灰の森にて戦神舞う

羽鳥(眞城白歌)

1「その節はありがとうございました」


 朝ごはんには遅い時刻だったけど、店内には思ったよりたくさんの人がいた。


 空席を探して店内を見回していた僕は、思わぬ姿を発見してびっくりした。あちらも僕らに気づいたのか、驚いた表情でこちらを見ている。

 今の僕に知り合いと呼べる存在は多くなく、その数少ない相手と偶然ばったり、なんてシチュエーション自体が超レア級だ。

 そういえばお二人は龍都で魔物ハンターをしているんだった。


 こういう時、どんな風に声を掛けるのが自然なのかな。迷う僕とは対照的に、真っ先に声を上げたのは銀君だった。


「あーっ、センパイたちじゃないっすか! 良かったー、会えましたねっ!」


 銀君もお二人とは二度目ましてなのに、全くためらわないのがすごい。

 自然体の声は店内に明るく響き、和テイストのローブを着た女性――木花このはさん、が手を振ってこたえてくれた。


「やぁやぁ、こうくんに銀くん! イーシィちゃんまで? 本当、ここで会えるなんてぎょうこうだね。無事な姿を見れて安心したよ」


 脱力したように微笑む木花このはさんのには僕らへの心配が滲んでいて、胸がぎゅっとなった。お互い事情があって中途半端なまま別れてしまったから、きっと気にかけてくれていたんだろう。

 龍都で再会したばかりのイーシィにはその前に起きたお二人との出来事をまだ話していないけど、龍都住まいな者同士、お二人とイーシィは知り合いなんだよね。


「お勤めご苦労様くろしゃまですにゃ。ぼくたちも今から朝ごはんですにゃん」

「あぁん、もうイーシィちゃんてば今日もかっわいいわー! 私たちも文字通り朝飯前の討伐だったからお腹すいちゃって、報告前だけど食べちゃおうかって話してたところ」

「僕たちご一緒していいですか? あっ、自分のはちゃんと払いますんで!」

「可愛いこと言ってくれるねえ。もちろん私は大歓迎だよ。よろしいですよね、鐘馗しょうきさん」

「……無論」


 流れるように話が盛り上がってまとまって、僕らとお二人は一緒に食事することになった。

 最後に発言したもくな男性は、鐘馗しょうきさん。黒髪に狐面をつけ、和装にロングコートを纏い、鋭いそうぼうしん―という、見るからに強者感漂う佇まいのお兄さんだ。


 あ、気づけば僕、まだ一言も喋ってない!


「あの、その節はありがとうございました」

「あれくらいなんてことないよ。無事に龍都まで辿り着けて良かったね」


 二人は僕にとって恩人だ。そして今の世界では唯一かもしれない……日本の記憶を共有できる相手でもある。

 遅れた挨拶に木花このはさんは笑顔を返してくれて、鐘馗しょうきさんは僕の顔をじっと見てから、ぽそりと呟いた。


「……随分と泣き濡れているな。何かあったのか?」


 わぁ鋭い。そういえば鐘馗しょうきさん、クールそうに見えて実はすごく気遣いさんだった!





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