第21話 事情を話す2

(クライヴは……亡くなるの?)

 

 悪役令嬢は憎々しいほど、ゲーム中、元気いっぱいだったけれども。


「この屋敷から、違う場所に移動するとかじゃないかしら……?」

 

 悪い方向に考えるのはいけない。


「この屋敷から俺が出ることはありません」

 

 彼はきっぱりと言葉にする。


「こちらでずっと勤めさせていただきたいです」

「そうしてもらえるとありがたいわ」 

 

 公爵家が彼を解雇にすることはないだろう。

 クライヴは真面目に働いてくれている。

 彼も公爵家で勤めたいと意思表示してくれているし、違う場所に行くことは考えにくい。

 彼は人差し指を曲げて、自身の顎に置く。


「お嬢様のおっしゃる物語と、この世界はすべて同じなのでしょうか?」


 シャロンは両腕を組んで考え込んだ。


「わからないわ。わたくしもすべてを覚えているというわけではなくて」


 主人公の周辺が当然一番描写は多く、悪役令嬢側はおざなりだった。


「ヒロインを中心とした物語。敵役であるわたくし側についてはあまり詳しく描かれていないの」

「俺は死んでいたのかもしれませんが、そうではなく、ただ内容に関係ないので省かれていただけかもしれませんね」


 美少年なのでなぜ攻略対象にしないのか、と疑問に感じるが。


「あなたは見た目素晴らしいし、省いたのはなぜかそれはそれで謎なんだけどねえ」

「俺はそんな見た目よくありませんよ」

「何いっているの!?」


 シャロンは虚を衝かれる。

 攻略対象と並んでも遜色ないのに。


「俺はふつうです」


 まったく、ふつうではない。

 イケメンであることを自覚していないのか。

 シャロンはびっくりしてしまった。


「あなたはとても見目が良いわよ。わかっていなかったの、自身の容姿の素晴らしさを!?」

 

 彼は苦笑した。


「ありがとうございます。でも俺はそんな大層なものじゃありません」


 いや、大層美形である。

 だってお茶会で、令嬢も彼を見てそわそわしていたし、メイドたちにも人気がある。

 まだ十一歳だが、将来が楽しみなイケメンだ。


「お嬢様の前世で見られた物語と、すべて同じではないと思うのです。そのゲーム内の、悪役令嬢に前世はなかったのでしょう?」

「なかったわ」

「それだけみても、違う部分です」


 そう言われれば、そうだ。


「あなたはわたくしが話したことを、事実だと思っている?」

「はい。事実なのでしょう?」

「わたくしの頭がおかしくなったとは?」

「内容は驚きましたが、お嬢様のことを信じます」

 

 本当はおかしいと思われているかもしれないが、彼はさすが、おくびにも出さない。

 シャロンはクライヴに事実を話し、非常にすっきりした。

 なんともいえない解放感である。

 スキップを踏みたいくらいだ。

 

 変人と思われたとしても、口外しないでもらえるならいい。


「ライオネル様はお嬢様の婚約者です。もしゲームのヒロインが、ライオネル様を選んだら、どうなさるのですか」


 シャロンの話した内容を、彼は事実として扱うことにしたようだ。


「もちろん、その場合、ハッピーエンドになるよう応援するのよ」

「ゲーム同様、悪役になってですか?」

「ええ。それがわたくしの役割だから。でも屋敷の皆に迷惑はかけられないわ。その辺、注意しないといけないんだけれども」


 難易度はすこぶる高い。


「婚約者のライオネル様ではなく、他の攻略対象と結ばれるように、応援されれば?」

「ヒロインが選んだひととの恋を応援するわ。ライオネル様はメインヒーローだったから、彼と結ばれる可能性が一番高い」

「お嬢様はライオネル様がお好きでしょう。彼がヒロインと結ばれてもよろしいのですか」


 シャロンは胸がちくっと痛む。


(初恋だったわ……)


 儚く散ってしまったけれど。


「わたくしが優先するのは、恋より、生命」


 恋はすでに諦めている。


「世界が滅亡なんてことになってもいけないし。わたくしの初恋なんかより、いくらかゲームをハッピーエンドに導くことのほうが重要だわ。わたくし使命感をもってもいるの。あなたには、このことを内密にしてもらって、ぜひ手伝ってもらえるとありがたいわ」


 シャロンがお願いしてみれば、クライヴはすぐさま頷いた。


「誰にも言いません。微力ながらお手伝いいたします」

「ありがとう」


 彼は真面目だし、きっと話さないでいてくれるだろう。

 クライヴに事実を告げ、協力者となってもらえたことで、シャロンは心が軽くなった。

 彼には変人と思われているだろうけれども……。

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