選手兼監督持ちの味。
「8回裏、ビクトリーズの攻撃は、4番の新井からです。萩山さん、まず形を作るにはこれ以上ないバッターから始まりますね」
「この勝負の行方が試合の運命を左右する。そんな事になるかもしれませんよね」
「そしてここまで名畑に抑えられていますから、なおのこと彼らしいバッティングにこだわる打席にもなるかも分かりませんよ」
「名畑はここまで7回を投げまして88球。奪った三振が8つ。内訳ですと、内野ゴロ4、フライアウトが9ということですので。得意のチェンジアップで三振もしくはフライを打たせているというデータになっています」
正直、今日の名畑に付け入る隙は見当たらない。ピンク顔のニッコニコ。これ以上ない絶好調状態だ。
今日の彼を打つのは並大抵なことではないが、今日のわたくしが絶好調ではないと決まったわけではないですからね。
姑息な作戦や緻密な戦術などはない。
集中力を高めてひと振りに賭けるのみ。
好球必打の思い。
初球、チェンジアップ。
それまで1つ2つ常にずらされてしまっていたそのボールに対し、ようやくタメが作られた。
足を上げたところでグッと溜まり、足を着いたところでも、ボールの軌道を見極めた。
後は下っ面を叩かないようにして上から被せる。
その結果。
カキィ!!
ライト線に渾身のライナーが飛んだ。これはワンバウンドするヒットコース!
しかし、それを予測していたかのようなポジショニングにライトのアイアンズがいた。
マズイ!
俺は芯で捉えたバッティングの余韻に浸る猶予はなく、すぐに全力で走り出した。
そうは言っても、あらかじめポジショニングしていたとはいえ、ライト線に結構スライスしていくライナーですからね。
なんとかライトゴロにはならんやろ。と思っていましたら、一か八かの素手で掴みにいきやがりまして。
ワンバウンドした打球を素手でガッシリ。そして、体を正面に向けたまま、ランニングスローの具合でビュン。
なにふり構わずに、1塁にボールを放って来やがった。
その放ったボールが俺の右膝に当たってしまうという。
ショートバウンドしたボールをファースト助っ人マンが掬い上げに失敗。しかも俺の走路上にその巨体を倒してきたもんですから、それを避けようと俺は転倒。
そんな中でも、俺に当たったボールが誰もいないファウルグラウンドに跳ねたのが見えましたから、俺はすぐさま立ち上がって2塁へ走り出す。
ノーヘルでダッシュし直し、足を引き摺るようにしながら2塁へ向かい、最後はベースにしがみつくようになりながらなんとかたどり着いたのだ。
記録はヒットとエラー。魂でそのランプを光らせてやりましたわ。
「新井が!新井監督が根性で2塁ベースまでたどり着きました!!ビクトリーズファンからは大拍手!!今日初めてのランナーということになりました!………しかし、大丈夫でしょうか。起き上がれません!!トレーナーが向かいます!」
まるでおじいちゃんのように心配されながら立ち上がり、トレーナーおじさんの肩を借りながらゆっくりとベンチに向かって歩いていく。
ボールが当たった部分の打撲のような痛みと転倒した時にひねった足首の痛みのダブル。
俺はここでお役御免。
ナイスヒット!ナイスファイトなどと、労われながら、ようやくベンチに到着。監督席に座ったまま、ズボンを脱いで治療を受ける羽目になる。
そんな様子を側で見ながら、滝原ヘッドが確認する。
「監督、7番のところで代打柴崎でいいですか?」
「うん。オッケー、オッケー!点取れたらライトに桃ちゃんで」
「はい。柴崎、準備オッケー?菱沼のところで行くよ!!」
ここの2人で点になれば文句はないが、ストレートに詰まらされて浅いセンターフライと三振逃れのボテボテファーストゴロ。
2アウト3塁という状況にするのがやっとだった。
とはいえ、迎え入れれば勝利に直結出来るランナーがそこにいる。代打柴ちゃんで勝負を賭けた。
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