて湧き出す新たなる強敵達~
地震・疫病・津波といった災害は、自国に起こるとげんなりしますが、他国に起こると喜ばしいものです。
しかしこのゲームにおける最大の災害、即ち「新勢力の勃興」は、こちらにも火の粉が飛んでくる、迷惑極まりないものでした。
私が体験したのは「一向宗徒の挙兵」のみですが、突如手薄な後方で数百もの敵が現れ、挙句の果てには四方を侵略しまくるとなると… それがどれほど腹立たしくもうっとおしいかは、容易に想像して頂けるのではないかと思います。
聞く所によれば「一向宗」は勃興する三勢力の中では一番弱いそうで、更に真打として「元軍」と「ペリー軍」が控えているとか。
●金の力 ~天下を制すは山吹色の菓子なり~
大方のSLGにおいて金の力は絶大ですが、このゲームは特にその傾向が強いものの一つと言えるでしょう。
金さえあれば、1ターンで幾らでも徴兵可能。
金さえあれば、どんな忠臣でも最終的に転ばせられる(「寝返り工作」は、仮に失敗しても積んだ金に応じて「忠義」が低下していく為)。
金さえあれば、「帝」から「奇跡」も買える… 等々。
無論序~中盤は常に金策に四苦八苦で、「贅沢行為」はそうそう出来ません。ですが天下の半ばを制した辺りからは、その気になればもうやりたい放題。敵の有力武将を現金攻勢で片端から寝返らせるといった、碌に闘わないで済む極悪なプレイすら可能でした。
<総評>
「設定などはぶっ飛んでいるが、システムは意外にしっかりしていて遊べる」。総じてそんな作品だったかと思います。
ここに挙げた以外でもコマンド実行時のグラフィック(例えば「貢物」のコマンドの絵は金の鯱を献じている図だとか)や設定変更(BGMも大河風・中華風等数種類あり)など、随所ににやりとする要素は満載でしたので、話のタネにやってみて損は無いかと思います。
何せ藤原道長VS金四郎とか青木昆陽VS天草四郎といった。まず想像すらしない様な奇怪な戦いがしばしば見れるのは、本作ぐらいでしょうから…
総合評価 … ★★★★(色々な意味で弾けてはいるが、なかなかの逸品)
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