コーヒーにフィルターは必要ですか?

@tororosova

第1話 喫茶ブレイク

「また、色混ぜすぎた…」

 僕は、そう言ってパレットを机に置く。趣味で絵を描くようになって数年、ある程度の出来栄えの絵を描けることが増えてきたが、ここ最近は何も手がつかない状態が続いている。

「ここ最近、来客少ないし、平和なことはいいんだけどなー」

 喫茶店を運営している身としては、来客が来なければ商売あがったりなのであるが、僕の店に関してはそうも言ってられない…

(カラーン・カラーン)

 ここ最近聞いていなかった音が聞こえる。

 僕は、バックヤードから出て今回のお客様、いや、今回のにいつものセリフを吐く。

「いらっしゃいませ、喫茶カフェブレイクへようこそ」

 これは、コーヒーのように苦い経験をするかもしれない人々のお話。


「注文は何になされますか?」

一応、うちは喫茶店ということになっているので、注文を聞くことから始める。

「ちなみに本日のおすすめは…」

そこまで口に出したところで、今回のお客様が口を開いた。

「ここって、来客した人の願いをかなえてくれるって聞いたのですが本当ですか…?」

開口一番がそれかぁ…と思ったが、顔に出さずに

「とりあえず、お客様落ち着いてください。まず、席に座って」

その言葉を聞いて慌てたのか、私が立っているカウンターの席に座った。

「じゃあ、この甘党ココア一つお願いします」

「承知しました」

ココアを準備するための作業をしていると、少女が再び口を開いた。

「あのーさっきの質問なんですけど…」

その言葉に僕は、すぐに口を開く

「お客様のおっしゃったことは間違ってはいませんよ」

少女は驚いたような表情をした。彼女が何かを言う前に、私が再び口を開く。

というのは少し語弊がありますが、まずは事情を説明していただけませんか?」

その言葉をきっかけとして彼女はポツポツと事情を話し始めた。

今回の依頼人は、七瀬優ななせゆう高校二年。

要件は、死んでしまった親友を生き返らせてほしいとのこと。

「言えたらで結構なのですが、なぜ、親友様はお亡くなりになられたのでしょうか?」

私の質問に彼女ははっきりと答えた。

「他殺です」

その言葉を彼女が発したのを境に、空気が二、三度ほど下がった。

「他殺ですか…?」

彼女のこの物言いから察するにほぼ確定のことなのだろう。しかし、それなら警察本職の方々がさらに詳しい調査をするはずだが…

「警察は彼女の…由愛ゆめの死因が自身で行った首つりによる自殺だと結論付けました。でも、私は彼女がそんなことをするとは考えられない。だから、彼女を生き返らせて本当のこと聞きたいんです」

彼女の言葉の節々から決意の意思が滲んでいることが伝わってくる。

「だから…!」

「受けましょう」

「…え…?」

僕の二つ返事に彼女は少し困惑しているようだった。まあ、現実的に見れば人を生き返らせてほしいなんて言えば、よくて正気を疑われ最悪頭の病院に連絡されるかもしれない。そんな中即答で答えられれば誰だって困惑するだろう。

「……可能なんですか?」

彼女の僕を見る目が不安に揺れる。

「可能ではあります…ですが、条件があります」

彼女が、ゴクっと唾を飲む。

「その条件は…次の月曜から、一週間ここでバイトをしていただきたい」

「…へ…?」

この時の声は、僕の頭の中にこれからも残り続けるだろう。


彼女を一度帰らせまた、後日来るように説明する。彼女がドアをくぐったのを見送り、席に座って少しばかり物思いに耽った・

この店を営業していて、このように大切な人を生き返らせてほしいとか気になるあの子に好かれるにはどうすれば良いかとかの限りなく僕としては下らないと思ってしまうような依頼もあり、基本そういった依頼はこの店で相談にのりパパっと解決するのだが、今回に関しては嫌な胸騒ぎがしたので依頼を受けた。

「死んだ人が生き返るんだったら、とっくの昔に実践してる…」

俺は、壁に立てかけてある写真を見ながらつぶやいた。

そういえば、彼女が頼んだココア出し忘れたなぁーと思ったのはここだけの話である。




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