歳を重ねても、守備は頑張らんとね。

豪快に空振りした後に、藤並君はしまったーと声を出しながらヘルメットを被り直した。



2球目、3球目は外のストレートが外れ、ここでカーブ。意表を突いた90キロの緩いボールがアウトローに決まり、最後は124キロのフォーシームだった。



快音響き、打球が左中間方向に勢い良く上がり、フライヤーズファンが立ち上がり掛けるも、ズダダーッと柴ちゃんが一目散に追っていく。



結構打球が伸びて、最後はウォーニングトラックに差し掛かったところだったが、半身で構えた柴ちゃんがナイスキャッチ。フェンスに手を着き、くるくると回るようにしながら勢いを殺して、最後はボールをスタンドへ投げ入れたのだった。



「オッケーイ!柴さん、ナイスキャッチ!」



ショー君が両腕を挙げながらピョンピョンと飛び跳ねるようにして柴ちゃんを待つ。



「ははっ、あのくらい余裕だっての」



左利きの彼はそんな風にちょっとカッコつけるようなセリフを吐いてショー君とグラブタッチを交わした。





次の守り。1アウト後。右打席には向こうの5番バッター。ちょっと嫌な感じはした。



ズガァンッ!!



日本人離れしたパワー。しっかり上から入ったバットスイングでベルト付近の高さに浮いたボールを捉えた。



豪快なバットフリップ。打球は左中間スタンドの最上段。あと少しで場外というホームランを食らってしまった。




バチーンと捉えられた瞬間、ショー君は打球を振り返ることもなく、一瞬も固まるようなこともなく、外したグラブを頭に乗っけて、その場にしゃがみ込み、スパイクの紐を結び直した。



「フライヤーズ、5番萬波の開幕戦の満塁ホームラン以来となる2号ソロで1点を返します!」


「カットボールだったでしょうけど、ほぼ真ん中でしたね。ストレート周りの球速は、ハーフスピードの感覚でしょうから、甘くなるとこういうことにはなりやすいですよね」



「ここまでフライヤーズ打線を完璧に抑えていた勝星ですが、昨年ホームラン王の萬波に1発を許してしまいました。


打席には6番のハーティー。アウトコース打ちました!これもいい当たりだ!桃白が追っていきますが、右中間を真っ二つに破ります!打ったハーティーはゆっくりと2塁に到達しました。ホームランの後はツーベース!」



「これもちょっと同じようなボールになってしまいましたね。やはり、インコースよりも少し遠いサイドのボールの方が打たれてしまう可能性は高まりますね。連続長打ですから」



「バッターは小城。左バッターです。真ん中低め!変化球拾ってセンターの前だ!柴崎が突っ込みますが………捕れません!前に落ちました!2塁ランナーのハーティーは落ちたのを確認してからのスタート。3塁ストップです」




ホームランを打たれて、連打で1、3塁。これはまずいわねと。奥田ピッチングコーチがタイムを要求しながらマウンドに向かっていった。


俺も行ってあげたいところだったが、ここはぐっと堪えて祈るのみ。ショー君は、奥田さんの言葉に何度も頷きぬがら、額の汗を拭っていた。



「今シーズンから1軍投手コーチに就任しました奥田コーチがバッテリーに気合いを入れ直して、ベンチに戻っていきます」


「はぁ。奥田さんはピッチングコーチでしたね。ビクトリーズの1年目、2年目の頃は、ブルペンのボス的存在でしたよ。ストイックな方でしたから、メジャーに行った千林、小野里、中山……後は今、台湾でやっているロンパオ辺りは相当勉強させてもらったと思いますよ」



「そうですね。リ・ロンパオは、ビクトリーズ在籍時には、奥田、そして今も君臨します岸田と3人で勝ちパターンでのリリーバーとして活躍していました。さあ、ここは2点リードですが1アウト1、3塁。


守備体系的にはどうでしょう。1点はやむなしという考え方に見えます。バッターは8番児山です。初球投げました!これはアウトローいっぱいいいところに決まりました。1ストライクです。


まずはストライク先行。ここに決まると、カーブ、チェンジアップというボールも有効になるかと思います。


2球目。……1塁牽制だ!!逆を突かれた!アウトになりました!!これは素晴らしい牽制球!!これで2アウトです!」


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