幼なじみなのに名字呼びされる俺。お告げを信じたら幼なじみだけでなく、その姉まで恋人に!
南北足利
第1話 プロローグ
俺の名は錦埜幸介、公立の進学校に通う17歳だ。
10月〇日、登校すべく自転車で向かっていると、
小さなお稲荷さんの方からガチャンガチャンと危ない音が聞こえてきた。
覗いてみると、大きなアライグマが小さな祠の中に顔を突っ込んでいた。
あ~、最近、このお社が明らかに傷だらけになっていたのは、
こう言うことだったんだな・・・
俺の視線に気づいたアライグマは牙を見せ、威嚇してきた!怖っ!
辺りを見渡すとちょうどいい大きさの石が転がっていた。
それを拾って、そろそろと動いていく。
よしっ、ここからなら石が外れても、お稲荷さんを傷つけることはないだろう。
だが、まあ、一度は警告するか!
「おい、もう辞めろよ。」
シャッーッ!
威嚇が激しくなった!
「せ~のっ!」
「ギャッ!」
全力で投げたら腹にバッチリと当たっちまったよ!
そして、アライグマはヨタヨタと逃げて行った。
ゴメン、やりすぎちゃった!
「やれやれだぜ!」
地面に転がっている食器なんかを拾い上げると、後ろから声を掛けられた。
「あのアライグマには困り果てていたゾイ。
もう何日も何にも食べ物を置かなかったんじゃがな。
どうもありがとう。」
どこにでもいそうな優しそうなお婆さんだった。
「もう、来なくなるといいですね。これって、どう並べたらいいんですか?」
お婆さんは俺の手から食器を受け取るとひょいひょいと迷いなく祠に並べた。
「じゃあ、これで。」
「待たぬか。せっかくだから、お参りするゾイ。」
「あ、はい。・・・お賽銭は?」
「それは今度で良いゾイ。ちなみに、油揚げを一番好まれておるゾイ。」
「それって油揚げを買って来いっていうことだよね!
・・・それを置いたら、またアライグマが来るんじゃ?」
「袋を開けてお参りの間だけ、置いておくゾイ。
その後、持って帰って家で食すといいゾイ。」
油揚げってたぶん、そんなに高額じゃないし、まあいいか。
二礼二拍手一礼した。
「東雲妃鞠と付き合いたいです」
『ギャンブル運サイキョー!あるだけ突っ込め!』
頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!
ナニコレ!
慌てて目を開けて右左、後ろを見てみたが、
ドッキリ大成功ってプラカードは見当たらなかった。
「何でそんなに驚いているか分からぬが、たまにはバカになるのも楽しいゾイ。」
傍らでお婆さんがニコニコしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ようやく6時間目の授業が終わって、のろのろと準備をしてから
2年3組の教室を出るとすぐに東雲葵先生と目があった。
それまで営業スマイルで、帰る生徒に挨拶をしていた葵ちゃんだが、
俺を見ると親しみを込めた笑顔になった。
「こう、錦埜君、ちょっといい?」
「えっ、なんですか。」
「今から帰るんだよね。ちょっと、ちょっと。」
周りの嫉妬の視線が突き刺さる中、葵ちゃんは俺の腕を引っ張って、
狭くて荷物で一杯の生徒指導室に連れ込こんだ。
葵ちゃんは短い栗色の髪、小柄で可愛くて、
しかも胸が大きいと評判の国語の先生で、
今年、女子大学を卒業してこの高校に配属になった。
俺の幼なじみであり、片思いしている東雲妃鞠の姉でもある。
子どもの頃、妃鞠と一緒に葵ちゃんに面倒をみてもらっていて、
ずっと弟のように可愛がってもらった。
葵ちゃんは、中高大と女子高だったため男子に対する耐性がほとんどなかった。
だけど、年上の可愛いお姉さんなもんだから、男子が放っておくはずもなく、
毎日のように囲まれ、引きつっていた。
だからだろう廊下で俺を見るたびに笑顔になって小さく手を振ってくれた。
もう、超可愛かった。
だけど、妹の東雲妃鞠が同じクラスにいるから俺たちは全く授業を受けていない、
残念!
余りの荷物の一杯さに呆然としていると、財前先生が入ってきた。
30代前半のキツめの美人先生だ。
この先生は、毎日、シャツは大きな胸の谷間が見えるヤツで、
スカートは膝上20センチのミニばかりはいている。
生徒の一部に熱狂的なファンがいて、甘やかして欲しいだの、
イジメて欲しいだのと騒いでいた。
「あら、錦埜君が貴女の幼なじみだったの?」
「そ~なんです!すっごく可愛いかったんですよ!
妹と離れるとぴーぴー泣くから、ピースケくんって呼んでたんです!」
財前先生に向かって葵先生が力説した。
「ほ、保育園のころだろ!勘弁してよ!」
「うふふ、ピースケくん、今日はよろしくね。」
財前先生の笑いを含んだ言葉が俺の心に突き刺さる。
「・・・帰ります。」
「幸介くん、お願い!手伝って!」
「・・・何をすればいいんですか?」
「この部屋を片付けようと思ってね。私たち2人とも背が高くないでしょ。」
高い本棚が何本も並んでいる。俺は175センチあるけど・・・
「背の高い先生だっているじゃない?」
「いや、でも、だって・・・手伝ってくれないの?」
葵先生はもじもじとしながら、俺を上目使いで見た!か、可愛い!
ずるい!そんなの断れないだろ!
まずはいらない書類と本を紐でしばってゴミの集積場に3度捨てにいった。
本ってなんであんなに重いんだろ?
この生徒指導室は2階にあって、学校にはエレベーターなんてないから大変だった。
3度目が終わって生徒指導室に戻ると財前先生と葵先生が笑顔で
コーヒーとお菓子を用意していた!
「・・・準備いいですね。」
「職員室には言論の自由がないからね。ここで女子会しようと思ってるの!」
「いいですね!だけど、なんで俺がそのお手伝いを・・・」
「まあまあ、このお菓子美味しいよ?はい、あ~ん。」
財前先生がニンマリとしながら、俺の口の前にクッキーを差し出してきた。
こ、これは!
「・・・いただきます!」
パクっと出来るだけ自然に食べてみた。
「幸介クン、はい、あ~ん!」
何故か対抗心をむき出しにした葵先生が俺の口にクッキーをねじ込んできた。
うわぁ、口の中がパッサパサだよ。
そのあとは仲良く世間話を楽しんだ。
やっぱりこの2人はアガるわ!
その後、棚に本をきれいに整理して、粗大ゴミを捨てて終了だ。
「流石、男の子ね、助かったわ~。すごいわ~。はい、これも、どーん!」
持って行こうとした箱の上に、葵ちゃんはさらに積み増しやがった!
「ひでえ!」
2回にわけて持って行こうと思っていたのに・・・・・
重さは大丈夫だけれど、バランスが・・・大丈夫かな?
ゆっくりと階段を降りてゴミの集積場へ向かっていると、行く先で声がする・・・
「ごめんなさい・・・」
うん、この声は・・・
「・・・何、断ってんだよ!」
「キャッ!」
粗大ごみを置いて見てみれば片思いの相手、東雲妃鞠が
同じクラスの対馬宗次郎に腕を掴まれ、怯えていた!
「おい、何してんだ!」
「くっ!」
俺の声に驚いた対馬は妃鞠から手を放したが、こっちに憤然と向かってきた!
そう言えば、ここが行き止まりで誰も来ないスポットだったわ。
対馬は「クソが!」って吠えながら、粗大ごみを蹴り飛ばしたので、
粗大ごみが盛大に散らばってしまった!
「おい!」
「邪魔なんだよ!」
対馬宗次郎は吐き捨てて、足早に逃げていった・・・
東雲妃鞠は水泳部の活動中だろうか、ジャージ姿だった。
妃鞠は綺麗だ。姿勢がよく、背が高く、足が長くてカッコいい。
青みがかかった黒髪は濡れているように艶やかだ。
葵先生は可愛い系だが、妃鞠は超絶キレイだ。
「ありがとう、助けてくれて。」
「いや、声を掛けただけだから。」
もたもたと粗大ごみを集めていたら妃鞠がいくらか持ってくれた。
「ありがと。そこまで持って行ってくれるか?」
高校に入ってから挨拶以外はほとんど話したことないから、これだけでも緊張した。
「いいよ。・・・でも、これ何?」
「生徒指導室のゴミ。」
「・・・もしかしてお姉ちゃん?」
「うん、そう。」
「ふ~ん・・・」
何を言いたいわけ?
「ありがとう、助かったよ。」
「うんうん。あ、さっきの事は内緒にしてね。」
「俺の口は貝のように固いんだぜ。熱せられるとパカって開いちゃうけど・・・」
「じゃあ、よろしくね。・・・錦野くん。」
俺の会心のジョークを無視して行ってしまった・・・
さらに幼なじみなのに、二人っきりなのに、助けてくれてありがとうって言ったばかりなのに、苗字呼び!
絶望しかないな・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます