第8話 一過性のマインドソウル3

 俺は高見と約束した。

 約束してしまった。

 やはりこの後起きる、最悪な運命を知っているととてもじゃないけど平常心ではいられない。

 心なしか、いつもよりもボーッとして思考が時々途切れてめちゃくちゃになる。

 しかし時間というモノは残酷に過ぎるモノであり、もうあっというまに、放課後になってしまった。

 家からチャリで全力疾走で颯爽と行き、俺は約束の廃病院の前に着いた。

 するともう既に高見はただ一人、そこに居た。

 どうやら後2人ほど来るらしいのでしばらく2人で待つことになった。


「高見さあ、お前、本当にこんな所に行くのか?」


「ああ、もちろん。俺は決めた事はちきんとやる人間だ。もう皆んなも呼んでしまったしな、今更日和っても無駄、無駄。へへ、もしかして怖くなったか?怖いなら無理に行かなくて良いけどな。」


「いや、怖いっちゃ怖いけど、怖いの種類が違うね。正確に言えばホラー系じゃない。なんていうかねぇー、...なんか不気味というか.....。まあ、でも俺も男だ、勿論行くぜ。」


 ただ、俺はもしかしたらリアルティーのある夢だったんじゃないのかと、自分を疑った。

 たまにある、デジャヴだと思いたい。

 でないとあまりにも非科学が過ぎる。


「そうこなくっちゃな。俺らは今をときめく現役の高校生だ。だからやっぱり今、学生の内に青春を謳歌するべきだからな。だから行くんだよ。」


 何を言ってるのかは良くわからないけども、取り敢えずコイツは今更引く気はないらしい。


「おっと、これからの戦友も来たみたいだぜ」


 俺の話の途中にふらっと来たメンバーは[佐々宮]と[紫花]だ。

 コイツらも俺の友達であり、幼馴染みたいなものである。

 幼稚園児の頃からこのメンバーで集まって遊んでいる。


「そんじゃ、見慣れた面も揃ったんで行こうとしようか、廃病院内に。」


「こっ、怖いですー。」


「カズ、カズ‼︎私、この時の為に家から、懐中電灯持ってきたわよ。私、準備良いでしょ。褒めて褒めて。」


「はいはい、ありがとさん。」


「えへへ」


 高見が先頭、後方に佐々宮、真ん中に俺と、紫花。そう言うポジションを取りながら、ゾロゾロと廃墟の中に入っていく。中は暗く、そこは不気味なほどにじめじめしている。

 ただ、佐々宮はビックリする程ビビリだから不安だ。



「おいお前ら、足元気をつけろよ。ガラスの破片とかあるからな。」


「なあ、高見。一つ気になったんだが、いったいこの変な噂って何処から広がっていったんだ?クラスメイトの皆んなが知ってるってよっぽどだぞ。」


「分からない。俺もそれについてはまったく検討がつかねえんだ。実は俺もこの噂自体は最初知らなくて、クラスメイトの奴から聞いて初めて知ったんだ。多分、この広まり ようは、かなりの発言力を持った奴が流したんかな。でないと知っている奴が多すぎる。」


 噂の出所は完全に不明か...。まあ、そんな事はどうでも良いいんだけど。


「ああ、廃墟だから蒸し暑いのなんの」


 ふと、紫花の方を向いた。すると紫花はなにか引っかかるものがありそうな表情をしていた。まるで、何かを思い出すかの様な。


「どうした?紫花。考え事か?」


「うーん、なんかね、この辺りに見覚えがあるのよね。」


 やはりな。俺の問いの答えもしっくり来ていない様な回答だ。


「柴花ちゃんは、ここに来たことあるの?」


「うん、多分そんな感じだと思う....けど」


「ん?けど?」


 ささみやが首を傾げ問いかける。


「うーん。いや、なんでもないわ。大丈夫、気にしないで」


 そういうと、その会話は終了した。なんだったんだ。だが、引っかかるのは彼女だけではない。俺も何かに引っかかるがそれが何か分からない。


 さて、取り敢えず病院内の中央のところら辺に着いた。

 だが、あの夢の通りなら、この後の結末は悲惨なモノだ。

 今はただただ楽しい、肝試し、いや、お化け屋敷といったところだろう。

 この後どうやって死ぬか、想像もつかない。

 一体コイツらの死因はなんなんだ。

 もしかして霊的なモノなのか、それとも人的なモノなのか?多分落下事故とか、ではないだろうな。

 どちらにしろ、とても怖い事なのは確かだ。

 このまま何事も無く、「廃墟巡り楽しかったなーあー」ってなる、のが一番なんだがな.....。

 さっきからみんな無言でコツコツ、コツコツと音を鳴らして歩いている。

 しっかしさっきから、なんだよ、この気持ちの悪い雰囲気は。

 全くもって不穏な空気だ。

 何か物凄く只ならぬものを本能で感じる。

 そう思ってふと背後を振り向いた。

 しかし、さっきまで俺の背後に居た筈の佐々宮が何処にも居ない。

 佐々宮の代わりに、立っていたところに赤黒い、色の血溜まりが出来ていた。


「ささ...みや?」


「はっ、おっおい、高見‼︎」


 高見に佐々宮がいないことを伝えようと、前を振り向いたがそこに高見が居ない。

 ただ、前方の暗闇から誰かの血飛沫が思いっきり、とんできた。

 俺はこの状況をよく理解する事ができなかった。

 しかし暗闇からナイフを持った何かが居たことは確かだ。

 そいつはナイフを振りかざしこちらに向かってきた。

 コレは思った以上にやばい。

 やばい。

 やばい。


「あ、、あ、、、あ、、、、」


「おい、柴花、何してんだ。はやく走って逃げるぞ。まずは自分の命を優先しろ。他は後だ。」


「な、なんでこんな事に!?」


 紫花はその状況に対して完全に震え上がっていた。

 勿論その気持ちは痛いほど分かるが、正直なところ今はそんな場合じゃない。

 正直俺も今すぐに泣きたい。

 叫んで助けを求めたい。

 ただ正直今の状況を完全にはりかいできていないが、今は走って逃げる事が重要。

 それが助かるかもしれない道だ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、っっっふ。っておい、嘘だろ、コイツ、俺たちのことまだ追って来やがる。」


「ふぇーーん、怖いよー。」


「一体俺らがあいつに何したって言うんだよ‼︎クソッ」


「とにかく走れぇぇぇぇぇ。」


 俺がそう叫び走り続けていた。すると背後から鋭い刃物のような物がが俺の背中にそのまま飛んできた。

 さらに、病院内に残っている使い捨てられたコードによってあしが引っかかって、俺と紫花は同時に転んだ。

 それと同時に俺の背中に物凄い音が聞こえ、違和感と、痛さが同時に交差する。

 これは、刺された。


「ぐわぁっ!!」


「か、カズーっ!!」


 刺された後、俺は音を立てて転び地面に横たわる。背中には刺された場所から大量の血が流れ出ていた。

 痛い。


「うう、ああ、せ、背中が熱..い、い..たい、痛い、痛い。」


 刺されたら熱いって聞いたけど本当だったんだな。

 紫花は咽び泣いている。


「いやぁーーー、なんで貴方がこんな目に...」


 だが、そんな場合じゃない。

 とにかく俺に構わず此処から逃げてもらおう。

 でないとこのままもたもたしているとコイツまもが死ぬ。

 頼むからもうこれ以上の犠牲を出したくない。

 せめて1人だけでも....


「は、やく逃げろ。でないとコイツに殺されるぞ!!お前だけでも生き残れ!!これが俺の最大の願いだ‼︎」


 紫花は一瞬戸惑った。

 焦り、恐怖し、極度の緊張状態に陥っているんだろう。   

 そして口を開いた。


「う、わ、分かった。今まで友達で居てくれてありがとう。わだじ、楽しかったよ。絶対に生きて帰って来てよ。じゃあね。」


「ああ、必ず。」


 紫花は一目散に走った。これでなんとか助かってくれれば良いんだけども。

 しかし、俺が犠牲になる事で友達を守れた。

 何人か守れなかった奴もいたけど、もうそれも含めても良い人生だった。

 死を覚悟して死ぬ直前ってスローモーションに見える。

 その間に数々の走馬灯が頭の中に渦巻く。

 この短い俺の人生に一片の後悔もない。

 その後俺にまた刃物が降りかかり、俺の人生は終わった。

 終わらされた。

 最後に俺を殺った奴を見てやろうかと思ったが目元がぼやけて顔がまったく見えなかった。唯一それだけが心残りかもしれない。

 楽しかった、平凡な日々は突如として失われた。

 俺は一体どこで間違えたのだ。

 人生とはドラマの様にはならない。

 そう、身をもって体験した。

 このことは先にあの世に行った友にでも話すとするかな。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 俺は廃病院でこの学生青春人生を終わらせ、完全に死んだと思っていた。

 完全にな。

 結構かっこもつけたし。

 だが、俺は不思議なことにいつものベッドで目覚めた。飛び起きた。

 生きている。

 どういう事だ?と、理解が追いつかない。

 まさか、死んでもこのベッドからやり直しなのか?と言う仮説を立てた。

 いや、そんな仮説を信じたくはない。

 くそッ、全て夢だったらよかったのに。でも真実.....なんだろうな。

 くそっ、全く、本当にどうなってやがる。

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