踏切でのハプ

天川裕司

踏切でのハプ

タイトル:踏切でのハプ


ある日、仕事の帰り。

踏切でいつものように待ってると、

「…ん?なんだあれ」

電車がもう入って来ようとしていたその時に

ぼんやり、女の姿をした輪郭が現れた。


そいつはまさに人影のようだったが、

ものすごく静かな容姿でこちらを向いて立っており、

2本の手には何も持っておらず、

明らかにこの世の者ではないと思えた。


「……ゴクリ」

唾を飲み込んだその瞬間、電車がパァン!!

と言って踏み切りに入ってきた。

「え……」

驚いたことに、走っているその電車と同化する形で

その女の人影ははっきり目に見えていた。

そして、ふわっと言った感じに

ゆっくり横っ飛びで体が浮き上がり、

その人影はやがて地面に倒れた。

そしてその直後、またふわっと言った感じに消えたのだ。


「……………」

こんな時、言葉は出ない。

ただ成り行きをじっと見ているだけで、

いきなり見せられたその光景に

思考が取り付く島も無いことを実感する。

おそらくまともな思考力が追いつかないのだ。


そしてようやく出た言葉は、

「………何だったんだ、今の…」


それから数週間後に聞いた話では、

その踏切で、自らこの世を去った女が居たと言う。

「…あ、もしかして、あのニュース…?」


確かに俺はそのニュースを以前に見た気がした。

でも世間でありふれた事件・事故のニュースだと片付けて

記憶に留める事はしなかった。


普段、人はニュースを見るとき、

得てしてそんなもんだと思った。

自分に関係ないニュースなど記憶の片隅にとりあえず留め、

やがては何事も無かったかのようにその記憶も消してしまう。


でも、記憶から消されるそのニュースの1つ1つに、

その事件・事故の主人公になったその人の人生がある。

今更ながら、その事をおもむろに考えさせられた俺だった。


あの時の人影…いや女性は、

もしかすると自分のことを忘れてほしくないから、

誰彼構わず自分の姿をあの場で見せて、

それで消された記憶を甦らせようと、

少しでも努力する形で

その時の自分を再現していたのだろうか?


あれからこれまで、あの人影・女性を

あの踏切で見る事はまだないけど、心のどこかで

「…できればもう1度見たい。いや会ってみたい…」

そう思ったのは本当だった。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=OnOrKb76BTg

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踏切でのハプ 天川裕司 @tenkawayuji

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