第27話 故郷からの使者

 ティアちゃんとデートしていた俺だったが、突如乱入してきた元専属メイドのステラと対峙することになってしまった。

 彼女がここにいるということは領主であるアンジェにも俺たちの動きがばれているってことなのか?

 


「ダーリン、おまたせ……って、その人はなんですか?」

「なるほど……彼女が新しい仲間ですか?」



 ステラの言葉にどうこたえようか迷っている間にティアが戻ってきてしまった。まずいな……俺のことはどうでもいい。でも、ティアの顔がばれて指名手配などをされるのは阻止しなければ……



「まて、彼女は……」

「初めまして。私はファントム様の元専属メイドにて、このペイル領の現領主アンジェ様の専属メイド兼護衛を務めているステラと申します。敵意はありませんのでお二人ともスキルは使わないでくださいね」



 相も変わらず無表情だが綺麗な所作で立ち上がるとそのまま流れるようにお辞儀をするステラ。さっそく牽制された俺はいつでも魔眼を使えるように警戒していたが、解除する。

 殺気もないのでだったら話を聞いてみてもいいと思ったのだ。



「は、はい。私はティアと申します。その……師匠……じゃなかった。ファントムさんには冒険者のイロハなどもおしえていただいて大変良くしていただいてます」

「なるほど……お二人はかなり親しいのですね。ちなみに私はファントム様のおしめも変えましたし、抱っこもしたことがあります。一緒にお風呂にはいったこともありますよ」

「なっ!? 師匠のおしめに……お風呂まで……」




 なぜかどや顔のステラ。そりゃあ、俺の乳母の娘で、世話もいろいろしてもらっていたんだ。当たり前である。

 なのになぜか、ティアが悔しそうな顔をしている。



「はい、ファントム様のはじめての添い寝は私ですし、ちん〇んもみたことありますよ」

「いや、何の話をしているの!?」

「私たちの信頼関係の話をしているのですよ。ファントム様。私はあなたのことを育てともに色々と学んだことを誇りに思っているのです」

「え?」



 今度は驚くのは俺の番だった。だって、彼女からは俺への敵意がない。俺は領地に厄介ごとを引き連れてきたというのに……



「私が来たのは衛兵が魔族を探知した時に、一人の胡散臭い仮面をかぶった男が目撃されていたからです。おそらく、あなただろうなと思ったので周囲の街に人員を配置したのですよ。警告するために」

「警告だって……?」

「ええ、なぜだか知りませんが大臣のヨーゼフは、魔王が討伐されたあとに大量の税金を使ってこの国の国境に魔族探知の魔道具を設置していたのです。だから、あなたたちの行動は筒抜けなんですよ。今頃アンリエッタ様率いる騎士団や、我が領地の騎士団がここら辺を包囲しているでしょう。あなたがなんで魔族といるかは知りません……ですが、元婚約者や、我が領地の兵士とは戦いたくないでしょう? すぐにこっちに避難しなさい」



 一気に出される情報に俺は混乱する。だけど、幸いというか修羅場は慣れている。今は即座にみんなと合流すべきだ。

 俺は立ち上がって、去る前に思わずステラに訊ねた。



「兵士が動いてるってことは……王国の命令だよね。なのになんで俺をかばうようなことをするんだ? アンジェにだって迷惑が……」



 突然胸元を掴まれて、最後まで口にすることはできなかった。思わず文句を言いそうになったが彼女の顔を見ればそんなことはできない。

 



「なんでだと? 家族同然の人間がピンチなのに、助けるのに理由がいるのか? もっと私たちを頼れよ、ファントム=ペイル!! あなたがすべきことはこっそりとペイル領に潜入するんじゃなくて、最初っから私たちに助けを求めることだったんだよ!!」



 付き合いは長いけどステラが怒っているのを見たのは二回目だった。あれは俺とアンリエッタとアンジェで魔物が出るという森へ行った時のことだったな……「危ないでしょう!!」といつも無表情でこちらをからかう彼女に説教されたのはよく効いた。


 久々に見た怒りに満ちたなステラに言葉を失っているとそのまま胸元に抱きよせられる。



「あなたが追放されたといきなり帰ってきて……どう励まそうかとアンジェ様と話し合っていたら、迷惑をかけたくないからとか言ってすぐに出ていっちゃうんですから……寂しかったんですよ。この馬鹿」



 子供のときのように頭を撫でられると、彼女と過ごした日々が思い出されて、こちらまで泣きそうになる。

 


 ああ、そうだよ……彼女はずっと俺の味方だったんだ。俺がパレードの後で領地に逃げた時だって何も聞かずにご飯をくれたし、俺が死んだことにするのも協力してくれた。

 なのになんでもっと信じられなかったのだろう。俺の周りはたくさん信頼できる人がいるのに……ちゃんと俺を見てくれている人はたくさんいるのに……



「ごめん……心配かけたね」

「構いませんよ。こういう時に助けるのが年上である私の役目ですからね。ここの支払いはお任せください。さあ、はやくいったほうがいいですよ。我が領地の兵士だけならばともかくアンリエッタ様まできたら守り切れませんから」



 先ほどまでの表情はどこにいったやら、無表情に戻るステラに礼をいって席を立つ。



「ああ、いこう。ティア」

「はい、師匠!!」



 俺とステラのやり取りを黙って見ていてくれたティアに感謝しながら俺たちはカフェをあとにする。

 俺が注文してたアップルパイをもぐもぐと食べているステラに見送られて旅立つのだった。





「やつらがわしらの行動を見抜いておるじゃと……カインのくせに生意気じゃの!!」

「いえ、おそらくはオセの仕業でしょう。最強の魔王である私を警戒してのことかと……あいかわらずこすいですね」



 事情を説明すると即座に出発する俺たち。だが、それも途中までだった。



「くそが!! 囲まれていやがるぜぇ!!」



 アモンの声を聞いて外を見つめると正面から我が家の紋章のついた旗とアンリエッタの家の旗をかかげた馬車がせまってくる。

 俺はアンリエッタやわが軍の兵士と戦う覚悟をきめるのだった。




★★★


やっぱり家族は大事ですよね……

アンリエッタとファントムは出会うのか……


次回はアンリエッタ視点です。



《大事なお知らせ》

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