宇宙帝国の上級貴族に転生したから地球を支配しに行こう(仮タイトル)

小宮現世

プロローグ

『120...119...118...117...』

「まもなく、ワープゲートに突入します」


 無機質な機械音声のカウントダウンと共に、オペレーターがワープが間近であることを告げる。

 50人以上の人間が詰める中央司令室には、張り詰めたような緊張感が漂っている。


「アルス、緊張しているのですか?」


 司令室の中でも上座の司令官席のさらに上から声がかかる。鈴の鳴るような美しい声からは、相手を慮るような雰囲気が感じられる。

 アルスと呼ばれた、白銀の髪とエルフのような耳を持った青年は、「いえ」と否定した後、ゆっくりと振り返る。

 振り返った視線の先にいるのは、同じく白銀の長髪にエルフのような耳、透き通るような翠眼を持つ少女。

 絵本の中から出てきたような美しいその少女を見る彼の表情から、緊張は感じられない。


「少し、昔のことを思い出していました」

「やはり、嬉しいものですか?故郷へ行けることは」

「どうでしょうか。事前に偵察艦隊からの報告には目を通しましたが、今はまだ、実感がわかないものですから」


 そう言って目を伏せるが、その口元には薄らと笑みが浮かんでいる。


「ただ、楽しみではあります」

「そうですか。では、良き帰郷となることを祈りましょう」


 直後、オペレーターから声がかかる。


「ワープゲート突入まで、残り60!」

「全艦にワープ警報を出せ!...殿下、フォルフット閣下、艦隊はまもなくワープゲートに突入します。突入直後は少し違和感を感じるかと思いますが、暫しの間ご辛抱ください」

「わかりました。あとは貴方に任せます」


 そう言って殿下と呼ばれた少女は椅子に身体を預け、彼女からアルスと呼ばれた青年も正面に向き直る。


『...42...41...』

「これより、我が艦隊はワープゲートに突入する!これから向かう先は、帝国にとって未知の宙域である。総員、気を引き締めろ!」


 艦隊総司令官の初老の男から檄が飛ばされると、司令室はより緊張感が増した。

 無機質な機械音声によるカウントダウンも、その緊張感を増す要因であろう。


『30...29...28...』

「艦隊の相対位置を固定しろ」

「第1から第4の各艦隊、相対位置の固定を確認」

「第5、第6艦隊の位置固定を確認」

「第7から第10艦隊、固定完了!」

「...艦隊全艦の相対位置、固定しました!」


 ワープアウト後に艦隊が散り散りなったり、複数艦が同一座標に出現することを防ぐための相対位置固定が終わり、いよいよワープゲートへと突入する。

 未だかつて無いほどの超長距離ワープ。

 最新鋭の高速艦でさえ、限界までワープを多用して片道5年の道のりを、数分に短縮するために建造されたワープゲートを抜ければ、その先は帝国にとって未開の宇宙。

 自らの祖国の技術力を信用していても、初めての経験に緊張するのは無理もない。


『10...9...8...7...6...5...4...』


 このカウントが0になった瞬間、帝国の技術の粋と威信をかけた遠征軍10万人と、彼らを乗せる12万隻の軍艦は、目的地へと旅立つ。


「目標、天の川銀河太陽系!」

『3...2...1...』

「ワープ開始!」

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