恋人はフランケン!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

「……」


 黒沢は黙り込んでしまった。黒沢は、探偵事務所兼超常現象解決所を営んでいる。黒沢の目の前には、顔に幾つもの大きな縫い傷のある男が座っていた。傷のある男は、黒沢が持っている砂かけ婆の惚れ砂をわけてほしいと依頼したのだ。


「なんで黙ってるんだ?」

「いや、惚れ砂は誰にも渡してないんや」

「もらえないのか?」

「でもなぁ、相手がフランケンやからなぁ」

「俺がフランケンだからなんなんだ?」

「……渡してもいいかなぁと、ちょっと思っている」

「おお、くれ! 少しでいいんだ!」

「でも、人の心を惚れ砂で操るのはアカンと思うねん」

「俺は或る研究の過程で生まれた、誰からも愛情を注いでもらったことが無い。1人でいい、愛する人に愛してもらいたいんだ」

「……人の価値はは外見とちゃうで、内面で勝負してみたらどうや?」

「お前、本気で言ってないだろう? こんな傷だらけの顔の男を好きになってくれる女性はなかなかいないぞ、わかってるんだろう?」

「うーん、そやけど……」

「お前、あの美人の事務員はなんだ? お前の恋人だろう?」

「うん、恋人やけど」

「お前、自分は外見で選んでおいて、人には説教するのか?」

「うーん」

「それに、俺は日雇いの力仕事をしている、金も無いぞ」

「うーん、ちょっと同情してしまうなぁ、その縫い傷はヒドイからなぁ」

「だろ? なあ、俺を幸せにしてくれよ。俺は愛する人を生涯愛し続けるから」

「操はどう思う?」

「一度、惚れ砂無しで告白してから考えてみたら?」

「そやな、それで上手くいったらOKやしな」

「おいおい、このままの姿で告白するのかよ」

「僕もついていくから」

「私も行く!」



 夜の公園、フランケンの愛する朱美が通る。フランケン、黒沢、操が立ち塞がった。朱美が身構えながら言った。


「何よ、あなた達」

「ああ、怪しい者とちゃうから安心してや、この男があなたに話があるらしいから、話を聞いてあげてほしいねん」

「話って、何よ?」

「あなたが好きです! 俺と付き合ってください! 一生、あなたを愛し続けます」

「はあ? あんた、仕事は? 年収は?」

「日雇いの力仕事をしている」

「はあ? あんた本気で私みたいなイイ女と付き合えると思ってるの? 私が付き合うとしたら……イケメンで~♪、背も高くて~♪、とにかくスタイルが良くて~♪、年収は……そうねぇ、最低でも3千万? 欲を言えば1億くらい欲しいけど~♪。それで、車は高級車で~♪、プール付の豪邸に住んでいて~♪、それで、それで……」

「操」

「何?」

「どう思う?」

「こんな女、惚れ砂を使ってもいいんじゃない?」

「だよね、フランケン、ほら」

「おお、ありがとう」



 フランケンが朱美の頭上に1回分の惚れ砂をかけた。







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恋人はフランケン! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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