10

 放課後。


 部活をしていない生徒も、まだ校内にわずかに残っているはずだ。


 橋坂くん。橋坂、くん。橋坂輝基くん──。


 心の中で何度もとなえながら、必死で彼の姿を探す。


 見当たらない。教室にもいなかった。

 そのとき気づいた。

 私──馬鹿だ。スマホで電話かければ良かった──!


 一階の渡り廊下を通った時──心臓に、突き刺すような激痛が走った。

 もう立ってもいられない。


 けれど。でも。


 しつこいようだけど、彼に伝えていない。


 だから、まだ止まるな。ちゃんと動け、私の心臓。

 大好きで大切な人に、自分の言葉で、好きって伝えるまでは。


 願わくば、あともう少し。もう少しだけ、この命の灯火と、不器用で切ない恋の寿命が、消えずに延びてくれたなら──。


 他にはもうなにもいらない。

 本当に、それだけでいいんだよ、私は。


 諦め、その言葉が脳裏をよぎったとき。

 橋坂くんの周りだけが、光って見えた。

 

 ──見つけた!


「……空?」

「ハァッ、ハァッ! 橋坂くん……」

「どうしたんだよ、お前──」


 顔、真っ青だぞ、と。

 ただことではない私の様子に、流石に気づいたみたいだ。


「えー、えへへへ……。橋坂くんに、はじめてお前呼びされちゃった」


 気づけば私は、彼の腕の中にいた。

 

「ふざけてないで……なんでこんなに、苦しそうなんだよ⁉ どうして──」

「私ね……病気だったんだぁ。余命宣告されてて、心臓発作で……いつ死んでも、おかしくないの……」

「────は、」

「ごめんね。ずっと黙ってて。橋坂くんは……私がいなくなったら、素敵な女の子と、素敵な恋をしてね」

「なんだ、なんだよ、急に、それ……っ。怒るぞ、空……!」

「大好きだよ、橋坂くん──」

「空────!」


 全てを手放し、意識を失う直前。


 なにもかも察したらしい、橋坂くんの熱を帯びた唇が。私の唇に、そっと柔らかく触れた。

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