第14話 分岐性のアルゴリズム3

そんなくだらないくだりを終えた後、高見は俺に疑問を投げかける。


「そういえば、此処はなんで廃墟になったんだ?見るからには別に大きいホテルだし、なんでだ?」


 勿論この問いに対しては対策済みだ。俺は嘘の経歴を話し始める。


「此処はどうやら高度経済成長期に建てられたそうだけど、バブル崩壊後に経営不振になり、潰れた。そして、今となっては破産した経営者の霊が徘徊している、というのがもっぱらの噂だ。」


 と、いう建前なのである。

 勿論の事だが、この解説は先程思いついただけの嘘並べだ。この物語はフィクションですって奴だ。この話を真に受けるだけ無駄だという事だ。取り敢えずホテル系の廃墟は高度経済成長期がー、とかバブル崩壊がー、とかそれっぽい事を言えば充分に納得してしまうほどの理由へとなるからな。正直なところ、俺だって高見の立場であれば普通に心霊スポットだと思って、震え上がるであろう。

 ちなみに調べた所、本当はただの廃墟でネットの地元掲示板などを確認したが、全くの心霊現象も目撃されていないし、何か曰く付きの事件が起きたわけでもない。いわば何も無い健全スポットなのだ。


「へぇー、ガチだ。」


 だが、高見はバカなのですぐに信じてくれた。俺も色々と偽るのは心痛いものなのだが、しょうがないのだ。


「正面玄関から入ろうぜ。」


「いや、正面玄関潰れてね?ほら、なんか崩れた跡がある。」


「ほんとだわ。まあ、裏口から入る方法があるでしょう」


「裏口なら此処ですよー」


 俺たちはゾロゾロと裏へと回る。

 その時であった。聞き覚えのある悲鳴が後ろから聞こえた。その瞬間汗と動悸、それどころか震えが止まらなかった。

 アイツだ。

 こんな所にまでもついてきやがったんだ。そして、信じたくはないのだが恐らくあの悲鳴はささみやのものであろう。

 俺は後ろを恐ろしくて振り返る事ができなかった。


「やっ、あっ」


 冷や汗が止まらない。それと同時に身体中から震えが止まらなくなってしまった。

 恐怖、恐怖、恐怖。

 その言葉が頭の中の事をグルグル渦巻かせる。それと同時に最も気にすべき疑問が浮かんでくる。

 

ー何故、ヤツが此処にまで居るんだ?


「どうした?かいな。さっきから震えて。つか、さっきの悲鳴は、、、」


「走れ!!お前ら!!」


「え、なんだよ急に。つか、ささみやは?」


「良いから早く走りなさい!」


 俺たち三人は死に物狂いで走り出す。しかし、四人目の足音が後ろから無慈悲にも聞こえてくる。

 さっき来た道へと戻り、草木を掻き分けながら俺たちは逃げる。


「なんなんだよ、アイツは」


「分からないけど、恐らく、俺たちを殺しに来ている殺人鬼だ。」


「な、なんだって」


「ほんとよ!冗談でも、ドッキリでもない、リアルなの。とにかく、アイツに捕まれば殺される事になるわ。」


「あれが霊なのか?」


「わかんない。」


 勿論こんな状況に鉢合わせたらドッキリとかを疑うのも無理はない。なんなら俺自身もこれがドッキリだと思いたいよ。

 そして逃げている時、玲が木のツルに足を引っ掛けて身体を地面に擦りながら、滑っていく。


「玲!!」


「か、かず!!私の事は気にしないで。取り敢えず、高見とふたりで逃げるのよ」


「えっ、えっ?」


 状況を殆ど知らないのでかなり戸惑っている高見。無理もない。俺も高見の立場であれば恐らくパニック状態に陥ってなにをしたら良いのかわからなくなるからな。しかし、説明している時間はない。


「......分かった。」


「大丈夫、また今日の日に会いましょう。今日も生きなさい」


「すまないッ、今日必ずまた会おう。玲っ!!」


 俺たちは奇しくも玲を見捨てて走り続ける事にした。合理的判断ではあるのか。


「お、おい、、、玲を見捨てて大丈夫なのかよ?」


「心配するな。アイツならなんとかなる筈だ。とにかく今は自分達の心配をしろ」


「あ、ああ」


 逃げ初めて3分頃が経った頃。すっかり見知らぬ道へと出てきて、俺たちは相変わらず死に物狂いで逃げまだしていた。しかし、気づいた。正面には崖がある。

 落ちれば命失くす程の高さであるが、俺たちは止まる事が出来なかった。

「「うぁぁぁ」」

 お互いに絶叫しながら、俺たちふたりは崖から落ちた。

 恐らくまあまあの高さであろう所から落ちたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る