我が道だけを行く冒険記

アリカ

第1話 無意識下の願望が曝け出された結果

 駿河輝星(するがきせい)。それが私の名。

 名前の由来は、「輝ける星のような人となれ」という願いをこめて、両親がつけたそうだ。

 だが私は現在、両親より授かったこの名を名乗っていない。


 キセイ・スルガと自分の名を横文字にして、更に一工夫加えて、「キーセ・イースルーガ」と名乗っている。(本名の間に「ー」を増やしただけの簡易偽名だけれど、音の響きがキレイな気がして、私自身は結構気に入ってる)


 勿論、わざわざそんな偽名を名乗るのには、ちゃんとした訳がある。


 実は、ここは……私が生まれ育った日本でもなければ、地球ですらない異界の地なのだ。



 そんな異世界で日本名を名乗っても悪目立ちしてしまう。

 そして、「キセイ」よりは「キーセ」の方が、こちらでは違和感のない発音のようなので、私のこの世界での名前は「キーセ」になった。



 魔法と科学が融和した発展を遂げた世界、『クロヴァーシュ』。

 それが、私が落ちた世界の名前。

 魔物、精霊、妖精、竜、エルフなど、様々な「人外」の生物が、架空ではなく現実として存在する、まんまRPG的な世界だ。



「異世界から落ちてくる人は、数は少ないですが、それ程珍しくはないんですよ。過去に何度も前例があります。この世界は特に、異界からモノが落ちてきやすい条件が整っているようでしてね」

 と、私にこの世界の事を教えてくれているクロス教官が言う。


「それよりも、こちらに身体を馴染ませる為の『理想の泉』に浸かって、女性から男性に変化した人の方が、よっぽど珍しいです」

 とも付け加えられた。



 …………言われなくても私だって、自分で自分の身体の変化に、途轍もなくびっくりした。

 地球で19年間女として生きてきたのに、まさかこれからは異世界で男として生きていくハメになるなんて、思ってもみなかった。


 別に自分では、女である事に不満があるとか、男になってみたいとか、願望と呼べる程強く思い描いている訳ではなかったはずなのに。


 そりゃあ、月の物は重くて頭も腰もお腹も痛く、毎月うんざりしていたし、男の子って身軽でいいな、くらいは思っていたけれど。

 化粧とかお洒落とか面倒くさいなとか、若い女としてはかなり終わった事を考えた事もあるけれど。

 それでも、本気で女としての自分を捨てていいとまで思ってはいなかったと、自分では、思っていた、のだが。


 ……ああ、無意識って恐ろしい。




『理想の泉』とはその名の通り、自分の理想に近づけるように、願望を汲み取りつつ、この世界の法則に沿って身体を調整してくれ、更には潜在能力(魔力とかそういうの!)まで引き出してくれるという、とても便利な存在である。


 私はこの世界に落ちてきた当初は女だった。普通に。

 そして、泉に浸かれば免疫がつくとか若さが保てるとか寿命が伸びるとか、元の自分からかけ離れた姿にはなれずとも、ある程度は理想に近い姿に変化できるとか、魔法が使えるとか!

 とにかく良い事尽くめなのだと聞いて、張り切って泉に浸かった。……そしてその結果、以前の自分よりも顔や体型が良い、17歳くらいの外見の男になってしまったのである。


 つまり私は無意識下で、男になりたいと、よっぽど強く願っていたらしい。





 そんな訳で、この先、ここ『クロヴァーシュ』で生きていく予定の「キーセ・イースルーガ」は、性別・男(中身は元・女)、なのである。


 自分の身に起きた出来事でさえなければ、「一体どんなタチの悪い冗談だ」と、大いに呆れて笑ってやりたい所だ。

 <i>―――――</i>まあ、実際に事態を理解した時には、パニックを通り越して、乾いた笑いしか出なかったけれども。

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