14.ラストオーダー
ケネスを背後から襲ったのは、彼を回収するためオフィスビルに訪れたゴミ収集業者の一人、マイルズだった。
マイルズは部屋の角、ちょうどケネスからは死角になる位置に潜んでいたようだ。
「俺のIDはかえしてもらうぞ」
彼は気絶したケネスをまたいで腰をかがめ、パンツのポケットからIDカードを抜きとる。
立ちあがるとそのままケネスの横腹に渾身の蹴りを見舞った。衝撃で一瞬、身体が浮きあがる。
「お前がここにツガイを探しに来ると思って待ち構えていたんだ」
乱れた髪を両手でかきあげながら吐き捨てるようにマイルズは言う。
顎には、いまだ真新しい紫色の腫れが痛々しく残っていた。
そして口角をつりあげた醜い笑みを浮かべながら、続けざまにもう一発蹴りを入れる。
「まんまと罠に引っかかりやがって、このデク人形が!」
最後の一蹴りとばかりに足を大きく後ろへ振りあげた、そのときだった。
突然、軸足を下から
ケネスが下から彼を
態勢を崩したマイルズは、そのままの姿勢で肩から床に叩きつけられた。
すきを逃さず馬乗りになって押さえつけるケネス。
「マイルズ――地下駐車場で俺を襲ったマイルズ・ウォ-カーだな!」
ケネスが相手の顔を記憶に刻みつけるように凝視する。
「そうだよケネス、いや
マイルズは肩の痛みを
ケネスは一瞬顔をしかめるが、マイルズの襟をつかんでそのまま二度、三度、彼の後頭部を床に打ちつける。
「俺を
しばし訪れる空白の時間。ケネスの荒い息遣いとマイルズのうめき声だけが狭い室内に響き渡る。
ケネスが一旦、呼吸を整える。頭に血がのぼった自分自身を落ち着かせるように。
「キャスは、キャスリーンはどこだ! ここに連れてこられたはずだ!!」
「しつこい野郎だぜ。言ったはずだ、ゴミは処分した、とね」
彼は後ろの焼却炉を頭越しに親指でさしてニヤリと笑った。
ケネスが焼却炉に気をとられた一瞬の隙をマイルズは見逃さない。あがった顎に下から強烈な肘鉄を打ちこんだ。
一瞬、気を失いかけて脱力するケネス。
マイルズはその瞬間ブリッジして
「待ってろ、今すぐお前も焼却炉へぶちこんでやる」
腰のホルスターを見もせずに、もう一方の手で麻酔銃をとりだしケネスの首元へ素早く差しこむ。
間一髪、首元まで数センチというところでケネスはそれを手で制した。
当然、上になっているマイルズが有利。じりじりと銃が押しこまれていく。
ケネスも必死の抵抗をしめすが右手は床に抑えつけられ、左手は麻酔銃を押しとどめるのに精一杯で身動きがとれない様子。
しかし、彼は下からの不利な態勢を物ともせず、マイルズの顔面に頭突きを食らわす。
その衝撃に顔をしかめるマイルズ。
ケネスは自身の額をも割らんばかりの勢いで頭突きを二度、三度と繰りかえす。
マイルズの額が割れ、鮮血がケネスの顔に滴り落ちた。
次第に互いの顔が、互いの血で朱に染まっていく。
「どうだ俺の血の味は? 血の色は? お前と同じだ、同じ人間だ!」
その瞬間、ケネスは拘束されていた右手を強引に引きぬいて、すばやく腰をおこしつつ、マイルズの細い顎を横殴りに打ち抜いた。
完全に意識を失ったマイルズの首が真後ろにぐにゃりと倒れこむ。
再び静寂の時間が訪れた。
気を失ったままピクリとも動かないマイルズ。
ケネスがマイルズの肩を押すと、まるで壊れたおもちゃのように力なく横倒しに崩れていく。同時に右手から麻酔銃がこぼれ落ち、床に当って甲高い音をあげた。
ケネスが頭をふりながらフラフラと力なく立ちあがる。
倒れて動かないマイルズを横目で見ながら、片方の鼻を手で抑えて手鼻をかむと、真っ赤な液体が床に飛び散った。
痛む後頭部をおさえると手のひらが鮮血に染まる。ヌルヌルとした感触を確かめるように手を軽く握り、そのまま太ももで血糊をぬぐう。
体中に激痛が走っていた。
再びマイルズに近寄ると、彼を後ろから抱きかかえて上半身をおこし、首をチョークスリーパーの要領で締めあげる。
「目を覚ませ、マイルズ」
ケネスはマイルズを乱暴にゆすり、強引に覚醒をうながす。
切れた口元から血の泡を吹きながら彼は気を取りもどした。
「キャスリーンはどこだ、本当のことを言え!」
マイルズが痛みで引きつる口元を歪めながらそれに答える。
「……さっきから言っているだろう、燃えちまったんだ。消し炭になったんだよ」
「嘘だ! そんな馬鹿な話があるか!!」
ケネスがマイルズの耳元に怒鳴りつけながら、腕になお一層の力をこめる。
絞りだすような声でマイルズが再び口を開いた。
「ここへ……く、来る途中でリストを……見ただろう? ――お前が今日のラストオーダーだ」
彼は、ニヤリといびつな笑みを浮かべ、そのまま白目をむいて失神。
ケネスが否定の言葉を繰りかえそうとしたそのとき、またも背後に感じる何者かの気配。
――ほかに仲間が、そう、やつはたしか二人組だった。
己の浅はかな考えを呪ったその瞬間、再度、後頭部に襲いくる衝撃。それはまるで、焼かれた鉄の塊を押しつけられたようだった。
振りかえって確かめる間もなく、彼は
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