第7話 ジョッシュ・ナバワン

 マーちゃんの意見により俺たちは現在、最初にいた部屋の四角い柱からツルツルの金属板をがしていた。

 落ち着いてよく見ると広い部屋で、縦横100メートルぐらいはありそうだ。

 柱については20メートル間隔だそうなので16本程度になるらしい。


 ダミノルさんが相変わらず頑張っていたが、他にも『黒クモさん』や俺も手伝うことになった。

 俺はデカいし(7メートルもある)指のある腕が4本もあるから、こういった作業に向いていたらしい。


 ここまで目立っていない黒クモさんであるが、器用で役に立つことが判明した。

 『黒クモさん』は蜘蛛クモ型のロボットだが、脚は6本でダミノルさんと同じく『N』型の関節が2つあるタイプだった。作業用の腕は2本で、これも関節が2つあるタイプだ。

 体高が高く、3~4メートルもある。人間からしたら充分にデカい。

 球形の腹部が後ろについていて、左右と尾部にこれまた球形の砲台のような物がくっついていた。

 目は身体の上の方の周囲に8個あり、よく見るとつぶらで愛嬌あいきょうがある。ダミノルさんの『(;´༎ຶД༎ຶ`)』な顔よりはマシな感じだ。


 ちなみに黒クモさんを『識別しきべつ』してみたところ『しぶとさ:1000』だった。俺よりも強そうだ。能力スキルについては識別不能だった。

 俺ってこんな外見でも意外と弱キャラなんじゃないだろうか。


「マーちゃん。さっきは聞けなかったんだけど、ここと繋がるまで4万年もあのままだったって言ってなかったっけ?」


 俺は柱に張り付いている金属板をがしながら、先ほどは気が動転して聞けなかったことをマーちゃんに聞いてみることにした。


「以前に観察していた世界との接続が切れてからはそれぐらい経ったな。

今回は新しい世界とつながるまで、ずいぶんと早かった。いつもなら100万年以上は経過する。

ところでな、地球の観察を終えてから私の方では50億年ほどが経過している。最早もはや意味のない数字ではあるがな。

シゲルの体感としてはどうなのだ?」


 マーちゃんが言う『1年の長さ』とは俺のいた地球での1年の長さと同じだ。そこは計算して伝えてくれていた。

 そしてマーちゃんと俺とではずいぶんと時間的なへだたりがあることが解った。

 日本語や日本文化について、マーちゃんが思い出してくれたのは驚きでしかない。


 俺としては転生は一瞬の出来事だったと思う。俺の魂みたいなモノはかなりの長い間、塩漬け状態であったらしい。または時間的な意味は無いのかもしれない。

 マーちゃんにはそんな感じのことをモゴモゴと伝えた。

 

 そんなこんなで、柱に張り付いていた鏡のようなかざり板をがす作業は終わった。

 流石にもう持っていくものは無いだろう、と俺が思ったその時だった。


「そんな、壁に穴が……アレが! アレが動いてるのか!? 何で今ごろになって……」


 先ほど開けた壁の穴から、人の声らしきものが聞こえた。アレというのは俺のことだろう。

 どうやら俺の能力スキル『人語理解』が仕事をしてくれたらしい。

 マーちゃんは「こちらの人語はまだ解らん」というので俺が通訳しておいた。ここでの仕事が増えたのは良かった。全くの役立たずでは肩身がせまい。


 そいつはジュストコールという西洋の中世貴族が着ていた様な、袖口に余裕のあるコート、シャツとベスト、ひざ丈のズボン、白くて長いソックス、ショートブーツで全身を固めていた(解説はマーちゃん)。

 髪は銀のロング、目は青、顔つきはスッキリ整っており、肌が不健康に白かった。


 俺が識別したところ……


『ジョッシュ・ナバワン

しぶとさ:40


●能力

格闘術

混乱・麻痺 無効


眠りの術

爆燃の術

冷気の術

衝撃波の術

増術ライズ

抗術レジスト

強化バフ

弱体化デバフ


 意外と強い、のか? という感じだ。

 一応、相手の能力について解ったことをマーちゃんには念話で伝えておいた。

 どういう相手か解らんし、肌の具合が吸血鬼じみた感じなので「こいつはアンデッドではないだろうか」などと考えながら、俺は緊張していた。


 俺たちが固まっていたら、ジョッシュさんは突然に腕を突き出しながらモヤ▪▪のようなモノを集め始めた。ひょっとすると魔素ってヤツなのではないだろうか。


 おそらく5秒ぐらいは経過しただろう。俺たちが観察するなかで、ジョッシュさんの魔法がようやく炸裂した。


ボボボボボボ……


 俺やマーちゃん、8体ぐらい居る黒クモさん、『(;´༎ຶД༎ຶ`)』な顔でボーっと動かないでいたダミノルさんはふくれ上がった炎のかたまりに飲み込まれた。


「ウムゥ……炎の温度は1000℃ぐらいはいったか。シゲルは大丈夫だったか?」


 炎がおさまった後で、マーちゃんのそんな声が聞こえた。

 マーちゃんやロボットさんたちは全くダメージを受けた様には見えなかった。

 俺はといえば特に痛いところも無いし、見た感じげたところもただれたところも無かったので、右腕の1本をサッと上げておいた。


「無傷だと……そんな……こいつらは一体何なのだ……」


 ジョッシュさんが狼狽うろたえていた様なので、それについてはマーちゃんに報告しておいた。

 

 何にせよ、この人の立場については聞いてみなければならない。



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