第9-2話
インモラルは目を細めた。呆れたが、ティータイムは始まったばかりだった。
インモラルが言った。
「アラン、基礎魔法でお茶を沸かしてみなさい。」
「は、はい!」
アランは緊張した声で腰を伸ばした。
その姿が不器用極まりない。しかし何と言うか、一方ではまた可愛い。
下手なりに努力しようとするその姿からは初々しさが感じられた。
アランはすぐに手を伸ばしてお茶を指差した。
インモラルはそれを見て何をしているのかと思った。お茶を持って下から熱くすることが正常だった。
一瞬、ボっという音がした。
食卓にあるお茶の下に火がつくと、当然食卓にも火がついた。
(お茶を入れろと言ったのに、食卓を焦がすのか。)
インモラルは困惑した。ルイビトン女教主が怒るのは明らかだったからだ。
インモラルは事態を収拾するために素早く魔法を使おうとした。
しかし、火はすでに消えていた。
ルイビトン女教主がすでに火を消した後だった。それもたった一本の指を空中に引くだけで火を消した。
(指でさえも剣なのか?)
インモラルがそう考える時だった。
ルイビトンは席から立ち上がりアランの方へと歩いた。
アランを体をぶるぶる震わせながら頭を下げた。
「も…申し訳ございません。」
インモラルは、ルイビトンがアランに平手打ちでもするのかと思った。
意外だった。彼女は優しくアランを包んだ。
体をぴったりとくっつけてアランの手を撫でることさえした。
「アラン、大丈夫?」
声がとてつもなくやさしく、ルイビトンとは思えないほどだった。
それに名前を呼ぶなんて、誰かが見たらルイビトンが家族だと思うだろう。
「だ…大丈夫です!」
アランは当惑してルイビトンから逃れようとした。だが、軟弱な体を持ったレベル12が、ミノタウロスの頭でさえばっさりと斬るレベル500から脱出できるはずがなかった。
「さあ、力を抜かなきゃ。」
ルイビトンが優しく接すると、アランは結局素直に彼女に身を任せた。
ルイビトンは片手でお茶を持ち上げた。もう片方の手はアランの手を握って魔法を使わせた。
アランは注意深く魔法を使った。
するとルイビトンが持っているお茶の下に小さな火がついた。
ぶくぶく。
室内にはお茶の匂いが一層濃くなった。
インモラルはこれくらいでいいと考えた。
「ふむふむ。アラン、もうお茶を注いでもいいよ。」
アランはしまったという顔でルイビトンから離れた。
ルイビトンは油断したというような顔をした。
彼女は元の場所に戻った後、インモラルを睨んだ。
インモラルは必死に厳しい視線を無視した。
その間、アランは落ち着いてティーカップにお茶を注いだ。
インモラルが丁寧に勧めた。
「程よく煮えましたね。どうぞ。」
「そんな言葉がよく出てきますね。あなたの弟子が怪我をしそうになったのに心配にもならないんですか?」
インモラルは内心呆れていた。
(何言ってるんだ、この女は)
アランからの点を稼ぎたいらしいが、やり方がくだらない。
インモラルはルイビトンを無視してお茶でも飲もうとした。
ところが、アランが割り込んできた。
「いくら女教主様でも、そんなことは言わないでください!インモラル校長は誰よりも私のことを心配してくれるお方です!」
声がかなり大きかったせいで、ちょっとした静寂が起こった。
インモラルは正直嬉しかった。
アランは見込みのある弟子だった。
しかしこれは接待だ。この辺でアランをどかせることにした。
「アラン、ありがとう。もういいから行きなさい。」
アランはやっと自分の間違いに気づいた。
アランは震える声で「すみません」と言った後、校長室の外へと向かった。
アランが出る寸前のところだった。
「久しぶりですね、私に堂々と意見を述べた人は。私はあなたを憎みません。だから心配しないで、素敵な夜を。」
ルイビトンはとても優しい笑みを浮かべた。
アランはそれを見て同じようににっこりと笑った。かわいい顔に笑顔を加えると、一握りの心配も消える。
すぐに校長室のドアが閉まった。
室内にはインモラルとルイビトンだけが残った。 インモラルが話し始めた。
「私の弟子が無礼を犯しました。許していただけませんか。」
しばらく室内に沈黙が流れた。
「アラン学生はあなたに実によく従っていますね?あなたのことをお父さんだと思っているみたい。」
他人から見ればそう見えるのか。
インモラルは少し悩んだ末、このように話を切り出した。
「アランの両親は皆、アランが幼い頃に他界しました。私は校長なので、師匠の座にいなければなりません。今アランに必要なのは、私ではなく母親でしょう。」
ルイビトンはぎくっとした。
えさをくわえた魚があんな風に動くのを見たことがある。
ルイビトンはお茶を一口飲んだ後に言った。
「母親か…私は36歳です。母親にはぴったりでしょう。」
インモラルはルイビトンが飲んだお茶をじっと見た。
実に香ばしいお茶だった。
どう見てもアルコールの入っていない単純なお茶だった。
(おかしくなったのか?)
ガスライティングをしたのは確かだ。しかしあれほど過剰に反応するとは思わなかった。
インモラルはくらくらとした気をしっかりと取り戻し、話し始めた。
「えっと···性比に文化を勘案すればその通りではあります···。」
「その言い方は何です?あなたはどこか違う世界から来たのですか?」
「あっ···そ、そんなはずないじゃないですか。あはは…。」
インモラルは背中に汗を流した。
インモラルは気まずい空気が流れる前に再び口を開いた。
「とにかく心配です。アランを除いた学生たちは皆女子学生です。同級生には頼ることもできないので、大変でしょう。」
「若い雌犬···いや、若い新入生たちは何の頼りにもなりません。これは私の出番ですね。」
インモラルは目を細めた。
「ルイビトン教主であれば、きっと頼りになるでしょう。ですが大丈夫です。教主様はお忙しいではありませんか。」
「アダマント都市民を助けるのが私の仕事です。特に脆弱な市民を優先的に助けなければなりません。」
インモラルは大げさな身振りで同意した。
「さすが··· ルイビトン教主様。あなたは実に慈愛に満ちた指導者です。」
「…でも問題がありますね。出るといっても具体的な方法がない…。」
ルイビトンは長くてセクシーな脚を組んだ。表情を見ると頭の中もねじれているようだ。
インモラルは待っていたかのように話した。
「それなら私が役に立つかと思います。」
「ん…?どんな…?」
「私たちのアカデミーは現在、剣術教授を求めています。ある程度内定はしておいた状態ですが、場合によっては変わったりするものです。」
「えっと、つまり…?」
インモラルは目つきを変えた。
「いかがでしょう。うちのアカデミーの専攻教授をしてみるのは?たまにいらっしゃって学生たちに剣術を教えるのです。」
「この私が剣術教授を?」
ルイビトンは細長いあごを上げて怪しがった。
「難しいことはありません。どうせ新米たちなので基礎を中心に教えながら、アランも気にしてあげるのです。」
校長室にしばらく沈黙が流れた。
ルイビトンは何か悩んでいるようだった。
すぐにルイビトンの高慢な口元から少しよだれが出た。
一体何を考えているのだろうか。
相手はレベル500に都市を担う権力者だ。
一方で、適齢期が過ぎたため、趣向がゆがんでしまったオールドミスでもある。その淫らな本音が読めないわけだから、楔を打ち込むことにした。
「さっきご覧になりましたよね? アランが師匠である私にどう接するのか。誰が剣術の教授になるかはわかりませんが、それがもし女性であれば…。」
インモラルは語尾に力を入れた。
「母親のように従うでしょう。」
その瞬間、ルイビトンはキツネのような両目を見開いた。
ルイビトンは荒っぽい声で言った。
「私が誤解していました。ひょっとしたらここ…このアンビションアカデミーを…本当に好きになるかもしれません。」
インモラルはそうしてアカデミーの剣術教授を任用した。
アランの継母を手に入れたわけだ。
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