第22話 原作開始直前の日々

  ――あの事件から二ヶ月が過ぎた。


 事件当時直後は暫くサーラが寝る時も俺から離れようとしなくて少し大変だった。


 それからセリアスが手紙を定期的に送ってきてどうやら俺はやけに気に入られたらしい。

 手紙の最初に婚約者候補となりました……と見た時は正直かなり驚いた。

 理由は軽く聞いたが、俺の腕を治す為にそうするのがベストだったらしい。

 手紙には早く会いたいとか書いてあったが、彼女が俺の事をどう思っているかは定かではない。

 元々の悪評があったしな……でも少なからず良い感情を持ってくれている事は何となく分かる。


 それと俺が王女二人を救った事や第三王子が血濡れの黒衣と繋がっていた事などでここ最近はサザニシア王国全体がとてつもなく騒がしかった。

 血濡れの黒衣についても少しずつ調査が進んで、血濡れの黒衣という名前と構成メンバーの数人が分かったらしい。

 

 俺はあれからずっとレベルを上げる事だけに集中した。

 サーラも一緒だったので俺はレベル150でサーラは105まで上がった。

 

 お父様との関係性は良好になりあの事件の日から凄く気にかけてくれるようになった。

 マーラ様に関しては俺の活躍が気に食わないらしいが、特に何かをしてくる訳でも無いので放置している……ていうか正直あの人に関してはどうでもいい。

 虐げられていた過去はあるが今の俺はマーラ様や兄達について考えてる時間すら勿体ないと思っている。

 学園に通う事になれば久しぶりに兄達に会う事になるのは少し煩わしいがな……


 そして学園では寮に入る事になると思っていたのだが、サーラがお父様に頼んだらしく、王都に家を買って俺とサーラはそこに住む事になったらしい。

 俺の意思は考慮しないでサーラが決めていたのだが、正直助かる。

 寮と自分の家だと動きやすさが全然違うからね。


 これは分かっていた事だが、一か月前に発表されて、『聖女』『賢者』『巫女』の『唯一属性』誕生が発表された。

 『聖女』が庶民から出てしまった事については凄く物議を醸しだしていたがな……


「ふぅー、いよいよか……」


 俺は遂に学園が始まると言う事にわくわくしていた。

 


「――キースお兄さま!」


 いつもの事だが、サーラが急に現れた。


「どうした?サーラ」

「キースお兄さま、来週から学園が始まるので明日から私と一緒に王都まで行きましょう!!」

「俺の"空間転移"を使えば一瞬だしそんなに急がなくても良いんじゃないか?」

「それは分かっていますが、早めに行って少し遊びましょう!」

 

 サーラは目をキラキラさせながらそう言って来た。

 まぁ、別に明日でも全く問題は無いから良いんだけどな……

 それにサーラの頼み事は聞いてあげたいしな。


「そうだな……なら明日から行こうか。サーラは準備は出来ているのか?」

「はい!勿論です」

「じゃあ、お父様にそう伝えて明日行こうか」

「はい!!!」



「では、お父様……俺とサーラは行きますね」

「あぁ、キースもサーラも元気でな……それで、本当に誰もメイドを付けないで良いのか?」

「はい……サーラと話し合って、自分達の事は自分達でしっかりとやりたいと言う結果になったので」

「お父様!私はキースお兄さまと2人が良いので大丈夫ですよ」

「そうか、では二人ともしっかりな」

「「はい!」」


 サーラはお父様から見ても俺に好意がある事は明らかだが、どうやらお父様はそれを認めているらしい。


 そうして俺とサーラはお父様と別れを告げて王都に向かった。


 ――ここが家か。


 俺はサーラと住む事になる家に着いた。

 前世で言うちょっと裕福な家庭みたいな、大き過ぎず、小さ過ぎずの良い感じの大きさの家だった。


「それじゃ、お互いに部屋で荷物の整理をしようか」

「はい!キースお兄さま」


 

 ――俺とサーラはお互いに整理が終わった後一緒に遊んで、今は散歩していた。


「キースお兄さま!そう言えば王女様たちとはどうなんですか?」

「達って言ってもミリア様とは何も無いぞ?セリアス様は婚約者候補となったけど手紙でやり取りしているだけだしな」

「そうですか……でも私はセリアス様と婚約する事には賛成ですよ」


 え?意外だな……

 いっつもベッタリくっついてきて、「キース兄さまと結婚します!」ってずっと言って来ていたから、てっきり正妻になりたいって言うと思ってたんだけどな……

 セリアスと婚約する場合は絶対に側室って形になっちゃうが……

 でも冗談を言ってるようでも、我慢をしている様な目では無いな……


「そうなのか?」

「はい!例えセリアス様と婚約しても、キースお兄さまは私の事をちゃんと愛してくれますもんね」


 勿論そのつもりだが……目がマジだ……

 冗談でも嫌だなんて言ったら大変な事になりそうだな……


「それは当たり前だ」

「だったらいいんですよ♪」


 (そっちの方が私としても都合が良いですし……)


 サーラが小さい声で何かを呟いた気がするが良く聞こえなかった。


「そうだ!キースお兄さま!」

「ん?どうした」

「私は少し一人で買い物をしたいので先に帰っててもらえますか?」


 女子だしな……俺が居たら都合の悪い事もあるんだろうな。


「わかったよ、遅くなる前に帰って来いよ」

「はい!!」


★サーラ・グリッド


 私はキースお兄さまに先に帰ってもらいました。

 実は私が早めに王都に来たかったのは理由があるんです。

 

 勿論キースお兄さまと遊びたいって言うのは本当ですけどね。

 しかし後もう一つ理由があるんです。

 

 キースお兄さまとセリアス様が手紙でやり取りしている時に、実は私もセリアス様と手紙でやり取りをしていました。

 そこでセリアス様が、キースお兄さまと婚約するかはまだ分からないって言う事を知りました。


 セリアス様はキースお兄さまが好きなのか分からないみたいでした。

 しかし手紙のやり取りだけでも絶対にキースお兄さまの事が好きなんだろうなって伝わっていました。

 恐らく王女っていう事もあり今まで男性と恋の観点で接した事がなく自分の気持ちに気付いて居ないのだろう。

 

 私はやり取りしているときに、もしキースお兄さまと婚約する場合はどうするのか聞きました。

 私はキースお兄さまの1番が良い……でもセリアス様と婚約するなら私は必然的に側室という形に収まる事になる。

 セリアス様は私に思って居る事を素直に伝えて欲しい……変に隠して後で仲たがいしたくない……私とは仲良くしたい、そんな事が書かれていました。

 

 私はセリアス様が良い人っていうのは始めて会った時から分かっていました。

 私としてもセリアス様とは仲良くしていきたい……そう思い、思って居る事を素直に伝える事にしました。


 そんなやり取りして私とセリアス様はすっかり仲良くなっていました。

 そこで私はセリアス様にとある提案をする事にしました。

 その提案は実際に会って、一応本当にキースお兄さまの事が好きなのか確認してからしたかったので、今日会う約束をしていました。

 

 キースお兄さまがもしまだ王都に行きたくないって言ったらどうしようかとも思いましたが、絶対に学園が始まる前に話しておきたかったんです……

 その時は王都で買い物がしたいからと言って送って貰おうと思っていました。


 そして私は指定されていた時間が近くなって来たので、今王城に向かっています。

 セリアス様は裏口で待っていると言っていましたね。

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