第4話 隣国に入る
「じゃ、勇者も聖女も元居た世界の友達?」
「そうだけど……友達じゃない……かな」
これ以上は聞かない方が良いかな。傭兵たちの間でも勇者も聖女もあまり評判が良くないからそう言うことなんだろう。
気がつくとだいぶ時間がたっていた。そろそろ移動するか。
「ねぇ、私にできることって何だろうか?」
心細そうにリンが聞いてくる。俺は答えを持ち合わせてないけれど、こんな小さな子を見放すほど鬼畜ではないつもりだ。
「まずは隣国に入る。それからだな。よかったら、俺の故郷まで行くか?田舎だがいいところだぞ」
「なにそれ、プロポーズ? だめだめあたしは重い女だからやめときな」
そう言った後小声で、
「ありがとう」
と言ったのを俺は聞き逃さなかった。
川を渡り森を十日ほどかけて抜ける。気がつくとリンと一緒に行動するようになってだいぶたつ。
森の中にところどころ人の気配がするようになった。アムカ国とちがい隣国であるキーチ国は適時盗賊狩りをしている様だ。感じる人の気配も薬草採取の薬師と護衛か狩人のようだった。そして森が切れたところから遠くに畑や建物が見え、さらに進むと川と橋と城壁が見えた。この辺りを治める辺境伯の砦だ。人がいるところに行くためにはこの橋を渡り砦で身分証を出す必要がある。俺は傭兵だからいいけど、リンはどうしようか、宮廷魔法使いの身分証はさすがに使えないだろう。
そう思ってたら金を払ったらあっさり通してくれた。うーん、でもどこかでリンの身分証を作る必要があるな。
砦を過ぎると小さな町がある。まずはここで宿をとろう。ただ、手持ちの金が心もとないのであまりいい宿は取れない。更に何があるのか宿はいっぱいだった。ということで俺は一部屋しか取れなかった。
「あ、あのな、同じ部屋だけど」
「まぁ、蜘蛛さんがいるから大丈夫。ベッセルも命が惜しいでしょ」
信頼されているのかされていないのか。
宿に荷物を置いて市場に行く。手持ちのウサギの毛皮を売るためだ。しかし、森に近いだけあって売値が安い。だから買値も安いだろう。とはいえいくらか手持ちがないと心もとない。ここは森ではないのだ。
なので、いくつか売って路銀の足しにすることにした。
「おじさん、もうちょっと出してもらえないかな、ほら、傷が少なくていい毛皮だよ」
うるうる目で店主を見あげるリン。
「あー、わかった、これでどうだ。これ以上は出せないぞ」
「やったぁ、ありがとうおじさん、男前!」
「はぁまいったな」
そう言いながら鼻の下を伸ばす店主。
リン、怖い子。それでも無茶な金額じゃないしまあいいおとしどころだな。リンの狩り方が良いので傷が少ないのは確かだからあちらにとってもいい商売だろう。
とはいえ、娼館に行くだけの金にはならなかったのは残念だ。まぁリンが狩ったものだから半分俺に分けてくれただけでもありがたい。リンには感謝している。
宿の食堂は居酒屋も兼ねていてにぎわっていた。久々で食べる人の料理した食事は上手かった。何より酒を飲めるのがありがたい。
「おぃ、あんたらアムカ国から来たのか?」
おれは話しかけてきた男たちに目をやる。商人らしい男が二人俺たちの前にいる。
「だれだ?」
「おぉ、すまん。俺たちは南からキーチに入ってな。俺はアッサム、こいつはニルギリ。それでアムカに行こうかと思ったがちょっと気になる話を聞いてな」
そう言うと一人が店員を呼び酒を2つ頼んだ。
「おごりだ」
そう言うがリンには酒は飲ませられないな。リンも首を振っている。
「わるいがこいつは酒が飲めないんだ。俺だけ頂く」
俺が言うと二人は気を悪くしたそぶりを見せずもう一杯酒をそして果実水を頼んだ。
俺はアムカ国内の様子、それから、森で見かけた盗賊のことも話した。
「なるほどな。盗賊も気になるがきな臭いのはもっと気になるな。ありがとうよ」
そう言うと二人は離れて二人で相談を始めた。どうやらアムカ国にはいかずに別な方向に行こうというのか。
二人との話が終わると化粧の濃い女性が寄ってきた。
「お話終わった? ご一緒していいかしら」
いつもだと喜ぶところだが懐も寂しいしリンを見るとそろそろ眠さの限界のようだ。
「悪い、こいつがいるから、おーい、そろそろいくぞ。兄ちゃん、勘定」
女性は俺とリンを見比べてにやにやと笑った。
「なるほどね、そうか、私はお邪魔だったね」
何を言ってるのかその時は気がつかなかった。あとから考えると俺は稚児好みだからお前は要らない、って受け取ったんだな。
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