笑撃の迷宮QUEST6
鷹山トシキ
第1話
月明かりに照らされた静かな夜、サーカス団のテントは遠くから見ると、不気味なほどに静まり返っていた。普段ならば、観客の歓声や笑い声が絶えないこの場所。しかし、その夜は、寒気を覚えるほどの異様な空気が漂っていた。
サーカス団の主催者であり、団長でもある柳瀬太一が、そのテントの中央に倒れていた。彼の体は冷たくなり、その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。サーカス団員たちはその光景に茫然とし、何が起こったのか理解できずにいた。
そこへ、サーカスの一員であるアクロバットの葛城烈が駆けつけた。烈は無表情のまま、団員たちを見渡すと、事件の現場に足を踏み入れた。
「誰かが彼を殺した…」
烈はそう呟きながら、柳瀬の遺体を見下ろした。
「だが、なぜ?そして誰が?」
サーカスという異質な世界で、彼の冷静さと鋭い洞察力が、これから起こる一連の事件の真相を解き明かすために動き出すのだった。翌朝、警察が現場に到着し、捜査が開始された。だが、サーカスという閉ざされたコミュニティの中で、警察は団員たちの口を開かせるのに苦労していた。団員たちは皆、互いに疑念を抱き、誰も信用できない状況にあった。
葛城烈は、警察の捜査に協力するふりをしながらも、自分自身で事件の真相を突き止めようと決心していた。彼はサーカスの一員としての立場を利用し、団員たちの行動を監視し始めた。
サーカス団には、様々な個性を持つ団員たちがいた。怪力男の大石、華麗な空中ブランコの舞姫・沙織、そして、怪しげなマジシャンの黒崎。彼らは皆、団長の柳瀬と何らかの形で関わりがあった。
烈は、まず沙織に接近した。彼女は、柳瀬と親しい関係にあったと噂されており、何かを知っている可能性が高かった。
「沙織、団長のことだが…」
烈が問いかけると、沙織は一瞬、視線をそらした。
「私は何も知らないわ。あの日も、ただ練習していただけ」
沙織の声は震えており、明らかに何かを隠している様子だった。
沙織から有力な情報を得られなかった烈は、次にマジシャンの黒崎に目を向けた。黒崎は、冷酷で謎めいた人物として団員たちからも恐れられていた。彼のマジックショーは、奇術とは思えないほど不気味な雰囲気を持ち、観客に強烈な印象を与えていた。
烈は、黒崎のテントを訪れた。中は薄暗く、黒いカーテンや奇妙な道具が並べられていた。黒崎は、烈の訪問に特に驚くこともなく、冷ややかな笑みを浮かべて迎え入れた。
「何の用だ、葛城君?」
黒崎は低い声で言った。
「団長の件について話を聞きたい」
烈は真っ直ぐに黒崎を見つめ、隠すことなく本題に入った。
「団長が殺された夜、君は何をしていた?」
黒崎は軽く肩をすくめ、笑みを深めた。
「いつも通りだ。次のショーの準備をしていたよ。だが、君はどうなんだ?葛城君。君こそ何か隠しているんじゃないのか?」
黒崎の言葉に、一瞬、烈の心臓が跳ねた。黒崎が何を知っているのか、烈にはまだ掴めなかったが、この男が単なる団員以上の何かを隠していることは確かだった。
葛城烈は、次第にサーカスの背後に隠された暗い秘密に近づいていった。団員たちの間に張り巡らされた複雑な人間関係、そして、過去に起こった不可解な事故の数々。それらが繋がり、烈の中でひとつの仮説が形成されつつあった。
サーカスの歴史には、数々の謎めいた事件があった。その一部は単なる事故として処理されていたが、烈はそれらが何者かによって計画されたものである可能性に気づいた。そして、その裏に黒崎が関わっているのではないかという疑念が浮上していた。
烈は、再び沙織に会いに行った。彼女は黒崎との関係について何か知っているに違いなかった。
「沙織、君は黒崎と何を隠している?」
烈が問い詰めると、沙織は涙を浮かべた。
「彼は…私たちを操っていたの。団長を殺したのは…黒崎よ」
涙ながらに語る沙織の言葉に、烈は全てを理解した。黒崎は、サーカスの団員たちを巧妙に操り、事件を引き起こしていたのだ。
#### クライマックス - 黒崎との対決
烈は、全ての事実を突き止め、黒崎との対決に挑んだ。黒崎は、サーカスの真ん中に立ち、烈を迎え撃つ準備をしていた。
「君がここまでたどり着くとは思わなかったよ、葛城君」
黒崎は冷ややかに笑った。しかし、烈の目には揺るぎない決意が宿っていた。
「全てを暴く時が来たんだ。君の悪行は、これで終わりだ」
烈と黒崎の間に、緊張感が走った。サーカスのテント内で繰り広げられる、二人の最後の対決。そこには、真実を暴き、サーカスに平和を取り戻すための、烈の強い意志があった。
#### エピローグ
激しい戦いの末、葛城烈は黒崎を打ち倒し、事件の真相を公にした。サーカス団は再び平和を取り戻し、団員たちはそれぞれの新たな道を歩み始めた。
しかし、烈の心には一つの疑念が残っていた。黒崎が操っていたのは、本当に彼自身の意思だったのか?それとも、さらに大きな何者かが背後にいたのか?
葛城烈は、その疑念を胸に秘め、再びサーカスを去っていった。彼の次なる戦いが、どこで待ち受けているのかは、まだ誰にもわからなかった。
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