三大美人なお嬢様達の世話係をしているんだが、頼られ過ぎて困る

シュミ

第1話 三大美人なお嬢様

 私立神城学園。

 日本でも三本の指に入るほどの有名校である。この学園に入ることが出来れば、小学校から高校、場合によっては大学までエスカレーター式で行ける超名門校である。在籍していた生徒の中にはかつての総理大臣や有名企業の社長なんかがいる。

 現在、在籍する生徒達の進路はほとんどが政治家か、経営者の二つに別れており、多くは親の影響を受けてか、跡継ぎが決まっているなど、将来がほとんど確定している子供が入学してくる事が多い。

 なので在籍する生徒の親の大半は社長か政治家───そうでなくても富裕層の人間ばかりだ。


 もちろん学園には勉強をするために通う。だが有名企業の人間がいる事から交流の場としても使われている。

 子供同士が同じ学園に通っていて、仲も良いとなれば、親同士の繋がりを持つことも可能という算段だ。


 そんな学園にも当然カーストというものは存在する。むしろ普通の学校よりわかりやすいだろう。簡単に言えば家柄だ。


 そんな中でもカースト上位に君臨し、生徒達から3rd、2nd、1stと呼ばれている三大美人がいる。


「おっはよ〜! みんな」


 ふわふわとした桃色の髪を肩ほど伸ばし、クリクリとした可愛らしい瞳を持つ少女が、教室に入った途端、手を高く挙げて元気良く挨拶をした。


 そんな彼女の名前は───花沢 美穂はなざわみほ

 3rdと呼ばれている。

 彼女の特徴はなんといっても明るい性格だろう。誰とでも壁を作らず関わりを持つムードメーカー的存在だ。

 彼女がいるだけでクラスの雰囲気が明るくなる。元気すぎてお嬢様であること忘れそうになる。


「美穂、挨拶をするならせめておはようございますでしょ」


 癖のない黒髪を背中の中ほどまで伸ばし、鋭くも美しい瞳を持つ少女がそう言った。


 そんな彼女の名前は───桜崎 琴音さくらざきことねだ。

 2ndと呼ばれるている。

 そんな彼女の特徴は無表情で落ち着きのあるクールな性格だろう。女子からは王子様系お嬢様という意味のわからない存在にされ、すごく人気がある。おそらくそこらの男子よりも女子にモテるだろう。


「琴音は厳しすぎますよ。学園の中ですし、挨拶くらい許してあげましょうよ」


 癖のない亜麻色の髪を背中の中ほどまで伸ばし、優しい瞳をした少女。


 そんな彼女の名前は───四条 陽葵しじょうひまりだ。

 彼女こそがこの学園の頂点に君臨し、1stと呼ばれる人物だ。

 総資産200兆円。

 この国に住んでいれば知らない人はいない財閥系───四条グループ。

 四条陽葵はそのご令嬢なのである。

 背筋を真っ直ぐ伸ばし、清楚な笑みを浮かべる彼女には品があり、思わず見惚れてしまうほどだ。まれにだが姫様と呼んでいる人もいる。


「ダメよ。私たちはこの先、国を引っ張っていく事になるの。だから今の内からそういうところはしっかりしておくべきだわ」


 一切躊躇せず、バッサリと陽葵の意見を切る琴音。


「そうかもしれませんが、無理に直す必要は無いと思いますよ」


「陽葵の言う通りだよ! 琴音だってそういう事あるでしょ!」


 美穂の発言にビクッと体を震わせる琴音。


「……………わかったわ。もう好きにしなさい」


「ありがと琴音」


 そう言って琴音に抱きつく美穂。


「ちょっと、離れなさいよ」


「やだ〜!」


「美穂はほんと甘えん坊ですね」


 トップ3の彼女達は非常に仲がいい。

 どれくらい仲がいいかというと、同じ家で三人一緒に暮らすほどである。噂によれば、小等部の時からずっと同じクラスなんだとか。一体なにをしたらそうなるのやら……………。


 すると数人の少女達が三人の元に寄ってきた。


「あ、あの………今日の放課後、お茶会を開くつもりなんですが………よろしければご一緒にどうですか?」


「お菓子ある?」


「は、はい! たくさんご用意しています」


「じゃあ私行く!」


 別の少女が琴音の元に寄ってきた。


「あの、桜崎さん。ここの問題教えてもらえないかな?」


「ええ、良いわよ」


「ねえ二人もお茶会くる?」


「行くわ」


「私は少し遅れて参加させてもらいます」


「なんか用事?」


 美穂がそう言うと陽葵はカバンからから三枚の手紙を取り出した。


「また恋文を貰ったので……………」


「おぉー! さすがだね………………」


 こんな感じで三人とも色んな人から引っ張りだこである。

 生徒の中には同じクラスである事が幸せなんて言っている人もいるくらいだ。


 そんな三人を教室の隅で見ているのがこの俺、蒼井 日高あおいひだかである。


「おい日高。またあの三人見てんのかよ」


 そう言って隣に座る男子生徒の───長谷部洋介はせべようすけが話しかけてきた。


 俺はこの学園で唯一の庶民であり、しかも外部受験で高等部に入ってきた。

 そんな俺に話しかけてくれて、しかも友達になってくれたのが陽介だ。


「見てるだけなら目の保養だなと思ってな」


「話しかける勇気が無いだけだろ」


「そう言えなくも無い……………」


「いや、そうだろ」


 確かに今は話しかけられないよな。


 そんな感じで朝をすごし、一時間目の授業が始まる時間が近づいてきた。


 移動教室という事もあり、教室にいる生徒は徐々に少なくなっていった。


「陽介早くしろ。先行っちまうぞ」


「おお。今行く」


 そう言って陽介は席を立った。


「じゃあまた後でな」


「ん」


 小等部から同じともあれば他の友達がいるのは当然だ。

 陽介はグループに入れようかと誘ってはくれたがそこまでの勇気がない俺は断った。


 そうしていつの間にか教室にはあの三人と俺だけになっていた。

 俺は席を立ち、三人の元に近づいた。


「皆様───あっ、違った。お前ら早く行かないと遅れるぞ」


「タメ口慣れませんか?」


「ああ、日常的に敬語を使っていると少し違和感があるな」


「日高ぁ、肩揉んで」


 そう言って席に座り、だらんとする美穂。


「仕方ないな………………」


 俺は言われた通り肩を揉む。


「はぁ〜気持ちいい…………」


「ずるいわよ美穂。私もして欲しいわ」


 そう言って姿勢よく椅子に座る琴音。


「おい、座ってるとこ悪いが俺の腕は2本しかないんだ。二人は無理だぞ」


「両手じゃなくて片手で揉めばいいだけの話じゃない。それくらい日高くんなら出来るわ」


「えぇー……………やりにくいんだけど…………」


 全く、面倒な要望を出してきやがって。


 サク。


 そんなお菓子を噛んだような音が俺の耳に入った。


「琴音はもう少し我慢を覚えた方がいいですよ」


「ポテチ食ってるお前には言われたくないと思うぞ」


「なっ! 勘違いしないでください。これは琴音にもあげるつもりだったんですよ」


「はぁ〜……………好き放題やりやがって」


 俺は一度肩もみを止め、陽葵の方に近づいた。


「リボン曲がってるぞ。後、食べかすが服に付いてる」


 すると陽葵は恥ずかしそうに頬赤くした。


「あ、ありがとうございます」


「お前はこの学園のトップなんだ。ボロが出ないようにはしろよ」


「私はなりたくてなってる訳じゃないんですけど」


「だとしても、周りの生徒からはそういう認識なんだ」


「……………分かりました。気をつけます」


 不満げな表情を浮かべてそう言う陽葵。


 ほんとに世話が焼けるな。


「日高。肩もみの続きしてよ」


「美穂はもう十分やって貰ったでしょ。次は私の肩よ!」


「いや、もう終わりだ。これ以上は授業に遅れる」


 そう言って俺は自分の机から教科書を取り出した。


「分かったわ。じゃあ日高くん、昼食の時間は私の肩を揉むのよ」


「はいはい」


「えぇ〜私まだ満足してない」


「やかましいわね美穂。少しは日高くんを譲りなさい」


「日高さん。ポテチ食べますか?」


 全くこの三人ときたら、好き放題しやがって。俺がどれだけ苦労してるのかわかってるのか。


「はぁー………。とりあえず弁当やるから静かにしてくれ」


 そう言って俺は三人分のお弁当を机に並べた。


「作っていてくれたの!」


「しょ、しょうが無いわね。我慢してあげるわ」


「作ったなら先に言ってくださいよ! ポテチ食べちゃったじゃないですか!」


「それは知らん」


 三人とも嬉しそうにお弁当を取り、自分のカバンにしまった。


「ではまたお昼にいつもの場所で待ってますね」


 そう言って三人は揃って教室を出ていった。


 まさかこんなに疲れる仕事だとは思わなかったな。


 おそらく誰も本当の三人があんなであると信じはしないだろう。

 人前ではなぜかボロが出ないからタチが悪い。


 俺の家は貧乏であり、あいつらはとてつもない金持ち。育ちから格が違う。

 だが生活力は俺の方が遥かに上だ。

 それでも、ここまで頼られるとさすがに俺も困る。


 それなのになぜ、俺があの三人の世話係をしているのか、その理由を語るには数ヶ月ほど遡る必要がある。

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