第4話 マーちゃんのことと俺のこと

 マーちゃんはとりあえず、俺が入ってきた入り口よりも、フロアの真ん中寄りに連れていってくれた。


「今から茶を持って来るのでここで待っていてくれ。椅子があった方が良いんだが、そのサイズだと今は無さそうだな。芝生の上で申し訳ないが、よければ座ってくれ」


 などとマーちゃんが言ってくれるので、俺はそこに腰を落ち着けることにした。


「その……俺ってやっぱりデカいですかね」


 俺はおずおずと切り出した。

 マーちゃんを識別しようとしたが『識別不能』で返ってきた。正直に怖い。


「敬語なんか使わなくてもかまわないぞ。

確かに大きいな。日本的に言うと……7メートルくらいはある。天辺てっぺんの、その触手というか木のみきのような部分を除いてだが。

私が全長160センチメートルくらいだ。尻尾だけなら80センチメートルだな」


 マーちゃんは親切にも俺に教えてくれた。

 マーちゃんを小さく感じても仕方がないサイズだったし、思ったよりデカかった。

 7メートル……頼りにはなるだろう。襲いかかって来るヤツはかなり少ないんじゃないだろうか。

 でも俺にとって、この世界での幸せとは一体何だろう。ただ生きるために生きるのだとしたら、それは相当につらくないだろうか。

 気がつくと5個もある目玉から液体がポロポロとこぼれてきていた。


 俺はマーちゃんに、こうなってからのことを全部話した。

 2030年の日本で生きてヒョッコリ死んだこと、光るパネルに書いてあったこと、能力スキルを使用して石の部屋からここにもぐり込んだこと、全部だ。


 マーちゃんはウンウンと聞いてくれたし、途中で卓袱台ちゃぶだいとお茶が出された。

 卓袱台ちゃぶだいを持ってきたのは黒い蜘蛛クモ型のおそらくロボットで、お茶のセットを持ってきたのはこれまた全身が真っ黒なマネキンのようなアンドロイドに見えた。

 話せることを全部話した俺は嫌な気分から逃れたくて彼らについて聞いてみることにした。

 言葉づかいについてはせっかくだし普通に話すことにした。


「マーちゃん。その……これを持ってきてくれたのはロボットなのかな?」


 フンフンとうなずいたマーちゃんは何やら得意そうに俺に教えてくれた。仕事のデキる女性管理職っぽいアルトボイスで。


「その通りだ。黒クモさんと黒子くろこさんという。他世界のメーカー製品だがコピー製造して改造して使用している。違法だがな。もっともメーカーの存在した惑星系がもう無いから、訴えられる心配は無いぞ!」


 ロボットの説明の後で、マーちゃんは自分がここにいる理由について俺に教えてくれた。


「最初は惑星系や恒星系を分解して食べてたんだがな、超銀河団を食いつくした辺りでここに閉じ込められた。

多分、神とかなんかの上位者の仕事だろう。

それからはたまにだが、他の世界とここがつながるようになった。ひょっとすると同じ宇宙なのかもしれないが、それは考えても仕方がないことだ。

それからは採取と観察をして暮らしている。重力崩壊ほうかいの壁を超えたあたりでめておけば良かったな。ハハハハ」


(※銀河の集まりを銀河団と呼びます。銀河団の集まりが超銀河団です。)


(※重力崩壊:物質はある程度集まると内側に向かって核融合をおこします。さらに質量が多くなると普通はブラックホールになります。)


 俺は管理者の評価を改めた。

 彼(もしくは彼ら)は相当に早い段階で『とある宇宙』の物質が極端に片寄ることをふせいだらしい。

 そして目の前のトカゲさんは俺が鼻クソ以下に見える怪物だった。丸っこいボディは間違いなく本体じゃない。


「地球も観察したことはあるぞ。その時は太陽の寿命が尽きるかなり前に接続が切れてしまってな。カンブリア紀から西暦2020年ぐらいまでだったか。

星系の資源化が出来なかったのが残念だったが、シゲルと意思の疎通がとれたし役には立ったな。

あー……それとな、遠慮せずに茶でも飲んでくれ。緑茶だぞ。味覚の確認はした方が良い」


 ちょっと普通の存在ではないが、マーちゃんの気づかいがありがたい。

 それと、太陽の寿命が尽きるまでは星に手を出さない、と聞いて俺は安心した。

 マーちゃんは理性的ではあるらしい。


 ところで、勧められはしたものの、どうやって茶を飲もうか俺は悩んでいた。

 形状は卓袱台ちゃぶだいではあるが、かなりデカいテーブルが俺の目の前にある。そこには例の50センチメートル級の湯呑みが置いてあって湯気をたてていた。


「とりあえず食料はたくさんある。米とか色々とな。これも何かの縁というヤツだ。

その他諸々もろもろのことについても頼ってくれて大丈夫だぞ」


 マーちゃんの頼もしくもありがたい台詞セリフを聞きつつ、俺はお茶をどうやって飲もうかまだ悩んでいた。

 食事をする用の口って、この身体のどこにあるんだろう……。


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