聖獣さまの番認定が重い

有沢真尋

童話

第1話 異類婚姻譚(カエル)

 物語の中で、カエルは言うのです。


「王女様と一緒に食事をして、王女様のベッドで一緒に寝たいのです!」

 ケロケロ。


 テーブルについたカエルは王女様と向かい合って美味しそうにスープやパンや肉を食べ、食後は当然のように王女様についてそのお部屋へと向かいます。

 ぽふ。

 天蓋付きベッドに勢いよく飛び乗り、羽根枕の上にどんと座って、ひれのついた手でぽん、ぽん、と枕を叩きました。

 ケロケロ(こっちにこいよ!)。


 誘っているようです。

 それまで我慢に我慢を重ねてきていた王女様は、そこでついにブチ切れて叫ぶのでした。


「いやああああああああああああああ」


 叫んだ拍子にカエルを摘まみ上げ、思いっきり壁に投げつけます。

 びたんっ。

 打ち付けられたカエルは、潰れてぐちゃぐちゃになることもなく、ずりずりと壁を伝って落ちていきました。

 そして、床に触れるか否かのタイミングで、突如として麗しい青年へと姿を変えたのです。


「呪いを解いてくれてありがとう。結婚しよう」

「あの……、いま殺す気で投げました。そんな物騒な相手に求婚して大丈夫ですか?」


 王女様は大変正直にご自分の思いを告げて確認をしましたが、青年は笑顔で答えました。


「問題ないよ。その強い思いが呪いを解く力となって働いたんだね。僕はこう見えて隣国の王子なんだ。カエルじゃないから安心して。結婚しよう」


 二言目には「結婚しよう」と言う王子様はすでにその気になっているようでしたが、王女様は考え込んでしまいました。


(たしかに見目麗しい方ですし、カエルではないのですけど、「人間だから」という前提をクリアしただけで求婚が成功すると信じ切っているこの自信、すごいです……)


 しかし童話の中の王女様は、結局、そのまま押されまくって結婚してしまうのでした。

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