いきなりとは

勝星君は中盤にちょっと球数もかさんだし、まあ移籍初登板だし、これから中6日でガシガシ投げてもらいますから、今日は6回を被安打5、1四死球、1失点という成績でリリーバーにマウンドを譲ったのだった。


7回は酒屋君。連城君と同じ大学の酒屋の子。


8回はドミニカンセットアッパーのカラセオ。


そして最後はキッシー。


開幕カードでは出番がなかった勝ちパターン陣でしたから、今シーズン初勝利に向けて、4点差でも緩みない継投。


キッシーが先頭のツーベースから1アウト3塁となり、内野ゴロで1点は失ったものの、最後は三振に斬って取りゲームセット。


5ー2でビクトリーズが勝利をものにした。



「よっしゃー!!」



ゲームセットの瞬間、俺の横でショー君が雄叫びを上げ、周りのチームメイト達も同じテンションで大喜び。


ベンチ前で1列に並び、グラウンドに出ていたメンバーを出迎えると、帽子を浅く被ったキッシーが親指で弾くようにして、ショー君にボールを放った。


「ほらよ、おめでとさん。失くすなよ」


「ありがとうございます!」



ウイニングボールを宝石のように受け取り、ショー君は満面の笑み。



そのままヒーローインタビューデッキに登場した。


「お待たせ致しました!本日のヒーローはもちろんこの人!ナイスピッチング、ショーカチボシ投手です!!」




少しブカブカなピンク色のシャツを羽織ったショー君が紹介されると、スタンドからは温かい拍手が巻き起こった。涙を流す観客もいる。



なんてったって、プロ13年目、通算225試合目の先発登板にしてようやくの初勝利ですから。ギネス記録ものである。



「率直に今の感想はいかがでしたか?」



「若干トイレにいきたいです。9回が始まる前に行こうと思ったんですけど、絡んできた酒屋君の話が長くて行きそびれました」



「ビクトリーズ移籍初登板、初先発。6回を投げて1失点というピッチング。振り返っていかがでしょうか?」



リポーターがそう訊ねると、ショー君は背後の霊感を察したようなスピードで後ろを振り返った。


「そうですね。今年のビクトリーズのコアスポンサーは、ゲーム機の会社さんとバナナやキウイフルーツなどの輸入を手掛ける会社さんなんで、それだけを考えて投げたら上手くいきました!……すみません。お兄ちゃんの病気が移ってしまったようです。弟ですけど」



「「ギャハハハハ!!」」


「「いいぞー!新井も出てこい!!」」



俺の得意技の被せ芸。お客さんの反応は上々のようだ。



「それでは最後に、ファンの皆様へ一言お願いします!」



「次は150キロの速球を披露しますので、是非とも応援の方をよろしくお願いします!」



「「カーチボシ!カーチボシ!」」





ビクトリーズ、FA加入の勝星が6回1失点で悲願のプロ初勝利!



ビクトリーズは本拠地開幕戦で満員御礼となった中、開幕3連勝と波に乗るフライヤーズを迎えてのゲームとなった。


ビクトリーズは初回、メジャーからの復帰戦で1番に座った新井が今シーズンチーム初ヒットを放ち景気付けると、2番並木、3番祭と3連打を浴びせ先制。さらに4番芳川の犠牲フライで2点を奪取し、フライヤーズ先発轟の出鼻を挫いた。



序盤に援護をもらった勝星は4回、5番萬波に左中間上段へ特大のソロホームランを浴びるも、低めにカットボールとツーシームを集める得意のスタイルは崩れなかった。


要所では緩急を生かしたピッチングでフライヤーズ打線を翻弄。終始簡単には的を絞らせなかった。


4回の1アウト1、3では牽制球で1塁ランナーを刺し、5回1アウト満塁のピンチでは、竹本の痛烈な打球を好捕し併殺を完成させた。


2点差の5回には、柴崎の第1号2ランホームランで更なる援護があった。


終わってみれば、6回を87球。被安打5、1四死球1失点でまとめ、嬉しいプロ初勝利となった。



ビクトリーズ 大原監督。


「初回から大胆不敵なピッチングで試合を作ってくれた。テンポも良くてピッチング以外の部分もレベルが高い。本人はもう1イニング行きたいと言ったけれど、まだ初戦ですから。これからたくさんの勝ちを積み重ねて欲しい」


と、目を細めて賛辞を送っていた。

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