森 その2 あなたの妻になりましょう

 門平たちは下山を開始した。


美雪「ふああああ~。もうちょっと寝たかったのにい~」


 美雪が大あくびしている。


 お前の体はさっき飛び散った男の肉片がついてるんだぞ。


 と、言ってやりたいが、そんな暇がない。


門平「(ベルシュタインさん! さっきのやつの仲間たちが報復に来るかもしれない。下山して警察に……)」


ベルシュタイン「(何言ってますの! あんな町の裁判なんて偏見だらけに決まってます! ここにはこなかった! いいわね!)」


 ベルシュタインさんは完全に逃亡犯の思考だ。


 萌美ちゃんはほめられないからスネてるし。


門平「(あれ?)」


 静かだと思ったら、萌美ちゃんがいなくなってる。


門平「萌美ちゃんがいないぞ?」


ベルシュタイン「えっ? どうして?」


美雪「どっかで何かを拾い食いでもしてるんじゃないの? もぐもぐ」


門平「何食ってるんだ?」


美雪「服についてた肉。血がまだ新鮮でおいしいわよ。食べる?」


門平「いや、いい……」


 それさっき破壊された男の人肉だぞ、っと、ツッコんでやりたいが、何かがおかしい。


 獣の臭いが充満する。


 突然山の土から何かが盛り上がってきた。


ベルシュタイン「なんですの!?」


 木のかげからも何かが出てくる。


 仮面と木の皮や枝なんかを合わせて作った服装。


 美雪を運んでいた男たちと同じ格好をしている。


門平「ベルシュタインさん! さっきの男たちの仲間……あれぇ!?」


 ベルシュタインはもういなかった。


 俺たちを置いて逃げたのか!?


 はやっ!?


門平「美雪さん! 逃げるぞ!」


美雪「ちょっと! なんなのよっ!」


 門平たちは走り出した。


 岩場まで逃げ、小さな洞穴から外をのぞく。


 誰もいないが、獣の臭いが濃厚だ。


門平「どうしよう……」


美雪「むがああああああっ!?」


 美雪の叫び声に後ろを向くと、足をバタつかせ、上に連れて行かれている。


門平「美雪、ぐはっ!?」


 後頭部に一撃を受け、門平は気絶した。



 門平たちは今、裁判にかけられている。


 殺人罪で。


 ただ異様だったのは、門平たちを捕らえた住人たちだ。


サル【ティファ】「うほぉ! うほっうほっ!!」


サル【クラウド】「うほうほうほうほ!! うほぉ!! うほほほほっ!」


 全員サルだった。


 そりゃ日本語がわかるはずがない。


 門平たちは下着姿にされ、裁判されているが、もはや何を言っているのかすらわからん。


王「ほうほう。大木が突然落ちてきて、弟が殺されてしまったと。いけないねぇ」


 唯一裁判長だけが日本語を理解していた。


 イスに座って後ろを向いている。


サル【マミー】「うほうほっ!! うほほほっ! うほぉ!!」


王「なるほどなるほど。そこの女の寝癖が悪すぎて、崖から落ちそうだったので、そこから助けてやったと。起こそうと思ったら、いきなりグレイシー柔術をかけてきたから、手足を縄でしばったと。それなのに、兄が破壊されてしまったんだね」


 美雪のことを言っているのか。


 興奮したサルが、しきりに美雪を指さして怒っていた。


美雪「違うわ」


 縄で両手を後ろで縛られ、座らされている美雪がつぶやいた。


王「何が違うのかね?」


美雪「みんな萌美ちゃんがやったことなのよ!!」


門平「おっおい!?」




美雪「あなたたちを殺したのは萌美ちゃんなのよ! 私たちは彼女の魔力に脅されていただけ。あの邪悪な妖精こそが、悪の権化なのよ!!」




 すべての責任を萌美になすりつけた。




ベルシュタイン「そうですわよ! すべてあの萌美さんが悪いんですわ! 私たちはただ彼女に踊らされていただけですわ!」




門平「ええっ!?」


 ベルシュタインも萌美にすべてを投げつけた。


門平「(おい、お前ら……!)」


美雪「(しっ! これでいいのよ!)」


ベルシュタイン「(そうですわよ! あの子が見つかったとしても、誰も捕らえられないわ!)」


 美雪とベルシュタインが結託している。


 確かにそうだけど……。


王「ほほう。そうかね。では萌美とやらに出てきてもらおうか」



門平・美雪・ベルシュタイン「へっ?」




萌美「にゃおっ!」




 男がイスを回転させ、正面を向くと、太ももの上に萌美がちょこんと座っている。


 こっちに向かって小さな手を振った。


 萌美の手にはキャンディがある。


 いつの間に……。


王「萌美ちゃん。誰がわれわれの仲間を殺したのかな?」


萌美「お兄ちゃんとお姉ちゃん!」


 門平たちを指さす萌美。


美雪「ちょっと萌美ちゃん! 私たち、仲間でしょ! ベストフレンドだったでしょ!」


萌美「知らないもぉん」


 友達を売っといて、それは苦しいぞ、美雪!


 ベルシュタインさんは顔を青くしてるし。


 萌美ちゃんを裏切った俺たちが悪い……。


萌美「パパ、もっとペロペロキャンディほしい!」


王「いいとも。100年分ぐらいあるから、どんどん食べなさい。これからもここにいて、用心棒をしようね」


萌美「はぁい!」




門平・美雪・ベルシュタイン「(買収されてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!)」




 最強の妖精さんが、敵側に寝返ってた。


王「われわれは一致団結した共同体である。貴様たちを『闇の刑』に処す。そこであれば邪念も消えよう。アレを持ってきなさい」


サル【ロナルド】「うほうっ!!」


 1匹のサルが、鉄の棒を持ってきた。


 先が赤い。


 火か何かであぶっている。


 アレで俺たちの両目をつぶすつもりなのか!?


ベルシュタイン「待って!」


王「なんだね?」



ベルシュタイン「私……あなたの妻になりますわ!」



門平・美雪「ええっ!?」


王「ほう?」(オスの目になる)



ベルシュタイン「私はまだ若いですわ。子を成すことができます。それに――」(胸の谷間を見せて巨乳を強調)



美雪「こらあああああああああっ!! 1人だけ助かろうって、そうはいかないわよ!!」


門平「そうだよ!! そんなでかいもの、俺にはついてないんだぞ!!」(←そこ?)



王「――うむ」(何かを納得)



美雪「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇっ!! 私も!! 私も一応女だから子供作れるわよ!!」


門平「俺は作れねぇぇぇぇぇぇ!! どうしようぉぉぉぉぉぉぉ!!」


ベルシュタイン「いいえ。王は私のようなセクシーな女性が必要なのです。あなたたちは用済みですわ」


美雪「裏切ったなオメー!! うぐうっ!?」


 美雪がサルのげんこつをモロくらい、その場に気絶させられた。



 扱いがひどいっ!!



門平「ベルシュタインさん!!」


ベルシュタイン「さようなら、あなたたちとの旅は、楽しかったわ」(泣いているが、ちょっと笑い)




門平「いや待って待って!! いやああああああああああああっ!!!!」

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