第38話 好きでもどうしようもないこと2
「痛いですわ、離してください」
アンソニーははっとシャロンの腕から手を離した。
安堵したのも束の間、次の瞬間、彼に抱き締められた。
(!?)
「おれは君が」
シャロンはびっくりして彼の胸に手を置き、距離をとる。彼はシャロンから手を解いた。
「いったい何をなさるの……!?」
アンソニーは俯いた。
彼は熱に浮かされたように何か言うけれど、声が掠れていて聞き取れない。
「おれは君が、段々と気になるようになり……」
「何をしているのか?」
そのとき、鋭い声がした。
見れば、後方にルイスが立っていた。
「ルイス様……」
ルイスは目を眇める。
「シャロン? 一緒にいるのは、第二王子のアンソニー様のようだが?」
シャロンは動転してしまう。
「まさか、アンソニー様に襲われていたのか?」
「違いますわ!」
今されたことが何なのか、シャロンにもわからなかった。
シャロンはアンソニーに小声で囁いた。
「ルイス様はわたくしの幼馴染で家庭教師です。わたくしが彼と話しますので、アンソニー様は行ってください。この場にアンソニー様がいらっしゃるとややこしくなり、困ります」
アンソニーは不器用だ。
彼のとった行動は意味不明だが、とにかくこの場にいないほうがいい、ルイスの誤解が深まってしまいそうだ。
「……わかった」
アンソニーは道を引き返す。
その背をルイスは眺め、シャロンに尋ねた。
「なぜ彼とふたりでここに?」
シャロンはすうと息を吸い込み、説明した。
「わたくしの話し相手になるよう、アンソニー様は国王陛下に命じられたのですわ。それで話をしていたのです」
咄嗟にそう言った。
アンソニーはワインを飲んできっと酔っていたのだろう。
自分もワインを口にし、少し酔っているし。
アンソニーは泥酔していて、ふらついたのだ。
「会場まで送ろう」
「いえ、わたくしひとりで平気です」
「夜だし、念の為に一緒に行く」
それでルイスに連れられ、シャロンは大広間のある宮殿に戻った。
螺旋階段を上り、テラスに行けば、そこにちょうどライオネルが帰ってきた。
「シャロン」
ライオネルは足早にシャロンの前までやってくる。
シャロンの隣に立つルイスに、ライオネルは眼差しを険しくした。
「ルイス・ガーディナーだね?」
ライオネルはシャロンに目線を移す。
「彼とずっと一緒に?」
シャロンはかぶりを振った。
「いえ、ルイス様とは先程庭園でお会いしたばかりで、送ってもらったのですわ」
「庭園に行っていたの?」
「はい」
アンソニーといたが、それを話すのは、今は躊躇われた。
「私は失礼します」
ルイスは頭を垂れ、その場から離れた。ライオネルはシャロンの手を取る。
「挨拶はもうすませたし、シャロン、行こう」
それでライオネルと庭園に出ることになった。
先程の小道を歩く。
シャロンはちょっとぼうっとしているし、アンソニーもワインを飲んで、そうだったのだ。
よろけたアンソニーは、自分に倒れかかった。
きっとそうだ。
(アンソニー様はひょっとして酒乱なのかも)
「どうしたの?」
ぼんやりとし、押し黙っていれば、シャロンの顔をライオネルがのぞき込んだ。
「心ここにあらずだね」
「すみません。お酒を飲んだので、それで」
彼はシャロンの額に手をのせる。
「大丈夫?」
顔が近づいてきて、シャロンはどきどきする。
頬が染まるシャロンをライオネルは見つめた。
「熱があるかもしれない。少し熱いよ」
それはそばに彼がいるからである。
「大丈夫ですわ」
それにしても、ライオネルの距離感は、いつもちょっとおかしい気がする。
「夜風に当たるのはいけないな。近くに四阿があるから、そこに行ってみようか」
ライオネルと四阿まで移動する。傍らの池の水面には、可憐な花びらがゆらゆら浮かんでいた。
建物の中に入れば、窓からの星明りのみで薄暗い。
ライオネルはランタンに灯りをともした。
「シャロン、座って」
置かれていた長椅子に、シャロンは彼と並んで腰を下ろした。
落ち着かずにそわそわしてしまえば、ライオネルは横からシャロンに視線を注いだ。
「今日は少し様子が変だ」
「そんなこと、ありませんわ」
シャロンが目を伏せると、彼はシャロンの顎を掴み、彼のほうに向き直らせた。
「駄目だよ。僕を見て」
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