第12-2話

 そしてインモラルは氷でできた鷹を以前よりも多く作った。


(-ピンッ)


 5羽の鷹が円形競技場を弾丸のような速度で横切った。


 アデルは先ほどと同じように鞘に手をのせた。すぐ同じ結果が出た。


 鷹はみんな真っ二つに割れて床に落ちた。


 それなのにアデルは緊張を緩めることができなかった。


 インモラルが引き続き別の鷹を作っていたからだった。


「スピード戦でいこうということか?頭がおかしくなったんだな。」


 スピードはアデルの得意技だった。


 アデルは主力スキルの抜刀を使い続けた。


 氷鷹が死んで地面に落ちる音が絶えず続いた。


 円形競技場の外でその光景を見ていた生徒が言った。


「最初は5羽、次は20羽。そのまた次は40羽···もう目では数えられない。 80羽はとっくに超えたと思う···。」

 するとある生徒がそれを否定した。


「幼い頃に山で見たことがある。あの数は200羽以上だよ。」


 円形競技場にいる本物の鷹の数は500羽だった。


 アデルの体は汗でびっしょりになっていた。


 大量の物量を処理するたびにアデルの呼吸が荒くなった。


 アデルは自分が間違っていることにだんだんと気づき始めた。


「スピード戦ではなく持久戦を狙ったのか。」


 その通りだった。


 レベル200になったインモラルは魔力量が8000に増えた状態だった。


 氷鷹に必要な魔力は20。


 単純計算だけでも400羽の鷹を作ることができた。


 一方アデルの魔力量は5400であり、抜刀には40の魔力を必要とした。


 魔力がなければ体力が減る抜刀の特性上、アデルはある瞬間から体力が削られていた。


 泣きっ面に鉢で、インモラルは「グラデーションフィーリング」の補正を受けゆっくりと全体のスタットが30%上がっていた。


 その値をレベルに換算すると260 に達していた。


 今やインモラルはアデルと能力値の面で同じレベルだった。


 インモラルは殺伐とした目をしていた。


(スタットが上がった結果、魔力量も上がった。総魔力量は10400だ。1秒当たりの魔力回復量まで考えれば、鷹はまだ作れる。)


 インモラルはアデルを殺すように見つめながらそんなことを考えていた。


(だが鷹はもう作らない。)


 インモラルは、最後の場面をすでに頭の中に描いた状態だった。


 乱戦続きのときだった。


 空には数多くの鷹が夢中で飛び回る。その中心で攻撃を受けているアデルは汗だくだった。


 呼吸さえ不規則になったアデルは目をそっと閉じた。


 精神を集中しているようだった。


 刹那の瞬間だった。


 アデルは残りの体力を限界まで使い、これまでとは違う抜刀を使った。


「月光抜刀流4式月光大斬!」


 鞘からきらびやかな光がさした。


 そうして三日月模様の巨大な剣気が姿を現した。


 アデルが作った月光大斬は、すぐさまインモラルに向かって疾走していった。


 円形競技場を走る月光大斬は、前から向かってくる全ての鷹を引き裂いた。


 空を埋めていた鷹が半分以上地面に落ちた。


 ついに月光大斬はインモラルの前へとたどり着いた。


 アデルは静かに呼吸を整えながら独り言を言った。


「終わりだ、二重人格者め。」


 円形競技場の中に爆音とともに黒いほこりが立ち上った。


 外でその光景を見ていた生徒たちは、ほこりが早く収まるのを待った。


 やがてインモラルの姿がはっきりと現れた。


 インモラルは一滴の血も流していなかった。


 半球形の防御膜がインモラルを包み込んでいた。


 さらに防御幕は一枚ではなかった。


 幾重にも重なった防御幕の数は20枚以上だった。


 半分に分かれた防御膜も、そうでない防御膜もあった。


 アデルはそれを見て目を見開いた。


「まさか···お前…。」


 インモラルはアデルの表情を見て喜びを感じていた。


 自分が負けるとは全く思っていなかったというあの表情。


 インモラルはアデルの首を切った後、時間を戻したかった。


 さっきまで自信満々だったアデルに、屈辱を味わっている自分の悲惨な面を目の前で見せたかった。


 アデルは再び口を開いた。


「お前…この状況は偶然なのか、それとも本当に計画的なものなのか…。」


 インモラルは答えなかった。


 当然、すべては計画されたものだった。


 秘薬のおかげでレベルは大きく上昇したが、正直200以上のみ使える強いスキルが一つもなかった。


 秘薬を作るだけでも時間が足りなかった。


 結局今あるスキルで勝負をつけなければならなかった。


 持っている攻撃用スキルはすべて下級や中級だけで、


 月光抜刀もアデルの抜刀に勝てるものは一つもなかった。


 これでは武力で圧殺できないため、持久力勝負に目を向けたのだ。


 観察力のあるインモラルはアデルの主力スキルに入り込んだ。


 アデルの主力スキルは抜刀。抜刀が強力な理由は、マナがなければ体力をコストで消費できるという点だった。


 インモラルはそこを狙った。


 ひそかにアデルが最も強力なスキルを最後に使うよう心理戦をリードしていたのだ。


 タイミングと頭の回転が必要だった。


 アデルの残りの体力でどれだけ強いスキルが出るかを測らなければならず、防御スキルを連続的に使う魔力を限界まで計算しなければならなかった。


 アデルは後になってこのことに気づいた。


 そして結果は今と同じだった。


 インモラルはいつでも残りの鷹でアデルを殺すことができた。


(さあ、あがきたまへ。)


 インモラルはアデルが倒れるまであがくと思っていたが予想は完全に外れた。


 アデルはこれまでとはまったく違う人のように思い切った表情をした。


「実力をつけるために宗教にまで入門したが、やはり私はたかがこの程度か…。」


 アデルは自分を非難していた。


 インモラルはその光景が実にみっともないと思った。


 そのため攻撃するのを止めた。


 インモラルは空にいた氷の鷹をすべてなくした。


 さっきまで夢中で飛び回っていた鷹が一瞬にしていなくなると、空はこの上なく静かになった。


 円形競技場には負け犬と勝利者だけが残っていた。


 勝者のインモラルが後ろを向く前に話した。


「この戦いには賭けがかかっていた。それを忘れるな。」


 アデルは答えなかった。ただ下を向いていた。


 インモラルは無表情で後ろを向くと、小さな閃光とともに円形競技場から消えた。


 長い戦いが終わったのだ。


 しばらくして円形競技場の外にいた生徒たちが嘆声を上げた。


 皆がインモラルの勝利を信じられないという様子だった。


 平原の上の嘆声と驚きはしばらく収まらなかった。


 平原にはいつの間にか薄暗い雲が消え、再び強い日差しが照りつけていた。

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