いいお手本ですわね。

「つまりはもっと芳川らしい打撃で勝負して欲しいところことですよね」



「そうですね。色んな意見があると思いますし、高い打率を残すだとか、たくさんホームランを打つというのに越したことはありませんけど。


その瞬間だけを切り取るなら、相手ピッチャーの1番いいボールを打つ。1番いいボールを打ち砕くのが4番バッターの役割だと私は思いますので。


ここでは添田の速球。高めの150キロオーバーのボールをフルスイングするようなバッティングを見せて欲しかったですし、首脳陣やファンもそれを求めていると思いますよ。第1打席だからこそ、まずはそのボールを狙いにいった後で、状況に応じて変化球に合わせるような考え方にして欲しかったですね。


目先の1点を取りにいくのか、これから先のキャリアを意識したバッティングで高みを目指すのか、試合の中で判断していくのは難しいですけど。私は2年目、3年目で2軍でもがき続けていた彼を知っていますから、余計にそう思ってしまいましたかね」



「なるほど。高田さんの芳川に対するアツイ見解。バッターは5番赤月です。速いボール、打ち上げました!高く上がった内野フライ。ショートの龍地が落下点に入りまして3アウト。しかしこの回、ビクトリーズが芳川の内野ゴロの間、1点を先制しています!」




「2回表、ドラゴンスの攻撃は、4番サード青竹!!」



アナウンスされると、俺の後ろにいるドラゴンスファンから大歓声が上がる。1500本安打も見えてきたドラゴンスの顔ですから。


彼が打てば勝つし、彼が打てなきゃ負けても仕方ないくらいの存在感のある選手ですから。



今日の先発捕手である緑川君。10年前のドラ1キャッチャーですからね。安定思考のノッチとは対称的で、攻めたリードが持ち味という部分がありますから。


初球インハイの仰け反らし真っ直ぐ。2球目も足元を崩すスライダーとビクトリーズとアホみたいに相性のいいブルーバンブーを威嚇するような配球を見せた。


しかし3球目。外の真っ直ぐをきっちり踏み込まれた。


快音残し、勢いよく空へ舞い上がる白球。ライト桃ちゃんは見上げたままグラブを上に向けたが届くはずもなく。打球はライトスタンドの前列にそのまま飛び込んでいった。



「ライナーが飛び込んでいきました!ドラゴンス、4番青竹!!打球速度165キロ。角度20度。強い打球があっという間にスタンドへ届きました!パープルス、棚橋に再び並ぶ11号のソロホームランです!」


「2球インコースを突かれた打球でしたけどねえ。逆にカウントも悪くしてヤマを張られましたかね。これは日本代表のバッティングですよ」





「3回ウラ、ビクトリーズの攻撃は、9番、セカンド浅羽」



「スコアは1ー1。添田も3イニングス目、2巡目に入っていくところ、今日プロ初先発の9番浅羽から。身長173センチ72キロ右投げ右打ち。


栃木・白農大学からドラフト3位。連城、酒屋、そして今は2軍で調整中の室井は大学の先輩ということになります。オープン戦は素質が期待されてスタメンを張る機会も多かったですが……」



「なかなかシーズンに入ってそのままの調子というのは難しいですから。守備が売りの内野手ですけど、バッティングのタイプ的には新井に通ずるところがありますので、1軍で8打席目ですか。そろそろ1本欲しいですね」



「初球ストレート!打っていってファウルです。果敢に狙っていきました、浅羽です!」



「「レッツゴー、アサバ!レッツゴー、アサバ!!」」



ライトスタンドの応援団に負けじと、ベンチの面々もルーキー選手に向かって声を張り上げる。


今日は彼にセカンドのスタメンを明け渡した

お祭りちゃんも。まるで弟を見守るような不安げな表情でグラウンドを見つめている。



カンッ!



真ん中低めのスライダー。


キャッチャーの構えよりやや内側に来たそのボールに対して、コンパクトにバットが出た。

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