第19話 涙と手
「もっと声を出して泣いたら良いよ」
俺は〈美幸〉にそう声をかけて、頭からお尻の手前まで、ゆっくりとさすっている。
俺の手は、〈おばあちゃん〉に比べて、温かくもないし優しくもないけど、何もしないよりはマシだろう。
〈美幸〉は「えぐっ」「えぐっ」と俺の胸に顔を埋めて、大きな声で泣いている。
涙がポロポロと
俺はその涙を
俺は「助けるよ」「守るよ」と言った。
一度はこの手で抱いた女がボロボロになっているんだ、見捨てられるほど俺は悪人にはなれない。
俺に助けを求めている女を捨てたのがバレても、天国にいる〈おばあちゃん〉は決して怒ったりはしないが、それはそれはひどく悲しむだろう。
そんな顔をした〈おばあちゃん〉を見るくらいなら、俺は地獄に落ちた方がまだマシだ。
それほど恩知らずなことはない。
〈美幸〉が俺の腕の中で少し身じろぎをした、もう声をあげて泣いてはいない。
ゴソゴソとし出して、涙の流れる量が少なくなってきている。
「もっと泣いたら良いんだよ」
「お尻も触って」
〈美幸〉は着ていたワンピースを脱いで、スリップも下着も全部脱いでいく。
俺は「えっ」と声をあげてしまったが、こんなのしょうがないだろう、どうして今裸になるんだ。
いきなりエッチな気分になったのか、体はさすってはいたけど。
ただ〈美幸〉の顔はそんな感じじゃない、涙で濡れた顔で
死病に犯された病人が、医者に向けるような目だと思った。
「お願い。 お尻も胸もあの部分も、私の体の全てを〈あなた〉に触ってほしいの」
俺は〈美幸〉があまりにも真剣だから、恐る恐るお尻へ手を伸ばした。
「ふぁ、感じるよ。 〈あなた〉の手を感じるの」
触れと言われたけど、それはどうかと考え、胸を出来るだけ優しくさすった。
動作にほとんど差はないけど、俺の意識の問題だ。
「んんう、〈あなた〉の手はどうしてこんなにも熱いの。 私は溶けて変わってしまうわ」
そう言う〈美幸〉の方が、よっぽど熱いと思いながら、局部もさすることにした。
「はぁぁぁ、〈あなた〉の手の、指の感触を私にきつく覚えさせてよ。 決して忘れないように私へ刻み込んでほしいの」
どうしてこうなったんだろう、〈美幸〉の体をさするのは嫌じゃないんだ。
裸になっている彼女の体をさするのは、むしろご
俺は〈美幸〉お尻や胸や色んな部分をさすりながら、ただただ不思議な気分になってしまう。
天国にいる〈おばあちゃん〉も、
ただ〈おばあちゃん〉も女性だから、俺よりは〈美幸〉の気持ちが分かる可能性があると思う。
ただ〈おばあちゃん〉には余計な事を考えずに、〈たださすれば良いのよ〉と言われそうだ。
女性の気持ちを俺は
〈美幸〉の体の動きが段々激しくなり、息がかなり荒くなってきた。
「あぁん、充分だから、もう触らないでよ。 もうしっかり覚えましたから、止めてね」
「もう良いの。 もっとさすってやるよ」
「んんう、もうダメなの。 これ以上は許してよ」
〈美幸〉はおかしくなった最初と同じように、また体を丸めて俺の手から胸や他の部分を守っている。
触れとか止めろとか勝手な事を言うなと思ったから、俺は少しムッとして、俺の勝手でキスをしてやった。
それも唇を割った深いキスだ。
少しエッチな気分にもなっていたし、〈美幸〉が元に戻り安心したんだと思う。
〈美幸〉は少しだけ抵抗したけど、直ぐに俺の背中へ手を回してきたから、〈美幸〉もしたかったんだと思う。
最後の方はエッチな感じになったけど、最初の方は普通じゃなかったので、もちろん〈美幸〉を抱く気はなかった。
だけど〈美幸〉は「したいですか」と聞いてきた。
俺は「〈美幸〉が辛いことを思い出したのに、今はしないよ」と答えておいた、それはそうだろう。
「ふふっ、〈あなた〉で良かった。 私は幸せです」
「泣いた赤鬼がもう笑った」
「えぇー、違いますよ。 それを言うなら、〈泣いたカラスがもう笑った〉でしょう。 それ以上に私を赤鬼に例えるなんて、どういう意味ですか。 絶対に許せません」
「あははっ、それは赤くて可愛いってことだよ」
「はぁ、可愛いって言葉だけで、私は騙されません」
「ふふふ、服よりも、よほど裸を俺に見せたいんだな」
「あああ、こっちを見るな。 バカ。 もう知らない」
結局俺の実家に着ていく服は、最初のヤツになった。
二着目は変な脱ぎ方をしたので、
後で〈美幸〉にどうしてああなったんだと聞いたら、「過去の嫌な事を思い出してしまったの」と言っていた。
当然これ以上の詳しい事は聞けない、また思い出してしまうからな。
本人が嫌だった事を誰かに打ち明けて、何かで昇華出来る未来が来ることを祈ろう。
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