うたかたの君
いしのみ
うたかたの君 序章 みはなだに
はじめに
このつたない読み物を開いて頂き、心より感謝申し上げます。
この物語の時代背景は、江戸時代後期を想定しておりますが、何分作者は学生時代国語も歴史も赤点続きでしたので、表現や文章の随所に当時の言葉遣いにそぐわないおかしな所が多々あるかと思われます。インターネットの掲示板に投稿された素人童貞の落書きだと思って
また、
但しぬめりとり、お前には謝らん!おまえは
イピカイエ!
わたしにとっては、そうである。
あなたにとっては、そうではない。
一つの言の葉に二つの意味があるように、
一つの事象には二つの見方がある。
あなたの、知っての通り。
〜序章 みはなだに〜
まつのよい
ゆめのかたりを
あてにして
きみのいぬよを
ひとりさまよふ
しゃん、しゃん、と小さな
しゃん、しゃん、と鞠をつく度、すずしげな音が鳴っている。
石畳の上にて、
その女子と同じ装束の老婆、
「どれ。あたしゃ村へ降りてくる。すず、もう遊ぶのはやめて字を学ぶんだよ。あんたは立派な巫女にならないといけないんだから。」
幼子はこくと頷いた。
「返事は!」
老婆の唾が石畳を汚す。
「はい。」
ぴくりと震える幼子に、目配せする翁と男。ぶつぶつと呟き歩いていく老婆。鳥居を
「どれ、そろそろ
男は優しく手を出した。その
「返事は?また
「はい。」
「こういう時は『ありがとうございました』と言った方が良いな。」
「...ありがとうございました。」
「おお、凄いじゃないか。きっとこの子は賢くなるぞ。」
恐る恐る礼をする幼子。男はうん、うんと満足そうに頷いて、鈴の入った鞠を麻の巾着袋にしまう。
「ありがとうよ。もしかすると、最後の息抜きだったかもしれん。今度こそ...。」
翁は固く拳を握る。
「そんなに力むとまた皺が増えるぞ。息抜きが必要なのはお前の方ではないのか、
ふむ、と翁が息をつく。拳がゆるりと
石畳に立つ小さな女子が、鳥居と同じ色の赤とんぼを目で追っている。その様子を見つめる翁。無意識に顔の皺をなぞる。
「皺には乳液を塗ると良いぞ。俺が調合してやろうか。但し、効く効かぬは人による。次の新月までに効果が
ぺちゃくちゃと手数の多い語りが、眼鏡男の
「むう。皺よりも勉学だな。すず、」
何をして良いいのかわからずに、赤とんぼをただ眺めていた幼子。すずと呼ばれたその女子が、とことこと神主の側へと駆け寄る。
「先に
「おおーーい!!」
神主の言葉を
「はぁ!はぁ!大変でさあ!!神主様!!こ、このぉ、赤ん坊が...!!」
村の外れに住む船大工が、息絶え絶えに歩いてくる。赤ん坊、という単語に、神主と優男が眉を
「なんだあ?
「何事だ。話してみろ。」
「先生の言う通り、川岸に打ち上げられていたんでさあ!!こんな寒いのに...!生きたまま...ひでえことしやがる...!!」
『
「ふむ。誰が捨てたのかを調べてみねば。何か心当たりはあるか?」
「それが、皆があばら家のタキが捨てたって...!でもあのタキが子を産んだのは、確か暑い時でしたぜ!」
「確かに。タキのお産の時俺もいたからな。あれは
優男が眼鏡をくいと持ち上げて、赤ん坊の顔を覗き込む。紅白装束の女の子も、一生懸命に背伸びをして大工の腕に手を掛けた。優男は目を閉じて首を横に振り、ふーと長い息を吐いた。
「...残念ながら、間違い無い。タキの子だ。良い母親になると意気込んでいたのに、何故...。」
優男にも、人並みの感情はあった。賽銭箱と
「ふむ。タキの元へと返し、乳を飲ませてやろう。その後、私とタキとで、長老達の元へと向かう。それで良いか。」
「わかりやした!良かったなあ坊主。神主様と先生が助けてくれたぞ!ええ?」
「
「わかりやした!」
船大工の三太夫は、神主に赤ん坊を託すと、いさみ石段を駆けていった。
「
「いーや。というより、名はまだ付けていなかった筈だ。何故かは知らぬが、
「なに、もう神無月の末だぞ!ええい、すずの事もあるというのに、困った事になった。」
「何を焦る?後からタキに付けさせればいいだろう?」
「いや、今すぐに付けねばならん。タキがもし名付けを拒めば、霜月だ。生まれて
「へぇ、そうなのか。密教 《みっきょう》の
その時、突如赤子は口を開け、おんぎゃあ、おんぎゃあとつん裂くばかりの
「おおお...。」
儀式の
「すずはまだ乳は出んのか?」
「当たり前だろう!
声を荒げる神主。一層泣き叫ぶ赤ん坊。誤魔化しに
いや、一人いた。確かにそこに、一人いたのだ。
しゃん、と鈴の音が鳴り響く。
赤ん坊の叫びが止まる。
しゃん、ともう一つ鳴り響く。
赤ん坊が目をぱちくりとする。
「なくのはおよし。なくのはおよし。なくこにかみさまきませんよ。さあさ、わらってごらんなさい。かわいいえみをみせておくれ。」
地面に置かれた優男の袋から、いつの間にやら女子が鞠を取り出していた。
しゃん、しゃん、と鞠を振る度、赤子は笑顔になってゆく。
神主は女子の
「ありがとうございました。」
四つの女子はそう言うと、鞠を袋の中へとしまう。きゃっきゃと笑う赤ん坊を抱いたまま、呆然とする神主に、またも女子は駆け寄った。
「...現実は小説よりも奇なり、と誰かが言っていたな。どれ、俺も帰って子育ての教本でも無いか探してみるか。」
一足先に我に帰った優男は、陽の傾きかけた境内を、鳥居へ向かって歩いていく。
「お、そうだった。」
優男はぽんと手を叩くと、後ろへ振り返って問い掛ける。
「お二人さん、その子の名前はどうするよ。」
老いた神主と幼い巫女は、互いに顔を見合わせた。
後の世に、厄災を
少年、
〜序章 終わり〜
うたかたの君 いしのみ @8556eirin
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