第7話 魅了の力

「よし、魅了のレベルもだいぶあがったみたいだね」

「はい、師匠のおかげです!! 今の私なら魔王だって魅了してみせますよ」



 ゴブリンや冒険者ギルドでの接客で何らかの手ごたえを感じたのかティアが満面の笑みで頷いた。



「くっそ、グスタフのやつ……我らがアイドルのティアちゃんと仲良くしやがってぇェェ」

「あのロリコンめ……許さねえ」



 懐いてくれるのは嬉しいんだけど距離感が近いし、なんか周囲の視線が痛い。何人かの冒険者を完全に魅了しているようだ。

 あんまり目立ちたくないんだけどなぁ……



「もう、私の師匠にひどいことを言ったら怒りますよ、普段の私は可愛いですけど、怒ったら怖いんですからね!!」

「「はーい!!」」

 


 とティアが頬を膨らませながら冒険者に注意するとあっさり敵意が消えていった。


 冒険者たちちょろすぎない? てか、将来がこわいな!! 魅了のスキルを完全に使いこなしてるじゃん!!



「じゃあ、探索任務のついでに魅了スキルのもう一つの使い方を教えてよう」

「はい、楽しみにしてます。師匠!!」



 わくわくとした表情のティアちゃんがぎゅーと腕に抱き着くものだから、再び冒険者たちの嫉妬にまみれた視線が集中してくるのでにげるようにして俺たちは森へと向かうのだった。

 そりゃあ女の子に抱き着かれるのはうれしいけれど、ちょっと恥ずかしい。



 森に入った俺はしばらく歩いて人の気配がしないのを確認すると振り返る。少し緊張した様子にティアちゃんの顔が見える。



「じゃあ、今から魅了のスキルを使ってもらうよ」

「え……それはグスタフさんにってことですか?」

「いや、違う……」

「そんな確かに私は可愛いから性欲を我慢できなくなることはわかりますけど……こんなところではじめてだなんて……しかも、あえて私にスキルを使わせてからなんてマニアックすぎます!!」



 なんかむっちゃ早口になった上に顔を真っ赤にして上目づかいでみつめてくるんだけど……

 絶対勘違いしてるよね……



「俺の話を聞いてくれるかなぁ!! それだと俺が勇気無くて魅了してくれないと女性に手を出せないへたれみたいじゃん!!」

「……違うんですか? アイシャさんも軽口でデートに誘ってくるくせにオッケーしようとすると逃げるヘタレっていってましたよ」

「俺のヘタレさはAランク級ってか!! ほっといてくれ」



 ここにはいないアイシャさんに余計なことを言うなと怨嗟のノリツッコミを吐きながら心の中で言い訳をする。別に俺はヘタレなわけではない。

 あくまで他人と距離を縮めすぎると離れた時がつらいから一定の距離感を保っているだけなのだ。

 別にモテないじゃないのだ。婚約者だっていたし……




「あ、師匠。魔物がいましたよ!! ゴブリンですね。ゴブ助君とは別の個体みたいです」

「あ、ああ……じゃあ、一番得意な魔法を使ってみて」

「はい!!」



 躊躇なく呪文を詠唱するティアちゃんを見てゴブ助くんの友達や家族だったらどうなんだろと思ったがこの世界の人はそういうところは結構ドライなんだよね。

 そんなことを思っているとティアちゃんの手のひらから火の玉が生み出される。



「じゃあ、精霊を魅了して!! そして、より火を強く!! ゴブリンを燃やすようにお願いしてみて」

「精霊を魅了ですか……?」



 驚きの声をあげるティアちゃんだったが、即座に笑みを浮かべて精霊に話しかける。



「精霊さん♡ 精霊さん♡ あなたのすごいところを見せてください。きっと本気を出したらあんなゴブリンも倒しちゃうんだろうなー♪」

『--------♡』



 不思議な感じと共に松明程度だった火がまるで火炎放射で放たれたかのような勢いでゴブリンを包み一瞬で消し炭にした。



「まって……ここまで強くなるの?」



 メスガキみたいに♡を出しまくるティアちゃんの予想以上すぎるバフの効果に俺はとんだ化け物を生み出してしまったのかと戦慄しているとすっかりテンションの上がった彼女がさらに精霊をほめたたえる。



「精霊さんすごいです!! こんなにすごい炎をみたことないよーー♡」

「だめだ、これ以上褒めたら……」

「------♡♡」



 さらに強化された炎は森へと燃え移っていき……



「やべええ、このままじゃ。森が火事になるぅぅぅぅ。どこでオタサーの姫みたいな言葉を覚えてきたの? 童貞精霊が良いところをみせようとしてイキっちゃったでしょ!!」

「オタサーってなんです? その……こういうことを言うと冒険者さんたちが喜んだので……」

「くっそ、天然か!! 俺は異世界でいただき女子を目覚めさせてしまったのかもしれない……」

「それより、これどうしましょう? やばいですよね?」



 確かにこれでは森にいる魔物はおろか冒険者も死んでしまうし、普通に犯罪である。本来ならばこの世界の木は魔法に強いのでこんなふうにならないのだが……

 今にも泣きそうなティアの視線に気づいて俺は封印されていた力を使う。



「うおおおおおお、魔眼よ。魔力を喰らいて、我が糧とせよ!!」



 魔眼を発動し、視界に入った魔法で作られた炎を喰らいつくす。目にすさまじい魔力が入って来るのを感じながら火が消えているのを確認し、安堵の吐息を漏らす。

 これが俺の魔眼の力だ。魔力を視て、喰らい、己の力にする。この魔眼が発動中ならば相手の魔力だって読める優れモノである。



「すごいです。秘密だよっていっていた魔眼を使ってくれるなんて……さすがです、師匠!!」

「あっはっは、魔眼のバーゲンセールだぜ」



 冷や汗をかくまくりながらなんとか魔眼で魔力を喰らいつくすと感動したとばかりに目をかかせながら抱き着いてくるもんだから思わずドキッとしてしまう。



 危ない……俺が婚約者に追放されたから耐えられた……そうじゃなかったら、この子は俺のことを好きじゃないか? って勘違いするところだった。、魅力の能力が恐ろしさをこの身で知っていた時だった。



「誰か助けてーーー!!」



 誰かの声が響いてくるのが聞こえた。この森は新人冒険者の狩場なのだ。助けに行った方がいいだろう。



「ティアちゃん、悲鳴が聞こえた方にいくよ」

「今の声は……」



 駆け出しながら彼女が険しい顔をしているのに嫌な予感が頭をよぎるのだった。





★★★


 

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