第36話 光り輝く

「……だからこんなわたくしではなく、ライオネル様には今後、もっと違うお相手が見つかると思うわけなのよ」


 実際ヒロインが現れるのである。


「違うお相手……?」

 

 エディは首を傾げた。


「わたくし、ライオネル様とそのかたの仲を取り持ちたいと思っているの」

「姉様、それはぼくの想像していたこととなんだか、違います」

 

 義弟は唖然とする。


「どうして姉様はライオネル様が好きなのに、そんなことを」

「王太子妃は荷が重くて。恋より大事なものってあるの」

「それはあるでしょうけれど」


 シャロンはいいことを思いつく。


(そうだわ!)

 

 折角エディが相談に乗ってくれると言っている。

 乗ってもらえばいいのだ。


「エディ、相談なんだけど」

「なんですか」

「ライオネル様に良いお相手が現れたとき、わたくしの手助けをしてくれない?」

「ライオネル様がそのかたに靡かないようにですね。わかりました!」

「いいえ、違うわ」


 シャロンはかぶりを振る。


「そうではなく、ライオネル様とそのかたが結ばれるよう、わたくし力になりたいの」


 ライオネルのルート以外やハーレムルートでは、この方法は使えないけれど。

 王太子ルートに入る可能性が一番高いと予想している。

 ハッピーエンドに導くため、義弟にも手助けしてもらえるとありがたい。

 エディはぎょっと目を見開く。


「どういうことですか。ぼく、姉様の思考回路がまったく理解できません……」

「理解はいいから。ただライオネル様とそのお相手の仲を取り持ってくれたらいいの」

「姉様は本当におかしなひとです」


 少し話しただけでそう言われるのだから、すべて話すことなど絶対できはしない。


「……わかりました。もしそうなった場合、ぼくはお手伝いするって約束します!」

「エディ、ありがとう!」


 これでより事はスムーズに進むはず。

 ライオネルルートに入れば、義弟に協力してもらおう。

 シャロンはゲーム開始に向け、地道に準備をしていった。


 


◇◇◇◇◇




 今宵王宮で、ライオネルの誕生日を祝う宴が開かれる。

 今日で彼は十五歳になる。

 シャロンは大広間に行き、ライオネルと顔を合わせた。

 盛装姿の彼は、いつも以上に神々しい。


「ライオネル様、お誕生日おめでとうございます」

「来てくれてありがとう、シャロン」


 彼はシャロンの腰に自然に手を回す。

 シャロンはどきっとする。

 彼は精悍になって、ますます光り輝く存在になっていた。


「時が経つのは早いね。来春には、君も僕も魔法学校に入学だ」

「そうですわね……」


 春にゲームがスタートする。


(後少しで始まるわ。気を引き締めなきゃ……!)


 シャロンはきゅっと唇を結ぶ。

 大広間では楽団が華麗な音楽を奏でている。

 ダンスを踊る皆を見、ライオネルはシャロンの手をとった。


「僕たちも踊ろう」


 ライオネルに導かれ、シャロンは大広間の中央に移動した。

 彼と踊れば、鼓動が高鳴った。

 魅力的なライオネルと一緒にいると、女性なら誰でもときめかずにはいられないだろう。

 

 軽やかなステップを踏み、ダンスを楽しんだあと、彼とテラスへ出た。

 従僕が運んできたグラスを、ライオネルは二つ取り、一つをシャロンに差し出した。


「はい、シャロン」

「ありがとうございます」


 ライオネルからグラスを受け取り、口元に運んで喉を潤す。

 従僕にグラスを返し、シャロンはライオネルと、螺旋階段を降りた。

 例のごとく手を繋いでいる。

 いつものことだが照れるし、慣れない。


「庭に出よう」

 

 すると大きな声が響いた。


「今日の主役がどこに行くのだ、ライオネル」


 振り返るとテラスに国王の姿があった。


「父上」


 ふたりは階段の途中で足を止めた。


「婚約者ふたりきりで過ごしたいのはわかるが。まだ宴は始まったばかりだぞ?」


 国王は苦笑し、階段を降りてくる。


「ライオネル、おまえを祝いに訪れた外賓に挨拶をしなさい」

「……わかりました」


 ライオネルはシャロンのほうに視線を向ける。


「すまない、シャロン。少し待っていてくれるかな?」

「はい」


 ライオネルは名残惜しそうに手を離し、大広間に入る。

 国王はやれやれと嘆息してライオネルを見送り、シャロンに声をかけた。


「仲良くしていたところを悪い」


 シャロンは慌てて首を横に振る。


「いえ」

 

 今夜の主役ライオネルを自分が独占するわけにはいかない。


「ん? アンソニーか」


 国王の視線の先に、第二王子のアンソニーの姿があった。

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