第3話 悠切り抜き動画を開始する
――幼稚園にて。
「ゆうくーん。きのうのだんじょんみたー?」
「だんじょん?ダンジョン配信かな?ええと見てないよ」
「えー!すっごいかっこういいのにー」
「そ、そうなんだ」
――小学校にて。
「春乃!遂にあいつ等がAクラスダンジョンに挑戦するらしいぜ!楽しみだな」
「ごめん、あいつ等って誰だっけ……それにAクラスダンジョン?」
「おいおい、なんだよ前話しただろー。今一番アツいダンジョン配信者だって」
「そういえば前教えてもらったっけ……でもまだその前の動画見終わってなくてさ……」
「はー!?なんだよ、それ~。ま、いいや。次はチェックしておいてくれよなー」
「うん、頑張って見るよ」
「いや普通に楽しんで視聴しろって!」
正確には友達を上手く作ることができない生活を送っていた。
なにせ、『ダンジョン配信』の話題に全く食いつかないのである。
『ダンジョン配信』は人それぞれの好みもあるものだから、好き嫌いが相手と合わずに、喧嘩になることはありえる。
小学生男児同士が、ダンジョン配信者ごっこをしてケガするなんてことはしょっちゅうである。
しかし、
『ダンジョン配信』に一切の興味を持てない彼は、周囲の人間から完全に孤立していたのである。
「新しい環境なら、
「そうね、それとダンジョン探索者や配信者の仕事内容なんかを教えてあげた方が良いのかしら……」
「まぁそこは
「そうですね、あなた。急に変わると
だからこそ
そこで、中学校に進学した彼は必死に『ダンジョン配信』を視聴した。
興味を持てず、面白いと思えず、憧れが抱けないとしても、それでも見ていれば周りの話題にはついていける。
そうやって
両親も、人並みに『ダンジョン配信』に関わり始めた息子を見て、すっかり安心していた。
けれど、
興味が一切持てないことを継続するのは、凄まじく大変だった。
(何より、スプラッターな配信もありえるから、見終えたときの衝撃が辛い……学校に行って、配信動画見て、寝る。勉強とかしてる余裕がない……)
そんな風に追い詰められたある日のことである。
今日もどうにかこうにかクラスメイトとの会話についていこうと陰鬱な気持ちでいる
「お前、Bクラスダンジョン到達したブレイバーズすげぇってそれ切り抜き動画で見たのかよ!?」
「あ、いや。昨日はちょっと時間なくてさ……」
「駄目だろそれは!紹介や解説切り抜きならともかく達成の瞬間を切り抜きで見るってそれってどうよ!?」
「ゴメンって。ちゃんと今日帰ったら配信のアーカイブで見るって。ダンジョン配信者さんへのリスペクト忘れてないって」
「悪いって分かってるならいいけどなー。ホントマナー違反だからな、気をつけろよお前」
普段配信動画の趣味の合う、親友という関係性のクラスメイト二人が言い争う姿を見て、
そんな彼を気にかけてか、別のクラスメイトが話しかけてきた。
「
「急に二人が喧嘩始めたかと思って……」
「ははっお前からするとマジ喧嘩に見えたか?問題ないって、あの二人はいつもあんな感じだから」
「そうかな。普段ならダンジョン配信の話で揉めることないと思うけど……」
「ま、確かにあの二人は推しの配信者も好き嫌いも全く同じだからな。ただ切り抜きに関してはちょっと意見が違うんだろ」
「切り抜き……?」
聞きなれない言葉に
「ほら、最近ちょっと出てきてるだろ、ダンジョン配信の内容を一部切り取って、編集して一つの動画にするやつ。切り抜き動画ってやつだな」
「えっと全然知らないや」
「そっか。まぁ無理して見るもんでもないと思うぜ」
「あいつらも言ってたとおり、ダンジョン配信に関係ない奴が勝手に動画を利用してるのもどうかって意見もあるからな。見ないに越したことないだろ」
「ルール違反してるってことなのかな?」
「一応問題はないらしいぜ。ダンジョン配信の勉強用として、そもそも動画の利用が許されてるって聞いたことあるし。いや正確には知らんけど」
そう言って
見ないにこしたことはない、とそういうクラスメイトの言葉だったが、
帰宅するとすぐさまダンジョン配信動画投稿サイトを検索する。
普段であれば話題の動画を確認するだけで手一杯だったが、今日の
(これか……えっとブレイバーズBクラスダンジョン切り抜き。時間は……14分!?)
通常、配信は数時間から十数時間。下手すれば数十時間になる事さえもある。
そこからどこを見ればいいの必死に確認してきた
(凄いぞ、これ……!一番の盛り上がりがどこなのか誰でもわかるし、編集されているから凄い見やすい。何より……)
そうしているうちに
(何よりも切り抜き動画なら俺、見ていて楽しい!楽しさが分かる!)
(これなら俺、やっていけるかも……!)
そうしてその日は夜遅くまで動画を視聴すると、これまでにないほどにぐっすりと眠れた。
明日は、クラスメイトとダンジョン配信の動画で盛り上がろう。
これまでには少しも考えたこともないようなことを思いながら。
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