ラブ・男ども憎しみ合うより暁の大地で愛し合え

楠本恵士

童話国の異変

第1話・鬼ノ城に集まる強者たち

 青いバラの花が国章の【BL童話国】──おとぎ話や童話の主人公たちが、平和に暮らしている世界。


 今日も桃の花が咲き乱れる鬼ノ城の桃園で、上半身裸のたくましい体つきをした『モモ太郎』と、小柄な体型で童顔な鬼の首領『温羅うら』が、身を寄せていた。


 上半身裸の温羅が、モモ太郎のたくましい胸板を撫でながら言った。

「モモさんとこうして、一緒にいられる時間が幸せです……こんな平穏がずっと続けば」


 モモ太郎と温羅から少し離れた場所には、

和装姿の『イヌ』『サル』『キジ』とモモ太郎が名付けた、美形の若者三人が桃の木の下で寝そべって桃の花を眺めていた。

 モモ太郎は小柄な温羅を軽く自分の方に引き寄せる。

 温羅もモモ太郎の胸に横顔を接触させた。


 穏やかな日差しの童話国──ふいに、上体を起こしたモモ太郎が、西方の空に目を向ける。

「どうしたの? モモさん」

 温羅の問いかけには答えずに、モモ太郎は空の一点を見つめていた。

 モモ太郎の見つめている先には、黒い点が見えた。やがて、その点は近づいてくるにつれて黒い鳥だとわかった。


 温羅が言った。

「あれは、伝令の渡りカラス……西から飛んで来たってコトは、西方童話国の美形魔法使い『マー・リン』の使いカラスか?」

 渡りカラスは、モモの近くに降りる。モモ太郎は渡りカラスの足に取りつけてある筒から。

 丸めた紙を取り出して、書かれていた文章に目を通してから温羅に言った。

「大変なコトが起こった……温羅、鬼ノ城に童話国各地域の代表を招集するぞ」


  ◇◇◇◇◇◇


 五日後──モモ太郎の招集で鬼ノ城に、童話国の異能の強者つわものたちが集結した。


 西方第一童話国からは、美形魔法使いの『マー・リン』と王子、白馬に乗ったアー・サーと、円卓の騎士アーサー数名。


 西方第二童話国からは、女装をした男の『ア・リス』と『時ウサギ青年』『マッド帽子屋』、笑いながら姿が消える『チャシュネコ青年』


 風使いでショートパンツを穿いた女顔の『ドロ・シー』と、その仲間たち。


 北方童話国からは頭にヤギ角を生やした青年『ガラガラ・ドン』


 中華童話国からは酒仙の女装仙人『藍菜和あいさいわ』と斉天大聖『ソン・ゴ・クウ』とその仲間たち。


 その他には、船乗り『シンド・バット』と『アラ・ジン』などが着席していた。

 集まった童話国の者たちを眺めて、モモ太郎が言った。

「やっぱり、呼びかけても集まらなかった者もいるな」

 温羅が渡りカラスで招集伝令を送った、メンバー表を確認しながら言った。

「竹林の『カグヤ』さんと、長靴をはいたネコ耳青年の『ニャルタニアン』さんは、来ていませんね」

「あの二人は、こういう場には出たがらないからな……他には?」


「南方童話国の『人魚王子』と、空飛ぶ海賊船の『ブック船長』」

「まぁ、あの二人は三角関係でモメ続けているからな……他は?」

「黒い森の変装狼『ウルフィン』『レッド・フード赤ずきん』『マッチ売りの少年』も来ていません……女装姫たちも来ていませんね、露出狂の『黄金の裸の王子』なんかも」


「一番、この招集に参加してほしい、武闘派の三人が来ていないのか……後でもう一度、渡りカラスに手紙を運ばせるか、あの三人が勝手な行動をしたら戦火が起こる」


 その時、部屋の隅で座っていた屈強な体躯の男性と、腰布だけの痩身美形男が立ち上がった。

 日本神話界の『スサノオ』がモモ太郎に言った。

「童話国の神界で動くのはオレたち二人だけだ、他の神界連中は傍観ぼうかんを決めた」

「二人だけでも心強い……えーと、そっちの腰布とグラディエーターサンダルの神界人は誰だ?」

 腰布の整った顔立ちの男性が、弓と矢筒をモモに見せる。

「あ、ギリシャ神話界の愛の神『エロス』か……よろしくな」

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