黒後家蜘蛛の勇者
山田ジギタリス
第1話 逃げる傭兵
村で聞いた道を進むと言われた通り大木とその周りの広場にたどり着いた。
「でけえなぁ」
思わず声に出してしまうほど大きな木。そのまわりに結構な人数が野営できそうな広場があった。
俺はベッセル。ライチ王国出身でアムカ王国に傭兵として出稼ぎをしていた。しかし、アムカ王国は勇者を召喚してからきな臭くなり、それに加えてまずいことをやらかしたので見つかる前にと母国に帰る途中だ。
国境近くに行こうとして出国が厳しくなったとの話を聞き、黑い森を抜ける道を使うことにした。こちらはまだ監視の目が緩いと聞いたからだ。
木を見あげながらここで一晩過ごすか。そう思いながら木のまわりをまわっているとフードを被った人が倒れていた。その体には大量のクモが集っている。あぁ、もう手遅れだな。おれはそれを見なかったことにして死体から離れるように回れ右する。さて、ここで死体を我慢して一晩過ごすか、それとももう少し頑張ってこの先にあるという泉まで行くか。泉に着く前に夜になりそうだから危険ではあるな。
「おぃ!」
死体から背を向けていると後ろから声が掛かった。恐る恐る振り返るとそこには汚いフードを被った子供が立っていた。
「おまえ、見なかったことにしようとしたな」
子供のまわりにはクモは居なかった。
「まぁいい。この森を出るまででいい、一緒に行ってくれ」
「おまえ、人にもの頼む態度じゃないな。お断り……」
俺の横を何かがシュッと通り抜け後ろで地面が弾ける音がした。振り返ると地面が濡れている。なんだ? もしかして魔法?
「水魔法も少しは使える。役に立つぜ」
子供がにやりと笑った。そのあと盛大に腹の音がして顔が赤くなった。
「す、すみません、何か食べるものを」
途端に弱気になる少年。まぁいいや、水魔法が使えると飲み水に困らない。これは大きなメリットだ。それにさっきの様子だと多少は狩りの時に役に立ちそうだ。おれは食料を分けてやると奴は魔法で水を出して携帯食をふやかし柔らかくしながら食べていた。
子供の名前はリン。アムカ王国で魔術師として働いていたけれど、どうもきな臭くなってきたのと、使える魔法がしょぼい(本人が言っていた)ので身を護れないと思って逃げる途中だそうだ。たしかに声からするとまだ声変わりもしていない少年だ。前線に送り込まれたら慰み物だろう。前線では男女関係なしに弱い奴は慰み物になる。
「俺の名前はベッセル。見ての通り傭兵だ。きな臭くなってきたから逃げるのは一緒だな」
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