パクス・ミカーナ!!!

ブンダマン

第1話 夏はやっぱり焼きみかん!

2024年(令和6年)8月某日 宮城県宮城郡利府町りふちょう

僕の名前は黒松清くろまつきよし。大学一年生のチェリーボーイだ。今日は地元の利府町りふちょう梨神祭なしがみまつりという夏祭りが開催されていて、友人の志位しいみかんが焼き鳥の屋台でお手伝いをしているらしいので暇つぶしに来てみたんだ。


あ、やってるやってる。志位みかん、おかっぱ頭で背の小さい女の子で、ガキみたいな性格をしている子なんだ。一生懸命、焼き鳥を焼いてる。隣にいるのは岸田武雄きしだたけお。広島弁を喋る眼鏡をかけたオールバックのオッサンで町内で広島風お好み焼きの店を経営してるんだ。僕は髪を切る時はいつもヘアモードタナカという床屋で切ってるんだけど彼もそこの常連でよく会うんだ。


焼き鳥の屋台の列に並ぶ。僕を含めて4人くらいが並んでいる。僕はスマホをいじった。焼き鳥の匂いがする。美味しそう。僕の目の前の人が焼き鳥を受け取り、列から離れる。僕の番だ。タケオさんと目が合う。


「お、キヨシじゃねぇか!」

「どうも。」

みかんが手を止め、顔を上げる

「おお、キヨシ!」

「やぁ、暇だから来たよ。ももを2つ。」

「あいよ、400円ね。」

おお、やはり夏祭りは高いな。


僕は財布から400円を取り出して渡した。タケオさんから焼き鳥2本の入ったプラスチックの容器をもらった。


「どうも、みかんとタケオさん、頑張ってね。」

「「おう!」」


僕は屋台から少し離れたベンチに座って焼き鳥を食べた。美味しい。食べ終わると容器をゴミ箱に捨て、また歩き始めた。う~ん、あんまり無駄遣いもしたくないし、どうしようかなぁ。僕は耳の裏を掻きながら会場をうろついた。


お、あれは。眼鏡をかけたおさげ髪の女の子と姫カットの女の子がみかんの焼き鳥の屋台の方向に向かって一緒に歩いてる。おさげ髪の方は小池晃乃こいけあきの、おとなしくてやさしい子だ。姫カットの方は旭ヶ丘芽久あさひがおかめぐ、性格はおとなしい方ではあるんだけどアキノちゃんほどではなくて、どこかサバサバしている印象のある子だ。


2人ともみかんの友達なんだ。でもあくまでみかんの友達であって僕とは友達じゃないから、なんか気まずいなぁ。僕は顔を下に向けた。2人とも僕に気づかないで通り過ぎて行った。ふぅ、良かった。


ちなみにみかんとアキノちゃんは高校が一緒で美化委員会に入っていたらしく、みかんは委員長を、アキノちゃんは書記を務めていたんだって。その名残でみかんは今でも美化委員会や高校時代の同級生から委員長って呼ばれていて、アキノちゃんも一部の人から書記と呼ばれているんだ。ってことは、みかんは美化委員会委員長として学校で有名だったのかな。


僕とみかんは大学に入ってから知り合った中だからな。まぁ彼女との出会いは話すと長くなりそうだから今回はやめておくよ。彼女は誰にでも話しかける子でね。話しかけられた時、驚いたなぁ。


僕はまた会場のベンチに座ってボーっとした。

あ、僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前は黒松清くろまつきよし寸田大学ずんだだいがくに通う一年生のチェリーボーイだ(彼女募集中)。宮城県利府町りふちょうで育ち、今も住んでいる。将来の夢は決まっていない。好きな食べ物はあんかけ焼きそば、嫌いな食べ物は梅干しだ。よろしく。


ボーっとしているとカバみたいな顔をしたオッサンが歩いているのが見えた。ヒッポ先生だ。ヒッポ先生は僕が小さい頃から通っているヒッポ・ナンデモ科病院のお医者さんで名前の通りなんでも治してくれる天才先生なんだ。僕は立ちあがった。


「ヒッポ先生。」

先生がこっちを見た。

「おお、キヨシくんじゃないか。1人で来たのかい?」

「はい、できれば彼女と来たかったですね。」

「フォッフォッフォッ、いつかできるさ。」

「あ、そういえば、みかんがタケオさんの屋台で手伝ってるらしいですよ。一緒に行きます?」

「ああ、私もそれを聞いて来たんだ。行くかね。」

「ああ、じゃあ行きましょう。」


僕とヒッポ先生は焼き鳥の屋台に向かって歩いた。

「大学生活はどうかね。」

「まぁ、普通ですね。」

「普通か。まぁ社会に出たら遊ぶ時間が少なくなるからな。存分に楽しみたまえ。」

「はい。」


焼き鳥の屋台に着いた。タケオさんと目が合った。

「お、ヒッポ先生じゃねぇか。あ、キヨシまたか。」

僕は会釈した。

「どうも、みかんちゃんがここでお手伝いしてると聞いて来たよ。」

「おう、みかんは今休憩を…」

タケオさんがそう言いかけた瞬間、みかんが屋台の裏から出てきた。


「おお、ヒッポ先生!あ、キヨシまたおめぇか!」

「やぁ、みかんちゃん。」

「ども。」

「おお、丁度ええところに来た。わしゃ休憩するけぇ、頼んだぞみかん。」

「あいよ。」


タケオさんは屋台の裏に行った。

「夏祭りの手伝いなんて偉いねぇ。」

「いやぁ、そうでもねぇよ。んでヒッポ先生なににする?」

「それじゃあ…皮を3本。」

「あいよ!」


みかんは焼き鳥を焼き始めた。

「あれ、動かねぇなぁ。」

「どうしたの?」

「いやぁ、焼き鳥を焼く機械が動かねぇ。」

「フォッフォッフォッ、タケオさんを呼んだ方がいいんじゃないかい?」

「いやぁ、たぶんそこまでのことじゃねぇと思うぞ。」


動かない。

「ちっ、くそぉ、この!この!」

みかんは機械を叩き始めた。

「ああ、みかんちゃん危ないよ。」

「フォッ、やはりタケオさんを呼んだ方が…」


バン!バン!バン!みかんは機械を強く叩いた。

「あああ、みかんちゃんその辺にしといた方が。」

「あ、治ったかも。キヨシ見てみろ治った…」

その瞬間、ドガーンと隕石が落ちたみたいな大きい音がした。

機械が爆発した!


目の前には炎に包まれたみかんがゆらゆらと動いていた。

「フォッ!な、なんてこった!」

「ああ、みかんちゃん!」


みかんが燃えている!これじゃあまるで焼きみかんじゃないか!

「ああ…あ…タスケ…」

みかんは燃え盛る炎に包まれながら、ゾンビみたいにゆっくり屋台の横に歩いた。

それを見た他のお客さんが悲鳴を上げる。


「何事じゃ!ああ、み、みかん!」

タケオさんが屋台の裏から飛び出す。

会場はパニック状態。燃え盛る焼きみかん、大慌てのタケオさんとヒッポ先生、失禁して泣く子供、スマホを焼きみかんを撮影するサングラスのお兄さん。

僕は声を震わせながら

「み、み、み、みんな落ち着いて!」

と言った。

「われが落ち着けぇ!」

タケオさんに怒鳴られた。


「ああ、そうじゃ!」

タケオさんは屋台の裏から消火器を取り出し、焼きみかんに向かって発射した。

「く、くらえぇぇぇぇぇい!」

プシュウゥゥゥゥ

一応、消化は成功した。


「み、みかんちゃん?」

消火器の煙から何か黒い物体が見える。全員が覗きこむ。

白い煙が徐々に消え、黒い物体の形が鮮明に見えてくる。


そこには変わり果てたみかん、いや、焦げみかんが倒れていた。

「そ、そんな…」

一度、静寂に包まれた会場であったが、再び子供は失禁し号泣、サングラスのお兄さんは4Kのビデオカメラを片手に熱心に焦げみかんを撮影していた。


「ヒ、ヒッポ先生、みかんは蘇生するんか?」

「フォ…試してみます…」

そこから焦げみかんの蘇生手術が始まった。

ヒッポ先生は謎の緑色の液体をカバンから取り出し、それをみかんに注射した。次にカバンから謎のスパイスを取り出し、みかんにかけた。さらにカバンから謎の塗り薬を取り出し、みかんに塗った。


「う~ん。」

「先生、みかんは蘇生できますか?」

「あ~む、仕方ない。奥の手を使おう。」

「「お、奥の手?」」


ヒッポ先生はカバンの中からタランチュラのような蜘蛛を取り出した。

「せ、先生、なにを…」

「ショック療法!必殺・タランチュラの一撃!!!」

「「ワオッ!」」

ぐさっ!

タランチュラが焦げみかんの胸を刺した。


その瞬間、倒れていたみかんは立ちあがり、息を吹き返した!

「んはぁ!」

「みかんちゃん!」

「おお、聞きかえったでぇ!」


会場がざわめく。

「すごい。」

「天才だわ。」


「みかんちゃん、大丈夫?」

「う、うん…」

みかんから焦げた皮が自然と剥がれる。

「心配したでぇ、みかん。」

「お~ん。」

「フォッフォッフォッ、無事で何よりだよ。」


結局、その日はお祭りは中止ということになった。


翌日

「いやぁ、昨日はすごかったねぇ。」

「おん、オラが一番びっくりしてるよ。」

「それにしてもヒッポ先生すごいなぁ。」

「おん。」


僕とみかんはショッピングモールのフードコートで昼ご飯を食べていた。

「それにしてもみかんちゃん、肌めっちゃ綺麗になったね。」

「おん、オラも今日顔洗う時、鏡の自分見て驚いたよ。」

みかんの焦げの皮が剥がれたおかげかみかんの肌が綺麗だ。


「触っていい?」

「いいぞ。」

僕は人差し指をみかんのほっぺにつけた。

あ、すべすべしてる。


「どうだ?」

「すべすべ。」

「だろ?」

「うん。」

「いやぁ、すべらしい肌になっちゃったなぁ。」

あ、すべってる。


~終わり~




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