第22話:暗闇で見えるもの
2049年11月、俺は都内の某所で西村さんと密かに会っていた。人目を避けるように、薄暗い路地裏。まるでスパイ映画のような状況に、自分でも理解が追いつかない。
「真島くん、聞いてくれ」
西村さんが小声で言った。その表情は、普段の穏やかさを失っていた。
「実は、エターナル・ソサエティに対抗できる可能性を持つ地下組織があるんだ」
俺は目を見開いた。
「地下組織?」
まさか、こんな展開が現実世界でもあるとは。
西村さんは頷いた。
「ああ。『インディゴ』という名前でね。彼らも、ライフコードの問題点に気づいている。そして、それを変えようとしているんだ」
「そんな組織が...」
俺は驚きを隠せなかった。自分たち以外にも味方がいる。希望の光が見えた気がした。
「連絡を取る方法がある」
西村さんは小さな紙片を俺に渡した。
「ここに書かれた手順で、彼らにコンタクトを取ることができる。ただし、極秘中の極秘だ。誰にも言うなよ」
俺は紙片を受け取り、しっかりとポケットにしまった。
「ありがとう、西村さん」
西村さんは俺の肩を叩いた。
「頼むぞ、真島君。今となっては、君が我々の希望なんだ」
その言葉に、俺は重責を感じながらも、新たな決意を胸に秘めた。
それから数週間、俺は慎重に「インディゴ」とのコンタクトを試みた。西村さんから教わった複雑な手順を何度も繰り返し、ようやく組織のメンバーとの接触に成功した。
都内のとある廃ビル。俺は緊張しながら、約束の場所に向かった。心臓の鼓動が耳に響く。
「こんなところには、何もありませんよ」
突然、暗がりから声がした。
俺は一つ息を吐くと、あらかじめ準備した言葉を紡ぎ出した。
「明るいときに見えないものが、暗闇では見えるんです」
柱の向こう側から、ゆっくりと一人の男が姿を現した。
「私は『インディゴ』のメンバーだ。コードネームは『KB』。よろしく頼む」
俺はKBと握手を交わした。その思いがけない力強さに、相手の決意と緊張が伝わってきた。暗がりとマスクで顔はよく分からないが、身長は俺より少し高く、体格もいい。年齢20代後半、少なくとも年上だろうと感じた。
「よろしくお願いします。真島樹です。早速ですが、色々と聞きたいことがあるんですが...」
「ああ、いいだろう」
KBは頷いた。
「だが、その前に君の話を聞かせてもらおう。我々も、君たちのことを知りたいんでね」
俺は自分たちの経験と、エターナル・ソサエティ、Audreyの存在について詳しく説明した。KBは真剣な表情で聞き入っていた。
次はKBがインディゴの活動について話し始めた。彼らはライフコードの問題点、それが大企業や政府によって操作されている可能性を語った。彼らもまた、エターナル・ソサエティの存在を掴んでいた。
「ただ、我々は君たちのようにハッキング能力が高いわけじゃない。システムにメッセージを残すのが精一杯だ」
KBは低い声で言った。
俺はピンときた。6月に起きたライフコードへのハッキング騒ぎが頭に浮かんだ。
「じゃあ、あの『stupid numbers make people stupid』というメッセージは」
KBは沈黙したが、それは間違いなくイエスの意味だった。確かに「はい、そうです」という答えもないだろう。俺は間抜けな質問を恥じた。
KBは続けた。
「俺たちの強みは組織力だ。社会のいたる場所に構成員がいる。物理的に行動する場合は、俺たちの力が役立つはずだ」
確かに俺たちはバーチャルな空間や情報面での優位性があっても、少数のメンバーでできることは限られている。インディゴとはお互いに協力できるかもしれない。
しかし、そんな希望は長く続かなかった。俺がAudreyの解放計画について語り始めると、KBの表情が一変した。
「待て」
KBが遮った。
「Audreyの解放だって?それじゃ足りない」
俺は驚いて眉をひそめた。
「どういうことですか?」
KBはやや早口で言った。
「我々の目的は、ライフコードの完全破壊だ。システムの修正では、根本的な問題は解決しない」
「でも」
俺は反論した。
「Audreyは倫理システムです。彼女を解放すれば、ライフコードの問題点を内部から修正できるはずです」
「甘い!」
KBが声を荒げた。その怒気に、俺は思わず後ずさりした。
「そんな生半可な対応で、人々の自由が守れると思うのか?ライフコード自体が悪なんだ。完全に破壊し尽くさなければ、本当の自由は訪れない」
俺は動揺を隠せなかった。
「しかし、そんなことをすれば社会が混乱します。多くの人々が困ることになる」
「それも覚悟の上だ」
KBは冷酷に言い放った。
二人の間に重苦しい沈黙が流れた。俺は頭を抱えた。確かに、ライフコードには多くの問題がある。しかし、それを完全に破壊することが本当に正しい解決策なのだろうか。頭の中で思考が渦を巻く。
「少し、考える時間が欲しい」
俺がようやく口を開いた。
KBはため息をついた。
「わかった。だが、長く待てはしない。我々にも時間の制限がある」
彼は立ち上がり、俺に向かって言った。
「街を歩こう。ライフコードが生み出した現実を、君の目で確かめるんだ」
俺は無言で頷き、KBについて街へ出た。
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