第13話 幼馴染の指南
「ルイス君、久しぶりだな」
父は笑顔でルイスを迎えつつ、戸惑ってもいるようだった。
「今日はシャロンの家庭教師が、来てくれることになっているはずなのだが……」
「それは私です」
「君?」
「そうです」
ルイスはシャロンにちらと目線を流した。
温度のない眼差しだ。
ガーディナー家とは、家族ぐるみの付き合いがあり、シャロンは彼を昔から知っている。特段仲良くはないが、幼馴染だ。
「私はガーディナー家の人間として、魔術に対する見識があります。私ではご納得いただけないでしょうか」
「いや、そんなことはないが、まさか君自ら来てくれるとは……」
「教えることで、己のためにもなりますので。それに凡庸な教師よりは私は役立てるかと」
ゲームで彼は美貌だったが、幼少時も美少年だ。
「シャロン、わざわざルイス君が来てくれたのだ、礼を言いなさい」
「ありがとうございます、ルイス様」
「いや、君とは幼馴染だ。家もそう遠くない」
幼馴染といっても顔を合わせる機会があった、というくらい。
ルイスは冷淡、無表情。
魔術以外に興味がなく、閉ざされた彼の心を開かせるのが、天真爛漫なヒロインである。
「本当に来ていただいてよろしいんですの?」
「ああ」
彼はゲームで悪役令嬢を断罪する。
「ぼくもルイス様に学びたいです!」
エディが叫び、父はふむ、と自身の顎を撫でた。
「そうだな。エディも魔法学校に通うことになるし、せっかくだ、教えてもらうといい。ルイス君、いいかね?」
「はい」
ルイスはクライヴに目を向ける。
「そちらの彼も魔力がありますね。彼も授業に参加してもらいましょう」
(え?)
その場がしんと静まり返った。
「クライヴが?」
父にルイスは頷いた。
エディは呆気にとられた顔をする。
「何をおっしゃっているんですか、ルイス様? クライヴに魔力があるなんて、ありえませんよ。使用人なんですからね」
魔力を持つ者はほぼ貴族。一般市民でも稀にいるが、ほとんど存在しない。
貴族は幼少時に、国の専門機関によって、魔力の潜在能力を測定される。
魔力保持者であっても、魔力を顕現させる者は少なく、生涯使うことがない者もいる。
そのため一般市民は魔力をもっていたとしても、幼少時に確認する貴族と違い、一生知らないままのこともありえる。
ヒロインは魔力を顕現させたため、魔力保持者と判明するのだが。
魔法学校では危険な魔力の扱いかた等、国の有事に備え、生徒は魔術を学ぶことになる。
「魔力保持者を見分ける能力が、ガーディナー家の者は抜きん出ているが……」
父もクライヴが魔力を保持しているとは、にわかには信じられないようだ。
それだけ魔力保持者は貴族でも少なく、エリートなのだ。
ルイスは内ポケットから短剣を取り出す。
「これは我が家に伝わる魔剣。魔力を持つ者に反応します」
シャロンは短剣を凝視した。
(この剣……確かゲームにも出ていたわ……)
王家の聖剣はゲームで重要な役割を持ち、魔王を倒す武器となる。
対してガーディナー家のこの魔剣は、ヒロインの魔力を示す際に出ていたはず。
「確認してみましょう。剣を抜いてもらいます」
ルイスはクライヴの前まで行き、短剣を差し出した。
クライヴはためらいながら、それを手に取る。
「ルイス君の言うとおりにしなさい、クライヴ」
「はい」
父に命じられたクライヴは、鞘から剣を引き抜いた。
するとその刀身は輝いた。
(光ったわ!)
シャロンは目を見開く。
ルイスはクライヴから短剣を受け取って、ひと振りしてから鞘におさめた。
「ご覧のとおり、彼も魔力保持者です」
その場にいる者全員、唖然とした。
父は息を吸い込んだ。
「クライヴは魔力を持っていたのか……」
「魔剣が魔力に反応しましたので」
「俺がですか」
クライヴ自身も驚いている。
父が言った。
「魔力を持つということは、おまえも魔法学校に行くことになる。シャロンの護衛も兼ね、同時期に入ってもらうことになるだろう。クライヴ、おまえも魔術を学ぶのだ。ルイス君、頼む」
「はい」
それでクライヴも共に勉強することになったのだった。
勉強は屋敷の離れの一室で行うことになった。
「シャロン」
勉強道具を机に置いたシャロンに、ルイスが尋ねた。
「近頃、家庭教師を増やし、勉学に励んでいるとか?」
「ええ、そうですわ」
「どういう風の吹き回しなのか。魔術にも興味なかっただろう?」
「以前はありませんでした」
身体を動かすことが好きだったので、武術は学んでいたが、シャロンにとって、以前の一番の関心事は、音楽、ダンス、立ち居振る舞い、淑女としての嗜みであった。
ドレスや、装飾品など身を飾るものに興味を持っていた。
今は前世の記憶を得、この先のことを見越し、生きていくため必要なことを学ぶのが重要だと考えている。
魔術も将来の糧になるはずである。
公爵家を出た際に備え、ルイスの授業も真面目に聞くつもりだ。
席につき、シャロンは隣のクライヴを見た。
「あなたも魔力をもっていたのね、クライヴ」
「俺もびっくりしております」
父が話していたように、彼も魔法学校に入ることになるだろう。魔力保持者なのだから。
しかし彼はゲームに登場していない……。
(どうして?)
こうなればさらに不思議である。
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