滅亡が確定しました。アカデミーの悪徳校長として生き残ります。

@5252kisama

プロローグ

 教育院を運営してから2年。


 振り返ってみると、これまで様々な出来事があった。


 入社して間もないというのに、すぐに壁にぶち当たった。


 前任者が教育院内で不正運営をしていたのだ。


 そのため、政府機関から是正命令を3度も受けた。


 あと1回是正命令を受けると廃業するという状況で引継ぎが行われた。


 その最悪の状況から2年という月日が流れるまで、たった一度のミスもしなかった。


 持ち前の仕事センスは平凡だった。


 それでも耐えられた理由は一つ。


「適材適所の人員配置」


 高い職級に天下りで入ったため、権限が少しあった。


 既存の勤務者を注意深く見ては、適切な業務を与えた。


 たったそれだけですべての問題が解決した。


「実に不思議なことだ。」


 おかげで教育院は無事に運営された。


 わずか数ヵ月前まではの話だ。


 これから2週間後、教育院は閉鎖される。


 塾は潰れてしまった。


 すでに受講生の足が途絶えてから1ヵ月が過ぎた。


 実際、廃業することになるだろうという危機感はかなり前から感じていた。


 運営している教育院が立ち遅れているため、より良い施設の同種業界が入ってくるとどうしようもなかった。


 見当は似たような形で的中した。


 区域にあった唯一のライバル会社、そこが非常に良い施設へと拡張移転したのだ。


「自分が先にやるべきだった。」


 勝つためには同じように拡張する必要があったが、不可能だった。


 こちらは貯めておいた資本がなかった。なぜなら、稼いだお金は父親の懐に入ったからだ。


 教育院の代表は父親であり、最初に作ったのも父親だった。


「管理と運営を一任してどうする、資本管理ができなくなるのに。」


 父は他のところにお金を使うべきだと言って、資本金をすべて持っていった。


 施設はだんだん立ち遅れていき、受講生の足は途絶えた。


 回転できないため講師たちと築いてきた関係もすぐに壊れた。


 職員だけで解決できる状況ではなかった。


 根本的な問題は最初から最後まで資本だった。


「父さんは稼いだお金をいったいどこに」


 答えはそう難しくなかった。


 ここ以外にも運営する教育院があったのだ。


 9才上の姉が運営するところだったが、この2年間はそこを支援していた。


 聞くところによると、それなりにうまくいっているそうだ。


 ところがそれは嘘だった。


 おばさんから電話があった。


「あんたのお姉さん、銀座のマンションを買ったんだって?」


 その時やっと気づいた。このゲームの真の勝者が誰だったのか。


 もう少し早く気づくべきだった。


 別々に暮らしていた家族全員が時々集まり、食事をしていたころを思い出す。


 姉の羽織るものがブランド品に変わっていた。


「いや、最初から」


 もう少し父にしがみつくべきだった。稼いだお金でここを管理するべきだともっと主張するべきだった。


 友人に酒の席で説教をされた。


「自分のものも用意できないなんて、お前は馬鹿なのか。正直分かっていたことなんじゃないのか。姉弟喧嘩になるということ。お前が悪いんだよ、結局。」


 そうだ。分かっていた。


 それでもこうなるとは思わなかった。


 手を貸せばそのまま返してもらえると思っていた。


 他の教育院を助けてあげたから、こちらが大変な時はきっと助けてもらえると。


 結果は受講生のいない教育院となった。


 真冬の夜更け。ケイはがらんとした教育院に一人でいた。


 今は掃除をする必要もない。それなのに、ずいぶんと時間を費やした。


 床にもう埃は残っていない。代わりにそこにはしみがあった。それは敗者にしか見えない、脱げ落ちた野望だった。


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