ベイズ殺し
ベイズ殺し
「この辺では有名な資産家であるベイズが死んだ。」
オスカーはノイマンにそう告げた。
「その話は新聞で聞く限りだと、ベイズはバイク事故だと聞いている。山道のカーブで上手く曲がることができずに、崖下に落下死したんだろう?」
「ああ、それは事実だ。」
「なら、それを私に報告したところで、殺人じゃないなら面白みはないな。」
「なら、朗報になるな。
ベイズは殺された。」
「ほう、その根拠を聞かせてもらおうか?」
「実は、ベイズが普段服用していた薬が睡眠薬にすり替えられていたんだ。」
「なるほど。ベイズは薬の代わりに睡眠薬を飲まされ、バイク事故を起こしたから、殺人だと言う訳か。
なら、ベイズの薬と睡眠薬をすり替えた人間を推理してほしいという訳だな。」
「いいや、ベイズの薬と睡眠薬をすり替えた人間はもう分かっている。」
「じゃあ、解決じゃないか?」
「それがそうでもないんだよな。」
「面白くなってきたじゃないか! 事件の詳細をはじめから頼む。」
「分かった。そうしよう。
まず、ベイズがバイクで崖を落ちた状況についてだ。
ベイズはさっきも言った通り、資産家であるから、あらゆる所に別荘を持っている。ベイズが死んだ日も、ベイズが所有する別荘にいた訳だ。その別荘は、ガウス山の山頂に建てられていた。その山に前日から泊まっていた訳だ。」
「ガウス山って言ったら、ここらへんで1番高い山じゃないか? 標高は1500mくらいだったか?」
「ああ、その通りだ。だが、その山は道路が整備されているから、山頂までは車やバイクで向かうことができるんだ。
ただ、道路はつづら折りで、急カーブも多い。だから、交通事故が多いことでも知られている。
そんなガウス山の山頂の別荘からベイズがバイクで下山する途中で、カーブを曲がり切れず、崖下に真っ逆さまだ。
ベイズが落ちた崖は、断崖絶壁で、ベイズの死体は原形をとどめていなかった。それに、壊れたバイクの燃料に火がついて、ベイズの死体を燃やしたから、それはもう酷いものだった。
この詳細を聞いた時、私は事故だと思ったんだ。だけど、ベイズが曲がり切れなかったカーブを見てみるとおかしいことが分かった。
そのカーブには一切のブレーキ痕が無かったんだ。
いくら急カーブを曲がり切れないと悟ったとて、反射的にブレーキを掛けるものだ。だから、ベイズは何らかの影響で、ブレーキを掛けられない状態にあったことになるんだ。
そこで、ベイズの別荘を調べると、ベイズがバイクに乗る直前に飲んだ薬が睡眠薬だったことが分かった。
調査の結果、ベイズに雇われた家政婦のメディアンがベイズの薬を睡眠薬に取り換えたらしい。ベイズは食後に飲む高血圧の薬を小さな3段のタンスのような棚に保管していた。
その棚には高血圧の薬を入れてある棚の他に、ベイズが以前患っていた不眠症改善のための睡眠薬が入れられている棚があった。
メディアンはこの薬の棚を整理する際に、睡眠薬と高血圧の薬の棚を間違えて、入れてしまったみたいだな。そして、2つの薬はよく似ているから、ベイズがいつも通り高血圧の薬の入っている棚から薬を出して飲んでしまった可能性がある訳だ。」
「じゃあ、やっぱりそれはメディアンの不注意から起こってしまった事故なんじゃないか?」
「それがそうともいかないんだよな。まず、死体の状態が悪かったから、睡眠薬の成分を検出することは出来なかった。それに、棚を入れ替えたからと言って、ベイズが睡眠薬だと気が付いて、睡眠薬を飲まなかった可能性もある。」
「じゃあ、事故は起こらないだろう?」
「実は、睡眠薬の他にも、バイクのブレーキにも問題があったんだ。」
「ほう。」
「そもそも睡眠薬が効いていたとしても、ブレーキの1つもしないのもおかしいと思って、バイクについてメディアンに聞いてみると、バイクのブレーキが壊れていたことが分かった。」
「それじゃあ、ベイズはなぜブレーキが壊れたバイクに乗ったんだ?」
「それが、ベイズの別荘にはバイクが5台かあるらしいんだが、その中で1番古いバイクだけがブレーキが壊れていたんだ。ベイズはそのことを把握していなかったから、ブレーキの壊れたバイクを乗ってしまったわけだ。」
「ちょっと待て! バイクはベイズが管理している訳じゃないのか?」
「ああ、ベイズ自体もバイクは好きなんだが、ベイズの本当の家に置いてある。別荘にあるバイクは、ベイズの息子であるモードンの持ち物だ。
モードンはこのガウス山の別荘に実質住んでいる形だから、モードンのバイクもこの別荘に置かれている状況だな。そして、モードンはこのブレーキの壊れたバイクを誰も使わないだろうと放置していた訳だな。
そして、モードンはベイズにこの壊れたバイクのことを知らせていなかったから、ベイズはこのバイクを勝手に使われてしまったようだな。5台のバイク全てに鍵が付けられていたから、簡単に借りることができただろう。」
「じゃあ、モードンの連絡ミスが生んだ事故という訳か?」
「そう言う可能性もあるが……。」
「モードンが故意に壊れたバイクのことを伝えなかった可能性もあるってことか?」
「そうだな。
モードンも会社を経営しているんだが、今は赤字続いて、今にも倒産しそうらしい。だから、ベイズに資金援助を頼んだが、断られてしまったようだ。
だが、ベイズを殺してしまえば、息子であるモードンに遺産として、お金が転がり込むわけだ。」
「ベイズを殺す動機はある訳か。」
「その通りだ。
だから、モードンがベイズを殺すために、壊れたバイクの存在を知らせなかった可能性がある。それに、ベイズが出かけるとき、モードンはベイズのバイクに乗って出かけていたらしい。
こうなると、モードンがベイズに壊れたバイクを選ばせたみたいだろう?」
「なるほど、モードンは怪しいな。だが、もう少し情報を貰おう。
まず、ベイズはなぜ別荘から出かける必要があったんだ?」
「それはベイズの兄であるミーンズに忘れ物を届けるためだな。
さっき言ったメディアンとモードン以外に、この別荘にはミーンズが住んでいる。そのミーンズはある用事で出かけていたんだが、忘れ物をしていたらしいんだ。ベイズはその忘れ物を届けるために、急いでモードンのバイクを勝手に使って、出かけたようだな。」
「そのミーンズの忘れ物って言うのは何なんだ?」
「それは、金だな。
ミーンズもモードンと同じく借金をしていたようなんだ。それも銀行では貸してくれないから、バックにマフィアがいるような闇金っぽい所だ。だから、ベイズはミーンズが心配で忘れた金を届けに出かけたようだ。
そして、ベイズが死んだ頃、ミーンズは闇金に持っていく金を忘れたから、大けがをして病院に運び込まれていた。」
「ミーンズにもベイズを殺す動機はあるようだな。」
「だが、ミーンズはベイズに金を貸して貰おうとはしなかったみたいだな。兄としてのプライドだったのかもしれないな。」
「なるほど、容疑者はメディアン、モードン、ミーンズの3人か。
……最後に1つだけ、別荘に異常はなかったか?」
「別荘に異常?
……しいて言うなら、別荘の煙突に鳥の巣があったよ。」
「煙突ということは、その別荘には暖炉があった訳だ。」
「そうだな。ベイズの部屋にも暖炉があった。だが、ミーンズが鳥の巣を取り除くのは可哀そうだから、暖炉は使わないでおこうとしていたそうだ。
それに、もし、暖炉を使ったなら、暖炉の上の鳥の巣が焼けてしまうし、暖炉の煙が部屋中に溜まって、窒息死してしまうかもしれないしな。
……そういえば、それをベイズに伝え忘れていたとミーンズが言っていた気もするな。」
「なるほどな。
……犯人が分かった!」
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梨子はここまで書き終えた所で、筆をおいた。
「……犯人が分からない。」
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