実況!4割打者の新井さん11

ぎん

やはり我々よ。

「本人としては、さらにその力強いピッチングに磨きをかけて最多勝というところを狙っているようですから、新井がこのピッチャー相手にどうなのか、非常に楽しみですね。


もし、このピッチャーから彼らしいヒットが出るようなことがあれば、本人としても、チームとしても、一気に乗っていける可能性がたりますよ」



「2年前メジャーリーグ、シャーロットウイングスに移籍し、初年度で打率4割0分4厘をマーク。メジャーでも、その卓逸したバッティングセンスを光らせました。


平柳、前村という2人の盟友と共に、チームとして初めてのチャンピオンリングを獲得、世界一の名誉を手にしました。


しかし去年は、開幕戦のデッドボールによるケガがあり、グラウンド内外で度重なる不運。1年間で僅か3打席だけ。メジャー2年目は満足にプレー出来ない状況になり、日本球界復帰という形になりました。


目の負傷がなかなか完治せず、仮契約の状態の日々が続きましたが、遂に本契約。苦しむチームを救う為に即1軍昇格。そしてビクトリーズスタジアムでの復帰第1打席を迎えます。


お聞き下さい、この大歓声!!真っピンクに体を染めた彼がまたこの場所に帰ってきました!」



いやあ、久々ともなると、すごい雰囲気でして。普通にやろうとするだけでいっぱいいっぱいな感じですから。


自分のファンも、チームメイトも。


だからこそ、結果を出せたらめちゃくちゃ大きいぞ。



とりあえず、いつもルーティンで屈伸をした後に素振りをして、ちょっと立ち止まって、注目を集めてからズボンのチャックを上げて打席に入った。



マウンド上には、ゆうに100マイルオーバーのボールを投げ込んでくるすごい奴。そいつのゆったりとした投球フォームをぐっと見つめて、その長い右腕から繰り出されるボールを見極めた。


後ろのフェンスとバックスクリーンの深い緑から浮き出てくる高めのボール。やや高く、外に流れていったボールをしっかりと見送ったのだ。



正直、初球は何がなんでもぶっ叩いてやろうという気持ちでいましたから、その中で高めにグンと来る161キロを見れたのは大きい。


2球目の159キロは低めに外れ、3球目はスライダーの抜け球が俺の足元付近へと外れた。


「おっと、これも外れました!轟、新井に対して3ボールです」


「轟選手にしても、ちょっといつも通りというのは難しいですよね。今シーズン初登板で、相手が新井ですから。1つアウトが取れれば落ち着くと思いますけど」



「フライヤーズ、キャッチャーの下城も、落ち着いて、落ち着いてというジェスチャーを交えてから、轟にサインを送ります。4球目……速いボールを打っていった!!」





「おおっ、ナイスバッティング!!」


「打球はライトの前に…………落ちる!!藤並が突っ込んで1塁にランニングスローだー!新井はヘッドスライディングー!!……セーフ、セーフです!あわやライトゴロというところでしたが、ヒットです!」



アブネー!!



フジナミ君め、狙ってやがりましたね!分かっていたようなポジショニングに迷いないチャージ。そして目一杯のスローイング。


一瞬アウトになるのが過りましたわ。



それでも、ヒットはヒットだ。俺は立ち上がり、胸についた土など一切はたき落とすことなどせずに、もっと盛り上がりなさいと、コーチおじさんにポコンとはたかれるまで、観客を煽ったのだった。



そして、サインをしっかり見逃していく。



「高田さん、新井がやりましたね!」


「いきましたね、3ボールからね。速いボール。162キロでしたか。12の3で合わせていきました。目の具合と試合感がないところをずっと心配されていましたけど、無用でしたね。……そして多分、今サイン見ていないですよ」


「あら、それはマズいです。しかし、開幕4試合にして、これはビクトリーズのチームとしての今シーズン初安打になりました!2番は並木。こちらは初球だ!いい当たり、レフト前!キャプテンが続きます!!」





もしかしたら、そのままレフト線を破ってしまうのでは?と、思ってしまうくらいの痛烈な打球。長野の喫茶店の長男坊も、俺と同じくストレートをいい形で打ち返した。連打で1、2塁となり、同期入団の中で野手最上位の男も積極的なバッティングを見せた。



「祭も初球攻撃だ!!センターの……左に落ちます!新井は3塁を回ってくる!!ボールは内野に返っただけ!並木も3塁にいきました!!新井、並木、祭の3連打でビクトリーズが先制!!!!3年のビクトリーズを支えた右打者3人衆!今日は初回から上位打線が繋がります!」



胸を右手でポンポンと叩きながら、ネクストのわっかにいた知らん助っ人マンにおケツを叩かれた。



そしてそのまま、打撃コーチ、ヘッドコーチ、大原監督の順番で並ぶベンチに向かっていき、みんなとハイタッチを交わした。



今日はスタメンを外れているマテルちゃんや、緑川君、ロマーノ達が、新井さんはすごいよ!と、褒めてくれるので、気分は上々になりながらも………。


「どっかで出番が来るからしっかり準備しとけよ!」


と、締めるところは締めるのである。



「新井さん、ゲーム機が落ちましたよ!」


「緑川君、ベンチにゲーム機なんてあるわけないだろ!試合中だぞ!しっかりしろ!」



「「ギャハハハハ!!」」

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